真実のターゲット
六時間目の始まる前に、保健室で別れた後、しっかりとした会話をしたのは誰がいる? との問いに、夕菜は美由だけだと答えた。
「あとは、両親と、お手伝いのひと」
「それは除外だな。―――ってことはさぁ、真莢。どういうことかな」
「簡単じゃん。陽一が、顔を合わせたときの美由の変化に気が付かなかったってだけ」
雪音の言葉に陽一は『それは有り得ない』と断言する。
「やだなぁ。自信過剰男って」
日曜日の昼である。
昨日、心臓が停止して大騒ぎになった原因の夕菜が、なぜ、事務所にいるのかというと、真莢の『家でおとなしく休養していたほうがいい』という言葉に従う様子がないことから、無理やり家を抜け出して何かあるよりは。というより、和也たちが夕菜がいなくなったことで大騒ぎするよりは。という考えから、真莢は『突然また発作が起きるかもしれないから一日、様子を見るのと完全に治すために預かる』といって夕菜を事務所に連れてきたのだ。
その言葉通り、夕菜は一応ベッドに横になっている。
「四人ともの原因が美由だとして……どう説明するかだよな。………あれ?」
「どうした?」
「なんか……美由が原因だとすると、やっぱり変だな。と思ってさ」
難しい顔で真莢は考えながら喋る。
「どこが?」
「若森から、陽一に恋呪が移った瞬間がさ……変じゃないか? 学校にいる間に移ってもいいようなきがするのに、実際に移ったのは、夜中だぞ。呪が移った瞬間イコール恋心が移った瞬間。って考えると、凄いタイムラグじゃないか? 夕菜に仇呪がかかった時間も」
「確かに……そうだな。タイムラグと美由の関係が、謎を解く鍵だな」
「美由がぁ、二重人格だったとかっていうのはどう? タイムラグは第二の人格が表に出てくる時間」
雪音の突飛な意見に、皆は顔を見合わせる。そういう可能性は考えてもみなかった。しかし、その考えを支持するのにはストップがかかる。
「でも……その場合、美由の意識を第二の意識が共有してないと、だめだよな。それに、海音さん。美由に精神科とかへの通院歴はないんだろ?」
「ありません」
「夕菜。いままで、そういった様子が美由に見られたことってある?」
陽一の問いに夕菜は首を横に振る。
「はずれかぁ。イイ線いってたと思うんだけどな」
「そうだな」
真莢は、残念だったな。と雪音を励ます。
「海音。美由に関する資料を見せてくれ」
すぐに、数枚の紙を綴じたものが真莢に渡される。
真莢は、文字に目を走らせる。
ふっ……と惹かれるようにして、真莢は、家族構成の欄に目を止めた。
(両親に姉が一人か……)
家族の履歴の書いてあるところを、真莢は探して読む。
(なるほどね。可能性としては有り得るか)
「ラルムの持ち主の見当がついた」
真莢の言葉にかぶさるように、携帯の着信音が鳴る。
「あたしだ……もしもし?」
夕菜は、電話のタイミングの悪さに、慌てて出る。
「美由? ……は? お姉ちゃんがいなくなった? どっか出かけたんじゃないの? 日曜日だし」
「夕菜。今からそっちに行くって伝えて」
電話の途中にかけられた真莢の声に、理由は分からないものの夕菜は頷く。
「うん。いまから、そっちに行く。美由、家にいるんだよね? 動かないで待ってて。うん。大丈夫。すぐに行くから」
美由をなだめて、夕菜は携帯を切る。
「美由って姉さんがいたのか」
「うん。あたしもこないだ知ったばかり」
陽一と夕菜は会話を交わし……動きを止め、勢い良く真莢を見た。
「もしかして…」
夕菜と陽一の声が同時に響く。
「あぁ。おそらく、ラルムを持っているのは美由の姉さんの恭子さんだ。行ってみれば、はっきりする」
確信したような真莢の声が部屋に響いた。
※ ※ ※
後方支援担当ですから。といって海音は事務所に残り、夕菜たち四人が美由の家に車で向かった。
「恭子さんが持っているのなら、全ては説明つくだろ。タイムラグも、美由からは人魚の残り香程度の力しか感じないのも」
「美由は媒体だったわけだ」
「ああ。たぶん、美由は恭子さんに学校での出来事を逐一報告していたんじゃないかな」
「でも……家族に学校でのことを話すのって、普通のことでしょ。それに……お姉さんには自分の生活があるわけだから。いくらなんでも、美由の話を聞いて、その話に出てくる人を好きになるかな?」
夕菜の疑問に、真莢は、そうだな。と頷く。
「でも、彼女が接する外の世界が、妹の話す学校でのことだけだとしたら、状況はずいぶん変わるんじゃないかな」
「どういうこと?」
「ほら。これ」
陽一は夕菜に、さっきまで自分が読んでいた恭子の資料を手渡す。
「…………角膜損傷? 目が見えないの?」
「そう。三年前の交通事故でらしい。それ以来、恭子さんはふさぎ込んでる。外に出ることもめったにない。って書いてあるだろ」
話が終わったところで、美由の家の前に着いた。
玄関の前でうろうろしている美由を見て、夕菜は、車が止まりきっていないうちにドアを開けて飛び下りる。
「美由!」
「夕菜!」
駆け寄る夕菜に、美由はすがりつく。
「お姉ちゃんが………ひとりで外を歩いたことなんてないのよ!」
「落ち着いて! しっかりして美由! 一体何があったの?」
美由はビクリと体を揺らして、落ち着こうとしているのだろう何度も夕菜に向かって頷く。
「……昨日……夕飯を食べてる途中、あたし具合が悪くなって……いつのまにか眠っちゃってたみたいで。……さっき目が覚めてみたら、お姉ちゃんの姿がないの。お姉ちゃん、目が見えないの。もし……事故にあってたりしたらどうしよう」
夕菜に状況を説明したことで、気がゆるんだのか、美由はボロボロと涙をこぼす。
「美由。大丈夫。お姉さんのことはあたしらに任せて。ね? 絶対見つけてくるから」
「ありがと……親に電話しようと思ったんだけど、携帯はつながらないし、滞在先の電話番号が分からなくて……。もう、夕菜しか思い付かなくて」
「うん、わかってる。お姉さんが行きそうな場所ってどこか知らない?」
「わからない。……お姉ちゃんが行きそうな場所なんて……」
夕菜は首を横に振る美由をなだめる。
真莢は側に近付くと、美由の肩に手を置いて、自分のほうに注意を引く。
「お姉さんに、学校のこと話していたよね?」
確認する真莢の言葉に、美由は頷く。
「すこしでも……外に興味持って、外に出かけるようになってくれればって…そう思って」
美由は答えてから、真莢が誰なのか不安になったのだろう。美由の顔を見る。
「あっ…と……知り合いなの。美由から電話がかかってきたとき一緒にいて」
「あ……れ? 安岡君? 保健の先生…も?」
後で説明を求められたとき……どう説明しよう。という思いが夕菜の頭の中をちらりとかすめていった。
※ ※ ※
「真莢、どうする?」
陽一の問い掛けに、真莢は口元を手で覆い、ぼそりと自分の考えを口にする。
「手分けして探す……かな」
「まぁ、それはそうなんだが。メンバーをどういう風に分けるか。だよ。まさか、四人バラバラで探しにいくっていうわけには行かないし。となると、二手に分かれるってことだろ」
陽一の言葉に雪音が「そうだよねぇ」と頷く。
「え? ……あぁ、そうか。オレと雪音。陽一と夕菜。でいいんじゃないかな。夕菜が力を使いこなせるかまだ分からないから、それが一番ベストだと思う」
「そんなとこか。雪音と夕菜を組ませたら車もバイクも使えないから移動手段なくなるしな」
陽一はポケットに手を入れると、キーホルダーを取り出し、たくさんついている鍵の中の一つを選んで真莢に渡す。
「バイクの鍵。村上駐車場ってとこに置いてあるから。場所はわかるだろ?」
「あぁ。じゃぁ、恭子を見つけたら携帯に連絡頼むな」
「そっちも忘れるなよ」
二手に分かれて恭子探しが始まった。
陽一は車を発進させると、助手席に座っている夕菜にちらりと視線を向けた。
「最初に夕菜の家に行ってみるか。そこで空振りだったら僕の家に念の為に行ってみよう」
陽一の言葉に夕菜は不思議そうな顔をする。
「なんで?」
「恭子さんは夕菜を恋敵だと認識して、仇呪まで仕掛けてきた。それを外されたんだから一番のターゲットは夕菜だと思うけど」
夕菜はその言葉を聞いて、自分が仮死状態で一歩間違えれば…ネックレスがなかったら死んでいたと聞かされていただけに、暗い気分になる。
その様子を見て、陽一は慰めるように、夕菜の肩を軽く叩いた。
「まぁ、一度術を返されたことで、向こうにダメージがいっているはずだし、警戒もしてるだろうから、そう簡単には同じ呪を仕掛けてくることはないと思うよ。たぶん」
「全然フォローになってない……。でもさっ、普通、愛しい人のところに真っ先に向かう気がするんだけど?」
陽一は、甘いな。とでも言うように、唇の前で左手の人差し指を左右に振る。
「邪魔者を先に消し去る。これが恋愛の法則だろ」
「どこの世界の法則よ……それ」
呆れ返った夕菜の言葉に、陽一は押し殺したような笑い声を上げた。
「まぁ、そんなことを抜きにしても、お嬢さんの家のほうが確率的に高いんだよ。だって、美由は僕の家の場所を知らないし。美由の知らないことを恭子さんが知るわけないだろ。もっとも、学校に忍び込んで住所調べられた可能性もあるんだけどね」
左口端を僅かに上げ、陽一は目を細めた。
「っーわけで。夕菜の家に到着」
ブレーキを踏んで止まるときの反動を感じることもなく停車する。
夕菜は、意外なことに陽一の運転が旨いことに気が付いた。
しかし、褒めるのも変な気がして、何も言わずに車を降りる。
「………で、どうするの?」
「なにが?」
陽一は車の鍵を閉めると夕菜の言葉の意味を計りかねて眉を寄せた。
「だからっ! 陽一くんも入るの? 家の中に」
「あのさぁ~~、外で待っていてもいいけど。万が一のとき一人で対処する自信あるの?」
あっさりと返され、夕菜は言葉に詰まる。
「大丈夫。大丈夫。この間m沖社長に会ったとき好感触だったし、問題ないって」
「だから嫌なんだってばっ!」
夕菜の叫びを無視して、陽一は玄関のほうへと歩いていった。
家の中に入ったときに最初に出迎えたのは、陽一が以前にもあったことのある古参のお手伝いさんだった。
「まぁ…まぁまぁまぁまぁ」
壊れたロボットみたいに同じ言葉を繰り返すと彼女は奥の部屋へとパタパタパタと走っていく。
「奥様。旦那様。お嬢様が」
そう言いながら走っていく後ろ姿を見て、夕菜は彼女の行動に喜々としたものを感じとり額を押さえた。
「嫌な予感。そう言えば、今日は珍しくお父さん休みで家にいるんだったわ……」
夕菜の言葉を裏付けるように、陽一と夕菜は応接間へと母親に連れていかれた。
「おぉ。陽一君がこんなにも早くまた訪ねてきてくれるとは嬉しいな」
和也は陽一と、がっしりと握手を交わすと、席を進める。
しかし、途中で妙なことに気が付いたらしく動きを止めた。
「……ところで、どうして夕菜と陽一君が一緒だったんだい?」
今までその疑問が浮かばなかったのが奇跡だろう。
和也たちは陽一が夕菜と一緒に現れたことの喜びのが強く、肝心なことを忘れていた。
また発作が起こるかもしれないため、様子を見るのと完全に治すために、真莢のところに夕菜は居ることになっていたのである。
それが、なぜ陽一と一緒に家に帰ってきたのか? と和也は夕菜の顔を見る。
夕菜の『しまった!』という顔に、和也は眉をひそめる。
陽一も、夕菜の両親への説明がそういった筋書きになっていたことを思い出して、まずいな。と思いながら頭を掻いた。
自分が真莢の友人。仲間だと言ってしまえば丸く収まるかもしれないが、それは余り得策ではない。
「今朝、父から夕菜さんが昨日倒れた。と聞かされ心配になり、訪ねてくる途中に偶然会ったんです。元気に歩いてたんでビックリしましたけど」
「あ…あの、私は忘れ物を取りに……」
陽一のそつのない説明と、夕菜の苦しい言い訳。どこか白々しい会話のやり取りに、和也は不審な顔をしながらも一応は納得したらしい。
「しかし、安岡君の所にまで夕菜が倒れたことが届いてるとは驚きだったな」
「父には夕菜さんのこと良く話してましたから」
答えになっていない陽一の答えだが、和也には十分なものだったらしく頷く。
人には口にできない色々な情報源があるのだ。無闇にそれを暴き立てるような悪趣味さを和也は持ち合わせていないし、これより先立ち入るべからず。という暗黙のラインに逆らうようなマナー違反者でもなかった。
もっとも、それは私生活では…というレベルであってビジネスになれば、また別物である。
「あの…私、ちょっと部屋に……」
話の流れに嫌なものを感じて、夕菜は席を立つと急いで廊下に出る。
ドアをパタンと閉めると、盛大な溜め息を遠慮なく吐いた。
「つ…疲れた……」
陽一が和也につかまっている限り、動けないから自室で少しのんびりしよう。と夕菜は言葉通り部屋へと向かった。
部屋のドアを開けると、ベッドに腰掛けた少女がニッコリと夕菜に笑いかけた。
「会いたかったわ」
少女と呼ぶには少し不適切かもしれない。 しかし、女性と呼ぶには違和感を伴う。
栗色の長い髪を耳にかける仕種をしながら彼女は暗い瞳で夕菜を見つめた。
「誰?」
自分の中に吹き荒れる恐怖を押さえ込むようにして、夕菜は声を絞り出す。
答えを知っていても聞かずにはいられない。 もしかすると、無意識のうちに時間を稼ごうとしていたのかもしれない。
「あたし? あたしは恭子よ。昔は、もっと別の名前で呼ばれていたけれど…忘れてしまったわ」
ゴクリと夕菜は唾を飲み込む。
夕菜はゆっくりとポケットの中の携帯のボタンを探る。
陽一の携帯に電話を掛けて助けを求めようとして、夕菜は愕然とした。
(番号知らない………やだっ…じゃぁどうすればっ)
夕菜は頭を働かせて、ほかに連絡を取る方法がないか考える。
陽一が、異変に気付いて来てくれるかもしれない。という淡い期待を持ちながら、恭子と遭遇したことを知らせる確実な方法を考える。
(そうだ!)
夕菜は一度、真莢の携帯から電話がかかってきたのを思い出すと、それが今から何番目前にかかってきたものかを数える。
(一番新しいのが美由だから……)
夕菜はポケットの中で、記憶を頼りに指を動かしてボタンを押す。
着信履歴の所を開くと、ゆっくりと数えながらボタンを押し、真莢からの着信のところだと思われるところで指を止め、発信した。 後は、電話のかかった先が真莢の携帯であることと、向こうがこっちの異常に気が付いてくれることを夕菜は祈るばかりである。
そのためにも、気付くまでの時間を稼がなくてはならない。
「私に…何か用なの?」
「うん。だって、あなた邪魔だし。それに、あなたが何者なのか確かめたかったから」
「私は人間以外の何者でもないわよ」
「嘘。あなたからは人魚の匂いがする。それに人間にあたしの仇呪や恋呪を返せるわけ無いじゃない。仇呪が返ってきたせいで、ほら。こんな怪我しちゃったのよ」
恭子は服の袖を捲ると、夕菜に腕を見せる。 そこには、火傷のように皮膚がただれた黒い痣が右腕全体にできていた。
余りの酷さに夕菜は目を逸らす。
「それとも、あなたの背後に誰かがいて味方してるのかしら? 仇呪を返したのもそいつ? だとしたら非常に興味深いわね」
恭子は笑うと右手を上げた。
パシャパシャと水の跳ねる音が聞こえてくる。
恭子が攻撃態勢に入ったのを見て、夕菜は自然と身構えた。
しかし………
(どうするの。どうやって呪力を使うのかわからないよ……)
夕菜の額に汗が滲む。
「安心して。まだ殺してあげない。あなたの後ろにいる奴もひきずりださなきゃ、また邪魔されるもの」
恭子の言葉に夕菜はドキリとする。
部屋の中に、恭子のことは避けるように、霧が出始める。
「あなたを餌にして、おびき寄せて一緒に殺してあげるわ」
嫣然と微笑む恭子の顔が急にぼやけた。
(この霧…もしかして……)
夕菜は慌てて口と鼻を押さえる。
「あら、やっと気がついたみたいね。でも、残念ね。もう遅いわ」
薄れ行く意識の中、夕菜は胸元に手を伸ばす。そして崩れるように床へと倒れた。
※ ※ ※
陽一は携帯の着信音に、和也に断って廊下に出る。
ナンバーを確かめると、なぜか『公衆電話』とディスプレイには表示されていて陽一は首をかしげる。
しかし、出てみれば相手は真莢だった。
「真莢。恭子さんが見つかったのか?」
陽一の問い掛けに返ってきたのは真莢の怒鳴り声だった。
「え? 夕菜? なら部屋に行くって……」
陽一はそこで言葉を失う。
気を張り詰めて辺りの様子を窺い、上の階から僅かに流れてくる匂いに気が付いた。
「ちっ! やられた!」
陽一は吐き捨てると二階へと続く階段を一気にかけ上る。
匂いの出所。夕菜の部屋の前に辿着くと、勢い良くドアを開けた。
開かれたドアから勢い良く流れ出てくる霧に両腕を顔の前で交差して顔をかばい息を止める。
しかし、すぐに部屋の中に視線を走らせ、夕菜の姿がないのを見ると、陽一は近くの壁に蹴りを入れた。
部屋の中に立ち込めていた霧は、部屋の外へと流れ出ていってしまってる。
頭を抱え込むように座り込むと、つながったままの携帯に向かって喋った。
「ワリィ。やられた。お嬢さん、さらわれちまった。僕のミスだ。ごめん」
夕菜の部屋に、陽一の声が空しく響いた。 真莢たちと合流する段取りを付けると、陽一は携帯を切る。
部屋の中に何か手掛かりがないかざっと探してみるが、予想通り何も見当たらない。
陽一は自分の気の緩みが引き起こした事態に、苦虫を潰したような顔をしながら、部屋を出ていこうとして足を止めた。
ちょうど開いたドアと床の僅かな隙間に何か自分を呼ぶ声のようなものを感じる。
陽一はドアの位置を少し閉めてずらすと、隠れるように落ちていたそれを拾う。
「地獄で仏だな」
陽一は拾い上げた夕菜のネックレスに、僅かな苦い笑みを見せた。
「これがあれば、夕菜の居場所が確認できる。……確認してみせるさ」
陽一は大切そうにネックレスをポケットにしまうと夕菜の部屋を後にして階下へと降りる。
そこで、陽一は屋敷の中が異様に静まり返っていることに気が付いた。
応接間のドアを開けると、ぐっすりと眠っている和也夫妻の姿。
「……あの霧のせいか。あれ催眠効果を持ってたからな。でも、これで記憶操作する手間が省けたカモ」
しかし、このままほっとくのもまずいので、目が覚めたら夕菜と陽一にあったことは夢だった。と思わせるような暗示を屋敷全体に陽一はかけた。
陽一が屋敷の外に出ると、自分の知っているバイクのエンジン音が微かに聞こえる。
車を止めてあるところに急いで行くと、バイクに跨がったままの真莢と、車に寄り掛かるようにして座り込んでいる雪音の姿があった。
「おっそーい」
陽一の姿を見るなり、雪音が頬を膨らませて文句を言う。
「お前らが早すぎんだよ」
軽口を雪音に向かって言った後、陽一は気まずそうな顔を真莢に向けた。
「気にするな。起きてしまったことは仕方がない。それよりも、夕菜の居場所を特定するような手掛かりはなかったか?」
「……それならバッチリだぜ」
陽一はポケットから、先ほど拾った夕菜のネックレスを取り出す。
夕菜が肌身離さず付けていたもので、陽一の龍の鱗の飾りが付いているものだ。
「たぶん夕菜が手掛かりになるように引きちぎっていったんだと思う。ほら」
陽一のいう通り、チェーンが引きちぎれたように壊れている。
「俺がこれとシンクロして、現在の夕菜の意識に飛ぶことができれば居場所は特定できるはずだ」
「できるのか? かなり難しいし、力も使うだろ」
「できるできないじゃない。絶対成功させる。自分のミスは自分で取り戻す」
力のこもった陽一の言葉に、真莢は諦めたように息を吐く。
「わかった。お前に任せるよ」
陽一は真莢の言葉に強気な笑みを浮かべた。「おう」




