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聖なる夜の来訪者

 

 昨日は酷い目にあった…

 限に(無理矢理)連れていかれ、着いた場所で置いていかれ、よく知らない怖い女の人に色々された…

 具体的には、着せ替え人形のようにされた。

 着替えて出てくるたびにその女の人は、鼻息を荒くさせて抱きついてきた。なぜだか分からないがアリアはとても恐怖を感じた。

 なので、今日は限が無理矢理連れて行こうとしてきたらアリアは全力で抵抗するつもりである。


「お、おはよー、昨日はその、すまんな…」


「オハヨー、ゲン」


 噂をすれば、のそりと寝ぐせだらけの髪の大柄な男が現れた、彼は私の居候先の家主こと、限だ。

 限はアリアを家に置いていてくれている。それも、嫌な顔一つせずにだ。

 もし、悪いことを考えている人ならアリアはこの男からすぐに距離を取っていただろうが、この男は顔は少し怖いが優しい性格のようだから信頼している。

 だが、まだ全面的に信じている訳では無い、さすがに出会って一週間程の人を信じれるほどアリアは馬鹿では無い。

 なので、今はこの男の言っている言語をとりあえず覚えて何を言っているか理解した上で、今後の方針を決めようと思っているのだ。

 私は魔法を理解するために古代語などを勉強した事があり、その時は二週間ほどで完璧に覚えられたから今回も頑張ればいけるだろうと思っている。

 実はアリアは文字を書くだけならもう覚えてしまったのだ。

 なので、限がアリアにくれた本の数々はもう必要なくなってしまった、だが、せっかくなので取っておくことにした。

 いつか使えるかもしれないし、本を媒体とした魔術もあるので使い道はあるのだ。


「どうしたの?深刻そうな顔して?」


 アリアが考え事をしていると、限が不安そうに顔を覗き込んでいた。

 通じない言葉で説明するわけにもいかないので、アリアが首を横に振り笑うと、限は安心したような顔になりどこかに行きかけてその場で立ち止まってしまった。


「あ、そうだ…今日はアリアは置いていくか。あの人がまた狂ったら困るのは俺達だしな~…」


 限はブツブツと何かを呟きながら、くるくるとその場を回っていた。

 本当にこの人を信じてよかったのだろうか?と不安に駆られるが大丈夫だとアリアは思い込ませる。


「まぁ、いいや。アリアは置いて行っても変なことしないだろ…たぶん、きっと、そうだと嬉しい」


 アリアの名前を言いながらまた、ブツブツと呟いていた。

 少し怖くなってきたアリアだが、限以外の人は誰もアリアの話を聞いてくれなかったのだから信じるしかない。


「じゃあ、今日は俺だけで行くよ。留守番頼むな」


 限がアリアの頭をワシワシと撫でながら、微笑みながら話しかけてきた。

 昔、私が「お父様のお仕事に付いていくと行く!」と駄々をこねるとお父様はいつも決まって、「いい子に留守番していなさい…いい子にしていたら土産話を聞かせてあげるからそれでいいかい?」とゲンのように頭を撫でててくれたものだ…と昔のことを思い出してしまった。

 今はいない父の姿を思い出し、涙が出そうになるが堪える…

 私の事情でゲンを不安にさせてはならない。


「おいおい、大丈夫か?何か思い出したのか?具体的には昨日のこととか?」


「ダイジョウブ!ゲン!イッテラッシャ~イ !」」


 最近覚えた日本語を使い何の問題も無いことを伝える、限に心配をかけまいとするアリアなりの気遣いである。


「大丈夫って…日本語分かるのかよ」


 多少苦笑いしつつも、なんの問題も無いだろうと判断した限は玄関へと歩き進め、アリアの方を向いて…


「行ってくる…そのなんか恥ずかしいな」


 小さな声で恥ずかしそうにボソッと言葉を吐き出した。

 そして、靴を履き、ゆっくりとドアを開け出て行った。


「何とか誤魔化せました…よかったです」


 すでに出て行ったこの部屋の住人が先ほどまでいた玄関に声をこぼす。


「さて…洗濯をしないといけませんね!センタクキとやらはゲンが使っているのを見たことあるのでたぶん使えるはずです!そうと決まれば、まずゲンが脱ぎ散らかした服を回収しなければ…」


 普段の限ならばきれい好きなので脱ぎ捨てたりはしないが、今日はそこまで気を回す時間が無かったのである。

 アリアは泊めてもらっているお礼に家事をしようと考えていた。

「お金が無い今、家事をして恩返しするしかないのです!」と改めて決意を固めながら衣服を回収していく。


「さて…集め終りましたし、センタクキとやらに入れて洗ってもらいましょうか!」


 アリアは自動で洗ってくれる洗濯機に期待を膨らませつつも、少し不安な気持ちにもなっていた。

 だが、同時に自分に上手く扱えるのかと不安な気持ちも出てきた…

 だが、洗濯機を使わないと大変な労力になるのでアリアは覚悟を決める。

 カゴに放り込んだ洗濯物を洗濯機に投げ入れる。

 ガタンガタンと独特の機械の音を響かせていた…


「なぜ魔力も何も注ぎ込まなくても動くのでしょうか?何か別の力が働いてるのは確かですね」


 ボタンを押すだけで動く洗濯機に驚きつつも関心する。

 そして、ぐるんぐるんと回る洗濯機を見ていると次第に眠くなったのか、ウトウトと首を縦に振っていた。

 それから数分経経った頃、アリアは夢の中に行ってしまっていた…




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 目の前には燃やされ、蹂躙されつくされた民家が広がっていた…

 逃げ惑う人々、それを追い、斬りつけ、残虐の限りを尽くす魔物。

 そして、一般市民を守るために無理だと分かっていながら戦い続けている兵士たち。

 ここアルトリア国は今魔物による襲撃を受けていたのだ…


 戦場から少し離れた所に位置するアルトリア城の門付近に二人の人が言い争っていた…


「お嬢様、ここはもうダメです!お嬢様だけでもお逃げください!」


「嫌やよヘール!私だって誰かを守るために魔法を覚えたのよ!だから、私も戦います!」


「お嬢様!よくお聞きください!あなた様のお父様が戦いに出た今、あなた様は死んではならないのです!国は滅んでも立ちなおせます!ですが、導く王たる器を持つ者がいなければ国は立ち直れません!なのであなた様には死んでもらっては困るし、何より国王陛下に頼まれました故」


「私はそれでも戦います。民を盾にし、逃げるなど王とは名乗れません!民が滅びるときは私も一緒に滅びる覚悟は出来ています!だからどけてください!」


「お嬢様、どうかお聞きください!私ヘールは、お嬢様に仕えて五年と短いですがお嬢様の為にこの剣を振るい死ねるのなら本望です…私が好きでしているのでお嬢様が気に病むことはありません!」


 アリアの目の前にいる装飾が施された剣と鋼の甲冑を装備した高身長の女性が突如、声を荒げて説得してきた。

 彼女の名はヘール、五年前にアリアの側付き騎士となった女性だ。

 ヘールはアリアにとって困っていると助けてくれる姉のような存在だった…

 そんな彼女が覚悟を決めて言ったのだ、アリアに嘘を伝え悲しめないために。

 自分はもう死ぬと語ったのだ。それもアリアの為に…


「嫌よ、嫌!何で簡単に私の為に死ぬとか言うの!あなたの人生を私の為に使わないで!」


「それは、あなた様が私の人生よりも価値があるためです!私の人生でお嬢様が救えるのなら何度この瞬間を繰り返したとしてもこの選択を致します!」


「なんで…なんで、そんなに簡単に言うのよ…私なんてまともに戦う力も持っていないのに!」


「いえ、お嬢様は戦う力よりも大切な物を持っております…それは他人を思いやる優しさでございます。私にはとても出来ないことです」


「そんな力じゃ…ヘール、お父様、そして国の民を救えないのよ!そんな力じゃ…、そんな力じゃ…」


「その力でいつか平和な世界を作り上げてくださいお嬢様、これが私の最後で最初のお願いです。だから泣かないでください…」


 アリアは目から大粒の涙をボロボロとこぼしながら立ち尽くしていた。

 自分の無力さを痛感していた…

 なぜ、自分を慕ってくれてる配下すら救えないのだろうか…

 なぜ、この世界はこんなに残酷なのだろうか…

 そしてある結論にたどり着いた…


「分かりました、私がこの世界を変えます…ヒッグ、ヒッグ…だから、だから…もう一度生きて会ってください…約束ですよ?」


 覚悟を決めたアリアの言葉にヘールはニッコリと微笑み言った…


「はい、必ずや生きてお嬢様ともう一度会います…騎士ヘールはこの約束を死んでも守ります!」


「死んだら果たせないじゃないですか…ふふ、ヘールは相変わらずね…」


 相変わらずの冗談に少し不安がやわらぎ、アリアの口から笑みが零れた…


 覚悟を決めたアリアは城の宝物庫から、この国のかつての英雄が残したと言われる“()()()()()()()”を背負い、ヘールに近づき…

 二人は、抱き合い互いに「少しの間じゃあね…」と言い残してそれぞれの道に向かっていった。

 私は火の街に飛び出していくヘールに不安を感じたが、大丈夫と自分に言い聞かせてその場を立ち去った…






 アルトリア国と隣国との境界線に存在するの風龍の谷まで辿り着いた。

 その名の通り風龍(ウィンドドラゴン)が住んでいるのだが、今日はなぜだか一匹も見えない…

 だが、アリアにとっては都合が良かった、わざわざ風龍(ウィンドドラゴン)に注意しながら橋を渡らなくていいのだから。


「はぁ…はぁ、ここまで離れたら大丈夫ですかね。…ヘール無事ならいいんですけど」


 息を上げながら別れた配下の心配をするが、すぐに彼女なら大丈夫だと信じ込む。

 こんなことを何度も繰り返しつつ何とか逃げ延びている…

 アリアも生き延びて会わないといけないので彼女だけの心配をするわけにはいけないが、やはり考えてしまう。


「オイ…そこの人間。旨そうな匂いがプンプンするな…」


 すると、どこで匂いを嗅ぎつけたのか魔族が迫って来ていた。

 顔はイノシシのようで、太い腕に鋭い爪を持ち、鈍いか輝きを放つ荒い金属で出来た鎧を着こんでいた。

 魔族はわざとらしく鼻をヒクヒクさせていた。


「また魔物ですか…すいませんけど、あなたじゃ私には勝てないので逃げてくれると助かるのですが?」


「弱い人間を前に逃げるとでも?命乞いをするならちゃんとしろよ?」


「あなたこそチャンスはもうあげませんよ?いいんですか?」


「ぎゃはは!こいつバカだ!俺が誰だと「“風刀(ウィンド・カッター)”!」ぎゃー!腕がァァ!」


 イノシシのような顔をした魔族がアリアをバカにしたようにわめいていたが、アリアの逆鱗に触れた魔族が放たれた風の刃により腕が体から切り離されていた。

 切り飛ばされた腕からは大量の血しぶきが舞っていた。

 そして、アリアは勝ち誇ったように言った…


「私はあなたのような者に構っている暇は無いのです!一刻も早く同盟国に助けを求めなくては…」


 その時、魔族がアリアを笑った。まるで無駄な足掻きをしている者をバカにするのかのように…


「おまえバカか?俺達がここにいるってことはあの国はもう滅んだんだよ?ぎゃはは~!」


「そんなわけ…な、無いです!ヘールやお父様はあなた達のような輩には負けません!」


「お前の親とヘールとやらは知らんが、アルトリア国の国王は死んだぞ?結構しぶとかったがな?まぁ、俺達の軍の半分も減らしたバケモノではあったがな~」


 突然知らされた父親の死にアリアは動揺を隠せなかった…

 アリアの父親はアルトリア家の血筋の者では無いが、とても強くこの世界で一番強い剣士とさえも評されていた。

 そんな父親が死ぬなど微塵も思っていなかったアリアは悲しみを通り越し、何も考えられず棒立ちになった…

 そんなアリアの隙を魔族は見逃すわけも無く、斬り落とされていない方の腕の爪を使い切り裂いた。

 無抵抗なアリアはもろにくらい、下腹部に大きな傷を作ってしまう…

 そして、よろよろと立ち上がり逃げようとするが、腕を斬り落とされた魔族の怒りはそんなものじゃ収まるわけも無く、後ろから蹴り飛ばす…


「おい!俺のことを散々バカにしてくれたなおい?このお礼はたっぷりしてやるぜ」


「ぐ…私はこんな所では死ねないのです!“風の妖精よ、私に力、知恵、勇気を授けたまえ…私の道を邪魔する者を吹き飛ばしたまえ!“妖精(フェアリー)()暴風(ストーム)”!」


 呪文の詠唱と共にアリアの背後から薄緑の女が現れ、そして全てを吹き飛ばす暴風を生み出した。

 目の前にいた魔物はどこかに吹き飛ばされてしまった…

 もちろん至近距離で撃ち込んだアリアの体も反対の方向に吹き飛ばされてしまった。そして、運の悪いことに暗い谷に落ちてしまったのだ…


「ごめんなさいヘール、私約束したのに…約束も守れないなんて王女失格ね…」


 暗い崖に落ちながらそんな後悔の言葉しか出なかった…

 自分が死ぬことより約束のことしか出なかったのだ。







 だが、いつまで経っても衝撃が伝わってこなかった。

 目を凝らして見ると、周りは先程の戦火とは打って変わって、チカチカと目が痛む光で溢れていた…

 楽しそうに手を繋いで笑っているカップル、一人特に何もすることが無いのにウロウロしている人など様々な人がいた。

 ここはもしかしたら天国では無いのかもしれない!アリアはそう思い、急いで立ち上がろうとしたが下腹の傷がズキズキと痛みだしたのに気づいた。

 一刻も早く助けを呼ぶために、急いで治癒魔法を使い傷を塞ぐ。


「ここの方達に助けを求めましょう…早く行かなければ…」


 聖なる夜に、別の世界から一人の来訪者が現れた…

 ただの偶然か必然化は分からないし、知る由もない…


今回はアリアの出番だらけです!

今まで出番が無かったので…

次も続きを書いていくのでお願いします!

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