厄介ごとをプレゼント!?④
壊れかけてた社長と悲しそうに限に助けを求めてきたアリアを置いてきた…いや、預けたので現在限はロッカールームに退避している。
あのままあの場所にいたら想像を絶するカオスな状況になっていたことだろう…
そうなる前に動き出した俺は、先読みが出来る立派な社会人と言っても過言では無いだろう!と限は自負していた。
フフフ…と不気味な笑みがこぼしていた。
「気分がすこぶるいいのは分かったから…着替えなくていいのか?」
「あ、そうじゃん…俺、遅刻ギリギリだったんだ」
既に着替え終えてる先輩が、限の状態をみて心配したのか声をかけてきた。
やはり、まだ大人の階段を上るのは限には早かったようだ…
そんなバカなことを考えつつも、高速で衣服を脱ぎ、作業着に着替えているあたりさすがと言うべきところであろう。
「よし!藤井準備完了!いつでも行けます!」
「何で今から戦場に向かう兵士みたいな掛け声なんだよ…むしろガ〇ダムの操縦者が言いそうなセリフだな…」
「まぁ、少し意識しましたので~」
「とりあえず…行くぞ限、俺らの清掃を始めにな!」
「先輩も人のこと言えませんよ、清掃を戦争と言う時点でもう救いようが無いですよ…」
「やかましいわ!お前が言ったからノッてやったのにそれはあんまりだろ!」
「ヘイへイ、ありがとうございます先輩」
「お前…今日こそ俺が先輩の意地を見せつけちゃる!覚悟しときや!」
「なんか色々混ざってキャラ崩壊が起きてますよ先輩…」
「「あははは!!!」」
先輩と俺が二人で同時に笑ったため、通路の外で待機していた別の仕事仲間が何事かと覗くが…いつも通りの組み合わせだったので興味を失ったようにその場を離れて行った。
いつもと同じように喧嘩をしつつも、お互いをよい仕事仲間と思っているからこそ、こんな適当で何の意味も無い会話で笑うことが出来るのだ。
「じゃあ、本当に行くぞ、時間ももうあんまり残って無いしな~」
「了解しました~、清掃用具運んでおきますね」
口も動かしつつ身体も動かす、これぞ現代人にもっとも必要なスキルだ。
他に何がいるかと問われたら限はこう答える、「努力」とたった一言だけ。
本当に時間が無いのか焦っていた。
急いで軽ワゴン車に荷物を積み込み、少々乱暴にドアを開けて…
「今日も頑張るか限!」
「先輩よりは役に立つ自信はありますよ!」
運転席に乗った先輩が荒っぽくアクセルを踏み、滑らかな動作でハンドルを回したワゴン車は、もう見えないほど遠くへ爆走していった…
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何件もの真新しい家々が建ち並ぶ住宅街に、限達は来ていた。
まだ売りに出されて数年しか経っていないがほとんどの土地が売れて、家が建っていたり、今まさに建設中の場所もある。
この住宅地には裕福な人がかなり住んでおり、家の規模大きいため、この住宅街からの依頼が結構な量来るのだ。
しかも、正月が近くなっているために正月前に家を綺麗にして、過ごそうと考えている人が多い。
そのおかげで忙しくはなるものの、次のボーナスは期待できるかもしれないと皆が思っているのだ。
もちろん、限も人間だ、金は貰えるだけ欲しいものだ。
そこに期待するのはむしろ人間として当然である。
「今日はよろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします。社員一同全力で汚れを消し去って見せます!」
「頼もしい限りですね。では、私たちは今から外に出かけるので、後はお願いしますね」
「分かりました!二時間後にはお戻りください!」
60代くらいの老夫婦が柔らかな笑みを浮かべながら、先輩と会話をし、最終的には家の主が不在になるとのことだった。
正直、人がいない方が清掃の仕事はしやすい、人がいるとどうしても落ち着けないからだ。
「おいおい限!依頼人いないと言うことは…あれするか!」
「お!やりますか先輩?俺が勝ちますけどいいですか?」
「俺に勝てると思っているのか?」
「いや、今までほぼ俺の勝ちですけどね?俺が先輩に負けるなんてありえない」
「ふん、今に見てろよ………よーい、ドン!ヒャッハー!」
「先輩セコイですよ!それが年上のやることか!」
「ハハハ!負け犬は大人しく吠えておけ!」
「いいでしょう!そこまでしたのに負けたら先輩こそ負け犬認定になりますよ!」
ここに男の譲れないプライドのぶつかり合いが始まった…
ルールはいたって簡単である、部屋を清掃してどちらが多くのより多くの面積を掃除し、いかに綺麗に出来るかという勝負だ。
ちなみに審判は、二人の濃いキャラのせいで存在感が全く無い山中がしている。
ちなみに山中は庭の掃除をしている、どこまでも扱いが雑な山中である。
まず先に飛び出した先輩はリビングから攻めて行く作戦に出た。
この作戦にはちゃんと意味がある、この家主はあまり物を置かない性格のようで必要な家具以外はほとんど置かれていないのだ…
なので、広いリビングから攻めることにより、一気にポイントを稼ごうという作戦だ。
「へへ…悪く思うなよ限、今回は勝たせてもらう!何が何でもな!」
対する限は、小さい部屋をちまちまと削って行く作戦である。
寝室などの部屋をキレイに早く片付ける。
「フフフ……カビ、ホコリ、皮脂汚れよ!俺の前に現れたからには消し去ってくれるわ!フハハハハ!ハーハッー!」
もはや限は先輩との勝負を忘れて、汚れとの格闘を始めていた…
この業界に入る人は大抵が、きれい好きか、潔癖症の人が多い…(諸説あり)
限も極度のきれい好きであり、汚れを落とすことに快感を覚えているのだ…
別に少しのホコリくらいは大丈夫だが、あまりにも汚いのは無理なのだ。
限は細かな汚れすらも見逃さず、丁寧に拭き取っていく。
常人が気にしないような場所のホコリも、この男には見えているのかのように探し出しては拭き取る作業を繰り返す。
キュッ、キュッ…ゴシ、ゴシ…
布で拭く音が小さな部屋に響き渡る…
それは一種の音楽のように思えたのは限だけであった。
そして、全部の部屋の清掃が済んだ。
二人は庭を一人悲しく掃除していた山中を呼び出して、勝負の行方を祈った…
「勝者は…ドゥルドゥルドゥル…ドゥドゥ…ドゥルドゥル…ドゥドゥドゥルドゥル…」
「「長いわ!!CMとか挟まないんだぞ!!」」
あまりにも長すぎるジャッジの判定に痺れを切らせた二人が猛抗議してた…
「うるさい!いつも俺だけ庭の掃除をさせやがって!この時期は特に寒いから体が震えるんだよ!それに、俺だって勝負したいんだよ!」
「「あ…すまない、同じ仲間なのに気づけなくて…ごめんよ山中!」」
「絶対口裏合わせて俺をおちょくってるだろ!?」
「「当たり前じゃないか!面白いから!」」
「当たり前のように本音が駄々洩れだな…まぁ。いいや…今度は限が審判してくれよな?」
「了解です、とりあえず…どっちの勝ちですか?」
「結果は…ドゥルドゥル…ドゥルドゥル!デデン!デン!ダダダダダダ!ダーン!勝者~~~!先輩~~~~!」
「いよっしゃ~~~!!!何が負け犬だ!お前の方が負け犬だぁぁ!!」
「ちくしょ~~~~!!こんな人に掃除で負けるなんて!」
勝者は先輩にだった…
負けて当然である、一人汚れを取ることに集中し過ぎてしまったのだから。
これで限が昼飯を奢ることが決定してしまった…
財布を見ると、一人分の食事代ほどしか入っていなかった、限は「今日は昼食抜きだな…」と腹を括った。
先輩に昼飯を奢った後にも仕事は控えており、仕事が全部終わったのは夜の九時頃だった…
自分で預けておきながら、限はアリアは無事でいるのか少し不安になってきた…
よろよろとした足取りで会社に戻り、急いで着替えアリアを迎えに行くと、そこには信じられない光景が…はさすがに言い過ぎたが、多少驚いていた。
「あ、もう帰って来たのか…チッ!もう少し遅くてよかったのに」
「ゲン!」
社長が予想以上に早い限の帰りに舌打ちをし、アリアは目に涙を浮かべていた。
そして、応接間に取り付けられたソファーには先代の社長が死人の如く固まっていた…
「ご愁傷様です…」と合掌をすると、先代社長がぼそぼそと力なく言葉を絞り出した。
「ま、まだ死んでいない………」
目を虚ろにしながらそんなことを言っていたが無視をして、ここから離れるべく逃げ去るように立ち去る。
あのままここにいたらやばいと本能で感じたのか、限は冷汗を掻いていた。
本当に何があったのだろうか…と少し不安になっていた。
とりあえず…明日はここに連れてきてはダメだと限は判断にした。
帰宅するためにバイクを駐車場から運び出す…
預けていたアリアを連れてき、バイクの後ろに乗せてあげた。すると、アリアは相当の恐怖を感じたのか限のバイクに乗った途端に泣き出してしまった…
バイクを走り出せるとアリアが限にギュッと抱き着いた、限は背中に何か柔らかいものを感じたが反応しなかった…いや、気にしないように心を無心にしているのだ。
そのまま両者黙ったままバイクに乗っていた。
既に暗くなった街に、一人の男と少女を乗せたバイクが光の尾を引きながらやがて、暗闇に消えて行った…
今回は仕事がほとんどです
しばらくはこれが続きます
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