厄介ごとをプレゼント!?②
男の名前は藤井 限。
日本で暮らす、ごく普通の男である。
歳は今年で27になるオッサンだ…最近、近所のガキに「オッサン彼女は?ニヤニヤ?」と馬鹿にされたばかりだ。
生まれつき目つきが悪いので他人から嫌われたり避けられたりはするがごく普通の日本人である。
身長は190くらいで、日本人の中ではやや大きいだろう。
だがこの見た目のせいで絡まれることも多くて困っている。
職業は清掃員であり、日々せっせと汗水垂らし働いてる。
そんな限を見て友人はいつも言う。
「お前は顔は怖ぇが心は誰よりも綺麗だ…まぁ、男の俺がこんなこと言ったって励ましにすらならないだろ(笑)」
限は必要とされていたから生きて来られたと思っている。
だから限にはアリアを見捨てることは出来ない、せめて警察に事情を話して親が見つかるまで助けるつもりだ。
そんな決意など知るわけもないアリアは、先ほどからここら辺の景色が気になるのか、ちょこちょこ動き回っていた。
「おい、ちょこちょこ動くな。今から警察に行くんだからよ」
これ以上ここにいるわけにもいかないので、アリアを多少強引に捕まえる。
そして、首元を掴みズルズルと引きずって行くと…
「なにあれ…もしかして誘拐かしら?」
「そうかもしれないわ!あの男目つきが犯罪者そのものよ!」
「警察に電話しなきゃ!」
何やら暇を持て余した主婦たちが妄想を繰り広げていたので、限はアリアをお姫様抱っこして猛スピードで逃げ出した…
「やれやれ、なんで毎回こんな目に合わないといけないのかね…」と一人心の中で愚痴をこぼした。
なぜかアリアが少し顔を赤らめていた、理由は分かっているけど後回しにする。
逃げないと別の意味で警察のお世話になりかねないからだ…
「よ~し!そのまま行け!行け!行けぇ~!…………ちくしょう~!今日は大負けだ…仕事やる気起きない~」
机にだらしなく足を置いてテレビを見ていたこの男は限の友人であり、この交番に務める警察官である。
「おい、仕事中に野球中継なんて見るなよ…」
「お前なぁ~?クリスマスに仕事なんて野球中継無しに出来るか!?何で休みじゃないんだよ…」
「警察に休みがあってたまるか!犯罪が起きたらどうするつもりなんだよ!」
そう、限は居酒屋に来ているわけでは無く、ちゃんと交番に来ている。
この男が警官と言っていいのならば…
「で、何しに来たわけ?また冤罪でもかけられたん?」
「俺がいつ冤罪をかけられたんだよ…それにさっき事情話したよな?」
「すまん、聞いて無かった…もう一度言ってくれると助かる」
限の周りには自然と、どこか抜けた人が集まってくる。
限自身も少し抜けている所があるのだが、本人は全く自覚していない。
「次はちゃんと聞けよ?」
「聞くよ、聞けばいいんだろ?」
なぜか、偉そうにふんぞり返って耳を傾けてきた…
「実はな…家の母親がなこの子を俺の家に入れてよ…」
ここに来る途中で買い与えた、たい焼きをじーっと見つめているアリアを指さしながら説明していると…
「はーん、もういい俺にはこの後の展開が読めたぞ」
突然推理をし始めた…
「生まれて一度も彼女の出来たことのないお前は母親を心配させまいとその子を彼女にしようとしたが、年齢が低すぎたので自首しに来たわけだな?違うか?」
「なんだそのガバガバの推理は!そんなだからいつまでたっても出世出来ないんだよ!」
「うるせぇ!俺は万年交番勤務だよ!文句あっか!」
文句はないのだが何とも言えない気分に限はなってしまった。
「ドンマイ…」と心の中で一応言っておく。
「このお嬢ちゃんはさっきから何してるんだ?」
「さぁ?たい焼きが珍しいのかもな」
限と警官が話している間もアリアは、ツンツンとたい焼きをつついていた。
「話は戻すけどさ…この子の親からの捜索願いとか出てないか?」
「ちょっと待ってろ…奥に資料があるから」
そう言い残して、立ち上がって資料を取りに奥に行った。
「なぁ…お前はどこから来たんだ?」
アリアは、ようやくたい焼きを食べ物と判断したらしく、たい焼きををしっぽから食べ進めていた。
その顔はまるで、餌を頬張る小動物のような愛らしさがあった…
限はロリコンでは無いが、思わず可愛いと思ってしまった。
「おーい、外人の捜索願いは何件かあったぞ~。ところでその子の名前は?」
「この子はアリア・アルトリアって名前らしい」
「ふーん…ダメだ、そんな子供の名前は無いな」
アリアが自分の名前を呼ばれたのを気にしたのか、あんこを口に付けたまま限の方を向いた。
だが、自称警察官の友人がページをペラペラとめくるが一致する名前は無かったようだ。
「うーん…親からの捜索願いは無いのか?ちゃんと探したのか?」
「おいおい、俺は仕事はちゃんとする男だぞ?」
「今までの行動を見ていてお前を庇うことが出来る人間は、よっぽどのバカだぞ?」
「お、お前!この町内にいる俺に助けられた人に聞いてみろよ!いつもは適当だけど、煽てると本気を出してくれるお手軽お巡りさんとして有名なんだぞ!?」
「お前はそれでいいのかよ…お前がいいなら俺にはどうしようもないけどな」
「で、その子は俺達警察が預かろうか。そっちの方が安全だろうよ」
「そうするか、アリア~、今日からこのおっちゃんに面倒見てもらえよ」
そっとアリアの背中を押して、ポンコツ警官の前に出したが限の背中に隠れてしまった。
そこまで懐かれることをした記憶も無いので、多少強引に抱えて置いて帰ろうとしたが限の首にしがみついて離れてくれない…
アリアと三分ほど格闘したが、首が痛くなってきたので限が諦めた。
「ハハ!お前その子にめっちゃ懐かれてるな!ハハハハ~!」
「笑いごとじゃねぇよ、どうすんだよこの娘!まさか俺が預かるのか!?」
「当たり前だろ。そんなに嫌がってる子を引き裂くようなことは俺には出来ない…いいか、今日は誰も来なかった?これでいい!」
「よくねぇよ!何が「これでいい!」だ!ふざけるのも大概にしやがれ!」
「もしもだ、俺がお前とその子を引き離すとする。それで悲しくて泣いてたらどうするんだ?俺にはそんな女の子を泣き止ませるテクニックは無いからな?」
「ぐっ…だが、ここで負けるわけには!」
反論しようと口を開いて、言いかけたが止めた。
アリアが目の端に涙をためていたのだ。
おそらく、一人で心細かった上に、ようやく信頼できると判断出来た人に置いて行かれそうになったからであろう。
「仕方ない、親が見つかるまでの辛抱だ」
「さすがロリコン!少女には甘いってか?」
「あ~、うぜぇ~!ここで白黒つけてやろうか!?あぁ~ん?」
「殴ってみろよ~?公務執行妨害で逮捕してやんよ!」
「こいつ!バカのくせに法律を盾にしやがって!」
売り言葉に買い言葉が重なり、最終的に法律の力により醜い争いは終わりを告げた。
喧嘩の最中アリア、不安そうに二人の男の顔を交互に見ていた。
「仕方ない、今日は勘弁してやらぁ。それと、アリアの親が見つかったら俺の携帯に電話かけろよ?」
「分かってるわ!腐っても警察官だ!見くびってもらったら困るぜ~?」
この男が言うと、鳥の羽より軽い言葉にしか聞こえない…
普段が普段なので信用できないのが当たり前なのだが。
警告しておかないと、親がもし現れたとしてもスルーしそうで怖いので念を押す。
「そうだ、お嬢ちゃん!この男に襲われそうになったら馬場をお願いします、って110番するんだよ?」
「余計なことを吹き込むな!そもそも日本語を…」
「ババ?ヒャクトウバン?」
限はアリアが実は日本語を喋れるのではないかと思ったが、実際はただ聞いた単語を繰り返して言ってるだけである。
「ババ…ゲン…ヒャクトウバン…タイヤキ…」
「何か一つだけどうでもいいものが入っていたような…」
帰ろうと立ち上がると、馬場がアリアの背負っている物をみて言った。
「あ、そうだお嬢ちゃん。その背中に背負っているのは何だい?刃物なら預からないといけないんだよ」
馬場がようやく警察官らしいことを言ってきたが…
「代わりに俺が答えるよ。それは刃物じゃない、まず鞘から引き抜くことが出来ない。たぶんレプリカみたいな物だろ、それと無理に取ろうとすると急に泣き出した…」
声を徐々に落としながら話した。
「そうか…お前も大変だな、これやるから元気出せよ」
「お前にしては気が利くじゃ…」
馬場が限の手に何か置いた、手を開いて見てみると手に握らされてたのはそうめんだった…
なぜ、こんな時期外れの物を渡したのだろうと考えながらトボトボと帰って行った。
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交番から帰る途中に色々な場所に寄っていたらいつの間にか空は夕焼け色に染まっていた…
「よし!これを書いてみよう!」
顔似合わないような声を出しながらたくさんの本をドサッ!と荒っぽく置いた。
限が大量の本をバラっと、机にぶちまけるとアリアは驚愕の表情を浮かべていた。
その証拠に先ほどからよく分からない言語を口走っていた。
「盛り上がってるところすまないが、君には日本語を勉強してもらう!」
限はアリアを助けるべく考えた。
まず、意思疎通を出来ないことには相手の国や、親のことを聞き出せない。
そして、限が相手の言葉を学ぶことは不可能に近い…そもそも何語かすら分からないのだから。
だが、アリアはなぜか日本語を少しは理解できているようなのである!
よって、アリアに日本語を学んでもらうしかないのだ。
まず手始めに平仮名を覚えてもらおうと[だれでもできるひらがなドリル!]みたいな本を10冊ほど買ってきた。
これをとりあえず、完璧にすれば日本語を理解出来るだろうと限は考えたのだ。
「じゃあ、これから書いていこうか!」
一冊の本を掴み、最初のページを開かせる。
「俺の後に続いて言ってみてね!あ、い、う、え、お」
「ア、イ、ウ、エ、オ」
限の言葉がちゃんと伝わったらしく、アリアは復唱し始めた。
「よしよし、上手だな!これなら一年以内には覚えられるかもな」
大げさに褒めながらアリアの頭を撫でてあげると、嬉しそうに目を細めていた。
やはり頼れる人が今まで見つからず心細かったのだろう…
限が頼れる人かどうかは別にするとしてだ。
アリアは褒められたのがそんなに嬉しかったのか勉強に熱が入っていた。
そんなアリアを見ながら限は少し考え事をしていた…
「明日どうするかな~…さすがに初日に置いていくわけにはいかないしな~」
限も明日からは仕事がある。
限の仕事は清掃員である。そのため、仕事上正月に近づくにつれて仕事が増えていく。
大掃除と言えば日本人なら誰もが聞いたことのある行事であろう。
なので今週はほとんど休みが無いのでアリアの面倒を見ることが出来ない。
本来なら母親に頼みたいのだが、今日の通話みたいにややこしい状況を生み出しそうなので除外する。
具体的には結婚式を通り越して、子供は何人いるか~、家は二世帯住宅がいい~、とか限がいないことを良いことに強引に後戻りできないくらいにしそうで怖いからだ…
「はぁー…ダメじゃ無い方の友人は俺とシフト一緒だしな…」
携帯に書き込んでいるメモを見て、限は大きなため息をついた。
もちろんダメな方な友人は馬場だ。あいつに任せると母親より大変なことになりそう…
具体的にはアリアが野球中継ばっかり見るダメな大人になりそう。
そんなことにならないように手を打っておく。
「もしもし?藤井 限です…はい、はい実はですね最近こっちに来たばかりの親戚の女の子が家にいましてですよ。実は、かくかくしかじか…はい、はい…本当ですか!?ありがとうございます!本当にすいません!こんな無茶なお願いを聞いてもらって。このお礼は必ずします!」
通話を切り終えると限は大きく息を吸い、「ふー…」と息を吐きだした。
だが、指先は小刻みに震え、緊張していたのか手には少し汗をかいていた…
主な原因はある人物に嘘をついたからである…
「未だにあの人の迫力には勝てないな…元々あの人に勝てるんなんて思って無いけどな…」
要件を伝え終えたので置こうとすると…
「ウォォ!背後にいきなり立たれると心臓に悪いからやめてほしい…」
背後に何の前触れも無くアリアが立っていたのである。
正直、うっすら寒気を感じたのだが気のせいだと信じている。
何かを伝えようと、手ぶり身振りで何とか伝えようとしているのが微笑ましい…だが限には全く何も伝わらない。
この方法では伝わらないと感じ取ったアリアは何かを取りに向かった。
手に紙と鉛筆を握って戻ってきた。
アリアが何かを一生懸命描きだしている…
描き終わったのかニコニコと花のように可憐な笑顔を振りまきながら近づいてきて、手に握っていた紙を見せてきた。
「うーん、あー、ふー…もしかして風呂かな?女の子だから風呂は大事だよね…うん」
描かれていたのはほぼ写真と同じ出来の絵で、女性の裸や男性の裸が描かれており湯船のような物も描かれていた…
アリア、絵上手すぎじゃね?俺の画力でジェスチャーしてたのが恥ずかしい…と限は自分の画力の無さに恥を覚えた…
とりあえず、アリアをお風呂場に案内して寝るために限はこっちこっち、と手招きをしてアリアを呼ぶ。
アリアは今まで見た中で一番嬉しそうにこちらに駆け寄ってきた。
お風呂が好きなのは日本人以外は知らなかった。外国人最近はお風呂に目覚めつつあるのだろうか?
アリアに一通りシャワーなどの使い方を教えて限は眠ることにした…
アリアは終始日本の風呂に驚いていた…あくまで見た感じの感想だが。
いつまでアリアを家に置いておかなければならないのか…それは誰にも分からないが、これだけはハッキリ言えた。
親が現れるまでは助ける。
こうして貴重な休みはアリアのために消費された。
もっとも、限は何もする予定は無かったのどうでもよかったのだ。
そうめん最近食べて無いですね…
まぁ、冬に食べる物好きはそうそういないよね?