プロローグ
夕菜は砂浜に立っていた。
素足で踏みしめる砂の感触。
波の音が聞こえる。
(コレは夢なのだ)
潮風の匂い。
(いつも見るアノ夢だ)
岩場に女が居る。 靄がかかった様に姿は良く見えない。
しかし…それでもそこに女が居ることを私は知っている。
白い肌。赤い唇の女。 もう少しすると、女の顔だけが見えてくる。
(いつもと同じ夢)
女の唇が動いて言葉を紡ぐ。
(今度はなんと言っているか聞こえるかな)
いつもの夢はここで終わってしまう。
しかし今夜の夢は……
「呪ってやる」
届いた女の声に鳥肌が立った。
急に靄が晴れていく。 嗅覚を襲う生臭さ……血の臭い。
女の左腕の肉はこそぎ落とされていた。 肌を染める鮮血。
「呪ってやる」
女の腹の肉は抉り取られている。
ふと見下ろした自分の手。 鮮やかな朱の色。赤……
(あたし?)
「私はお前を許さない」
聞こえてきた女の声に、視線を女へと戻す。
女の下半身は鱗に覆われていた。
岩場に横たわるは、血肉を奪い取られた人魚。
―――海が……ざわめいている。
それは人魚が恋しさのあまりに、想い人を呪い殺す前兆――。




