壊れかける日常?③
人気の全く無い夜の港…
周りは見渡す限りコンテナで囲まれていた。
最初はここで上手く隠れてやり過ごそうと思ったのだが、相手はなぜかこちらの居場所が分かるようで攻撃を繰り返してきた…
なので、私も魔法を使い応戦したが努力も虚しく、戦いに負けてしまった。
「どうした、こんなものかアルトリア国の王女の力とやらは?部下から聞いた話では強そうだったのだがな?」
「私はあなたには敵いません…なら、もう殺せばいいのではないのですか?」
「フフ…俺は弱った獲物を徐々に弱らせて殺すのが好きなのだよ?せいぜい、いい声で苦しんでくれよ?そうじゃないと俺が楽しめないからな!」
目の前にいる、額に一本のツノを生やしたやや大柄のオーガが下品な笑い声を響かせていた。
肌は夜の闇のように黒く、快楽に飢えた殺人者のような顔をした筋骨隆々の化け物だ。
色が普通のオーガとは違うので何か特別な魔力でも持っているのでしょう…
そんなことを今更考えても無駄であるとは既に理解していた、ただ二つだけ心残りがあった…
ヘールとの約束を守れなかったことと、限さんとの約束も守れなかったことだ、王女のくせに約束を一つどころか二つも守れないなんて…情けなくて涙すら出て来ない…
「まずは、腹を殴り続けるか…段階的に強くしていくから最初で死ぬなよ?まずは一発ゥ!!」
丸太のように太い腕を大きくしならせ、私に向けて拳をぶつけてきた。
ゴスッ!と鈍器か何かで叩かれたかのような衝撃がお腹に響いた…
思わず吐き出しそうになるが、気合を入れ堪える。
ここで相手のいいように弄ばれるわけにはいかないのだ…王族として誇り高き死に方をしなくては。
ひゅう~!と楽しそうな声を出してニタニタと満面の笑みを浮かべるオーガ、その表情を見ると本当に同じ生物なのか疑わしくなる…
「まだまだ立てよ~?俺が飽きるまで殴りつけるからよ~?ぎゃはは!!」
「全然、効きませんよ!私は誇り高きアルトリア国の王女です!あなたのような下賤な輩に屈することはありません!」
「そうか…その強がりがいつまで続くか楽しみだな~!俺は楽しいことは大好きだからよ~!」
正直、もう最初の一撃で限界だった…
私は元々魔導士としての修行が多かったので体はあまり鍛えられていないのだ…
だが、ここで私が死ねば限さんや他の方に迷惑が及ぶことは無いでしょう。
それに、“英剣アルトリア”は限さんお家に置いてきたので探し出される心配は無いでしょう…
これで心置きなく死ねます。
「あ~!そう言えばこんな話を聞いたことがあるな~!」
なぜだかその言葉に悪寒を覚えた…
まだ話の先すら聞いていないのに、だが分かる私は楽には死ねないと。
「お前ら英雄の血を引く者達の肉体を食えばよ~!俺達、魔族は更なる力を手に入れることが出来るってよ!」
「な、何をでたらめを!そんな話聞いたことありません!」
「いやいや、実はこの話は信憑性高いんだよな~、俺達の親玉、お前らが呼ぶ魔王様もよ~、英雄の血筋の者を食ってからあんな強くなったらしいぞ?」
魔王…それは私たちが住む国では有名な、悪と残虐の限りを尽くしている魔族の親玉だ。
だが、魔族に英雄の血を引く者が負けたなど聞いたことない。
「嘘に決まってます!英雄の血筋を引く者はある程度の強さを持っています!それに、英雄の血筋を引く者が負けたなんて話聞いたことありません!」
私の反応を面白がっているようにニタニタと笑いながら、人差し指を口に当て、実に人間臭い動きでチッチッとしてきた。
「お前なら知ってるはずだぜ?英雄の血筋を引いていながら重い病気を患っていた奴をよ~?」
「ま、まさか…お母様を殺したのはあなた達だったのでですか?」
「俺は詳しい話は知らんけどな、その現場には若き頃の魔王様もいたらしいしな~、しかも、殺した人間は全部魔王様が食ったらしいしな~…」
「あ、あなた達が…お母様を殺したんですね!!私は刺し違えてでもあなたを殺します!!」
「いいね~!その表情最高だよ!そのまま切り飛ばして飾って置きたいほどいい表情だよ~!」
もう怒りを抑えきれません…こんなにも憎しみが湧いてくるなんて自分でも考えられません。
でも、お父様とお母様を殺した奴らを恨まずにはいられない…
感情に飲まれてはいけないと小さい頃に何度も教えられたが無理です、今回ばかりはもう抑えきれません。
「覚悟してください…私はとても怒っています!」
「あひゃひゃー!怒ったから強くなるとでも思っているのか甘いわ人間がァァ!!」
私が最後の力を振り絞り撃ちだした火球は、オーガによりハエを叩き落とすかのように消された…
そのままの勢いで殴り掛かってきて私は死ぬのでしょうか…
死がリアルに感じられたその時!
「死ねやぁぁ人間!これで終わりだヒャン!?」
ブーン!…バキッ!メシャ!ゴロゴロ…ガン!
いつまで経ってもあのズキズキとした鈍い痛みが襲ってこなかった…
なぜだか分からないが死んではいないようだった。
目をゆっくりと開けると…
「え、な…何でここにいるのが分かったんですか!?」
そこには意外な人物がいた…
所々ペイントが剥げた青に染められたバイクに跨っており、二度とと会えないと思っていた人物がそこに立っていたのだ…
「あ、やべー…誰か知らないけど跳ね飛ばしてしまったな…ようアリア、ボロボロだな…今度からは俺に相談しないでどっかに行かないでくれよ?」
人を跳ねた事にかなり動揺している人が目の前にいた。
その証拠に足がガクガクと震えていた…
「限さん、どうして来たんですか!私の覚悟を無駄にしに来たのですか!?」
「なに勝手に背負い込んでるんだよ…俺がお前に助けて欲しいなんて言ったか?俺は死にそうになったらちゃんと逃げるから心配しなくていいぞ?」
「やっぱり、限さんは変な人だね、でも、グスッ…あ、ありがとう」
遂に限界を超えたのか、アリアが突然泣き出してしまった。
無理もない、死にそうな目に会ってしまったのだからな…
ちゃんと大人である俺が見ていなかったからな、これも社会人として落とし前を付けなくては…
「おーい、俺の事忘れてイチャイチャしないでくれませんかね~?」
「お前遅いぞ?昔からお前だけいつもワンテンポ遅れてくるからな~」
俺の後ろから赤と黒で染め上げたバイクに跨った馬場が茶化すように声をかけてきた…
折角カッコつけてるときになんてことを言うんだよ。
そこは空気を読んで見守る場面だと思うんだけどな~…
まぁ、そこが馬場の良さと言うか持ち味なんだよな。
「ゲホッ、ゲホッ!貴様俺に何をしたぁぁ!」
跳ね飛ばしたはずの人間が生きていた。
いや、よく見ると肌は漆黒に染まっており、額には禍々しい角が一本生えていたのだ…
うん…人間じゃないわこいつ。
「とりあえず…あそこの変態から逃げるぞ!」
「えぇ…戦わないんですか?」
「当たり前だろ…あんな変態と戦いたくない。さっきも言っただろ死にそうになったら逃げるって?」
「それでこそ限らしいな…よしずらかるぞお嬢ちゃん!」
起き上がった鬼みたいな変態を放置して俺達は逃げ去った…
アリアはなぜか俺を見る目が残念な人を見る目をしていたが当たり前だろ…俺みたいな何の力も持っていない一般人に倒せるわけがない!
実際、バイクで跳ね飛ばしたのにかすり傷くらいしか負っていないからな。
なので、逃げの一手で決まりだ!
排気音を盛大に鳴らし、二台のバイクは走り去った…
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「オイオイ!聞いて無いぞ!なんだよあいつはよ!額には角は生えてるわ、氷の塊をぶん投げてくるわ無茶苦茶じゃねぇか!」
「落ち着け馬場!米軍基地の近くに逃げ込めれば俺達の勝ちだ!奴を蜂の巣にしてくれるはずだ!」
「その前に死ぬわ!ここから何キロ離れてると思ってるんだよ!」
そう、俺が考えた作戦は米軍基地の近くまで逃げ込み、あいつに米軍基地を攻撃させてその報復で死んでもらおうと考えてる。
上手く行くかは分からんけど、俺が適当な刃物で戦うよりは幾分ましだ。
相手は異常な速さで走って追いかけてきてる、六十キロ出してるのに追いつくって化け物かよ!
それに、魔法か魔術かはさっぱり分からんが、氷の塊を飛ばしてきているのだ…正直、なめてました相手の事。
「限さん、やっぱり私が戦います!元々私の戦いですし!」
「そう言うのは無しでいいか?それに…アリアが死んだら俺が悲しい」
「え、え、え…そ、そそそ、それは私が大切な人ってことですか!?」
「まぁ、大切だな…今や家族みたいなもんだしな~」
「そうですか、そうですよね。そこは変わらないんですね…」
何やら先ほどの高いテンションとは打って変わって、悲しそうな声で呟いていた…
何か悲しくなる話をしたかな?俺的には恥ずかしくてもう二度とと言いたくないんだが。
「待ちやがれ!クソガキがぁぁ!!」
「待てと言われて待つあほがいてたまるか!そんな奴はそもそも追いかけられる状況にはならねぇよ!」
変態との夜の楽しい逃避行を三十分ほど続けていると、変態の放った氷の塊がバイクの後輪に当たり凍ってしまった…
急に止まったバイクは慣性の法則に従い、乗っていた二人を投げ飛ばした…
放り出された時に、俺はとっさにアリアを抱きしめた…
アリアをこれ以上怪我させるわけにはいかないと本能で感じたのか行動にいつの間にか移していた。
ゴロゴロと転がり、ガードレールにぶつかりようやく止まった。
「~ッ!腕折れたなこりゃ…アリアは大丈夫か?」
「私は大丈夫です…げ、限さん!腕がすごいことになってますよ!?」
「唾つけて置けば治るよこんなものは…ペッペッ!」
自分の右腕を見ると、関節がおかしな方向に曲がっており、骨が剥き出しになっていたのだ…予想以上にグロイなこれは。
ここまでかな…俺はもう無理だな。
「馬場ァァ!!アリアを乗せて行け!どうせ俺はもう助からん、こんなに出血したら死ぬわ流石に」
「分かったぜ限…お墓にはお前のバイクも一緒に入れておいてやるからよ!安心しろ!」
「そこは引き留めてくれよ…相変わらず空気読めないな」
馬場があっさりと俺の死を受け止めた…しまいには、墓に俺の遺骨と一緒にバイクの鉄くずも入れると言いやがった…
話が早くて助かるんだけどさ、友人ならもっと心配するとかなんかしてくれてもいいよね?
「そんなのダメです!限さんまで私のせいで死ぬなんて!」
「アリア、俺はな自分以外に大切な物が殆ど無かったんだよ…だけどな、アリアと出会って変わったんだ…本当に大切なのは「ほら、お嬢ちゃん乗れ!悲しいけどあいつはもう助からん!行くぞ!」他人を思いやる事なんだと…」
俺がアリアを説得しようとしている最中に馬場が強引にアリアを抱えて連れ去ってしまった…
最後くらい決めさせてくれよおい…締めるに締められないだろ…
馬場の行動には流石の鬼も、「お前何だか悲しい奴だな…」と同情をされた。
今から戦う相手に同情されるなんて…虚しくなってきた。
「同情は終わりだ…お前を殺してあの小娘の肉を食らわせてもらう!」
「はは…何秒持ちこたえられるかな、すでに俺の足元がふらつき始めてきたしな…」
俺は背負っていたリュックサックから一つの物を取り出した…
左腕で使うのは初めてだからな…いけるかな?
リュックサックから取り出したナイフを手に取ると、腰を軽く落として左腕を相手に突き出した。
本来は、もうちょっと長い物を使うんだけど…これ以外まとまな刃物が無かったからな。
「さぁ…俺は言っておくけど弱いぞ?」
「その情報はいらないな!だが、お前をいたぶって殺すことにしようかな~!」
まさに、殺人鬼と呼ぶに相応しい歪んだ笑みを浮かべてきた…
体中に悪寒が電流となって走るが、もう死ぬ間際なので恐れる必要など無い!
そう思い込ませることで、カタカタと震える左腕がようやく治まった…
「うぉぉぉ!!この野郎!」
「フン!雑魚がぁぁ!!」
銀色の鋭い刃とごつごつとした太い腕がぶつかり合った…
永久とも思える時間が続いた…
だけど、その戦いは実に五分も続かなかった。
そして、辺り一面に血の花を咲かせた、その真ん中に立っていたのは…
これがファンタジー要素を含ませた結果です…
なんか重い話に出来たのか微妙な所です
誤字、脱字がありましたら教えてくれると助かります!




