覚悟②
これで一章は終わりです
私はもう死ぬ…
アリアは死をリアルに感じ取った…
目の前にいるオーガによって殺されるのだ、あの黒く硬そうな拳で殴られて死ぬと…
抵抗する気力すら湧いてこなかった。
暗くて寂しい夜の街で人知れず死んでいく、人に迷惑かけないだけましとさえ思っているのだ。
「最後に遺言くらいは聞いてやらんこともないぞ?言ってみろよ」
「そうですね…ヘールと言う女性に会ったら私、アリアは死んだと言っておいてください」
「分かった、会ったら言っておいてやろう。では、さらばだアルトリア国の王女よ」
オーガは何やら呪文の詠唱を始めていた、どんどんオーガの魔力が膨れ上がっているのが分かる。
アリアを一撃で絶命させるために…
手元を見ると、一メートルほどの氷の槍が数十本も出来上がっていた。
本来ならば逃げるなり、戦うなりしなくてはならないのだがアリアにはそんな気力は残っていない。
「その潔さに免じて、俺の全力で葬り去ってやる!“氷結の槍”!」
魔力を解き放たれた氷の槍はアリア目掛けて飛来してきた…
アリアは最後に本当の遺言を言い残した。
「お父様、お母様、そして限さん、私もそちらに向かいます。」
キィン、キィン! ゴト、ゴト…
だが、いつまで経っても氷の槍はアリアの命を奪わなかった…
その代わりに目の前に見知らぬ女性が立っていた。
白を基調としており、所々に金の模様が刻まれている鎧を着た金髪の女性が立っていた。
まるで、おとぎ話に出てくるかのような騎士がそこにいた。
そして、アリアの方を向いて話しかけてきた。
「どうした我が子孫よ、そんな気の抜けた顔をして。アルトリア家の血を引くならば最後まで戦え」
「え、もしかして…私の知らない親戚の方ですか?でも、お母様からそんな話聞いたこと無いです」
「当たり前である、お前の母親とは面識が無いからな。」
「なら、どなたなのですか?」
「我の名か?我はペンタ・アルトリアだ。英剣アルトリアに封じられていた十人の英雄の一人だ」
ペンタが言い放った言葉に五秒間ほどフリーズしてしまった…
無理もない、五百年前に魔王に呪われて剣となった英雄の一人が今、ここにいるのだから…
「どうして、ペンタ様がここにいらっしゃるのですか?英剣アルトリアは限さんのお家に置いてきましたのに…」
「お前は知らなかったのだな。その限と言う男が持ってたのだ」
「もしかして忘れてると思って届けようとしてくれたのでしょうか。限さんは優しいですね…」
「そうだな…あの男は優しいな。お前を助けるために我と契約を結んだのだからな…」
「え?限さんは生きているのですか!?」
「生きてるも何もそこにいる」
ペンタが指を指した方向には必死になって走って来ている男の姿が見えた。
目つきが少し怖く、背がかなり高い男…もう死んでしまったと思っていた。
だが、男はは生きていた。
「ぜぇー、ぜぇー…あ、アリア大丈夫か?怪我してないか?」
「げ、限ざぁん!限ざぁんこぞ大丈夫だったんですか!グスっ、グス…ごめんなさい目から水が止まりません…」
「心配かけて済まなかったなアリア。こっからは俺とペンタに任せろ!」
限はアリアの頭を優しく撫でると、オーガに向かって進んで行った。
今度は負けるつもりなど全く感じられない自信に溢れた表情を浮かべていた。
「よう、さっきはよくも一方的にボコってくれたな」
「なぜだ、なぜお前は生きているのだ!あの傷でたかが人間が生きていられるはずがない!」
オーガは驚きを隠せなかった…
確実に死んだと思っていた者が生きていたのだから。それに、ちぎれかけていた右腕がキレイにくっ付いていた。
「覚悟はいいか鬼、俺の大事な人を傷つけた罪は重いぞ!」
「ただの人間のお前に何が出来る!蘇ろうが人間は人間だ!お前はまた叩き潰されるだけだ!」
「そりゃ…一人ならな?俺は今は一人じゃない!そうだろペンタ!」
「まぁ、ほとんど我の力なのだがな」
どこまでも空気を読まないペンタであった。
「そこは空気読んでくれよ…まぁいいや、どうすれば出来るのかあれは?」
「空気を読むか、分かった今度から考えておこう。あれをするには手を出してくれ、後はあの言葉を言えば大丈夫だ!」
ぐッと親指を突き出して任せろとペンタが言ってきたが、限はこれまで以上に不安を感じていた。
こいつに任せて大丈夫なのだろうか?と…
封印を始めて解いたばかりなのにやり方が分かっていることに対してかなり怪しんでいた。
だが、これ以外に勝ち筋が見えないので頼るしかないのだ。
右手でペンタの右手を掴み、二人同時にたった一言だけ言い放った。
「「“同調」”」
誰もがその光景に圧倒された。
辺り一面が黄金色に輝き、途方もない大きさの魔力の渦が二人を包み込んだ。まるで繭のように…
そして、黄金の魔力の繭から一人の男が現れた…
その男は限であるが限ではない。
目つきの悪さ、背の高さは変わらないが金髪になっていたのだ。
まるで、ヤ〇ザのようだが違う。
その男は…
「我が名はペンタ・アルトリア!今から貴様を滅ぼす者の名だ!」
そう、同調とはその名の通り使用した者を一つにする魔法だ。
だが、この魔法は誰でも使えるわけではない。
例えばアリアとペンタは同調出来ない、理由は単純で相性が悪いからだ。
それ以外にも生者同士では出来ないや、生者と意識体とでしか出来ないなどの条件があるのだ。
この場合は、限が生者でペンタが意識体として同調を行っている。
なので、この魔法はパワーアップでは無く、体の主導権を譲ってるだけである。
「いくら小賢しい真似をしようが俺には勝てるわけがないだろがぁぁ!」
いくら魔法を施そうが所詮人間だろうと高を括っていたオーガは殴り掛かってきた…
だが、それは大きな間違えだった。
「うるさい黙れ、名を名乗らない戦士など戦士では無い!」
どこからともなく取り出した黄金の剣によって腕を切り飛ばされてしまったのだ。
華麗な装飾が施されている黄金の剣、これこそがペンタ・アルトリアの切り札“カリバーン”だ。
長い戦争を終わらせた英雄の一人の剣をオーガが防ぐことは不可能に近い。
「これで勝ったと思うなよぉぉ!!はぁぁ!!」
「流石の再生力だ、オーガの亜種ともなればある程度の強さを持っているのだな。だが、我が剣を防ぐことは出来ん!」
切り飛ばされたはずの腕をオーガが無理矢理傷口に押し付けると、傷口がうねうねと蠢きちぎれた腕はくっ付いた。
だが、それを踏まえての攻撃だったのでペンタは特に動揺していない。
「我は短気だからな、早めに決着を着かせてもらう!」
「ふん、相手にとって不足は無い!来い英雄よ!」
ペンタは剣を胸の前に構え、オーガは魔力を高め“氷結の槍”を作りだす。
お互いの全力をぶつけるつもりである…
そして、“氷結の槍”の完成と共に戦況は動いた。
「英雄よ!これが俺の全力だぁぁ!“氷結の槍”!」
数十本の氷の槍が回避不能の速度で迫った…
だが、これも予測の範囲内だったのかピクリとも体を動かさずに剣を胸に構えていた。
「まだだ、もう少しだ…」
ペンタは必殺の一撃になるタイミングを待っていた…
迫りくる槍に焦ることなく待ち続ける。
あと数メートルと槍が迫った時に動いた…
剣を頭上にゆっくりと上げ、黄金の魔力を剣に付与させ静かに振りおろした。
「我が道を邪魔する者を切り裂け!“カリバーン”!」
振りおろされた黄金の斬撃は迫りくる槍を全て消し去り、オーガをも切り裂いた…
いや、正確には消し炭にしたと言った方が正しいだろう。
オーガは声すらも出せぬままこの世界から存在を消し去った…
「ふぅー…終わったな」
戦いの後には抉れた道路にポカーンと口を開けているアリア、剣を地面に突き刺して決めポーズを取っている限、幸せそうに眠っている馬場だけがいた…
一章やっと終わったー!
色々変な話を追加してたら予想以上に長くなったw
これからもよかったら読んでくれると嬉しいです!
感想と評価お時間ありましたらどうぞよろしくお願いします




