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第八十二章 無限の申し子達

「フハハハハッ!どうした羽竜!お前の信念などその程度しかないのか!」


神の………不死鳥の翼を完璧に使い挑む羽竜だったが、見事なまでにあしらわれる。

 ヴァルゼ・アークが挑発するのはもっと羽竜の力が欲しいから。

しかし、羽竜にとっては矛盾条件を抱えたままの戦い。制限時間があるものの、数字で提示されたわけでなく、力を発揮して戦えば見えない制限時間は一気に縮まる。かと言って、手を抜いて戦いが長引けば自分に勝率は無くなる。実力ではヴァルゼ・アークには遠く及ばない。

今までもただただ信念だけで戦って来た。自分に頼れるものは他にはない。


「そういえば答えてなかったな、俺とお前の戦いの未来が無いわけを。」


そうだ。まだ聞いていない。法則が無い事=未来が無い事ではないはずだ。

黙ってヴァルゼ・アークの言葉を待つ。


「時代を終わらせる力を持つ者………すなわち運命に抗える力を持つ者を終焉の源と呼ぶ。」


「だからなんだってんだよ!そんなセリフは散々聞いて来た、回りくどい言い方はもううんざりだ!男ならハッキリと言え!」


「短気な奴め。俺とは正反対だな。」


ダイダロスの薄ら笑いを見なくて済むと思ったら、今度はヴァルゼ・アークのすかした笑みを見なくてはならない。腹が立つのは無理もなかった。


「今言った言葉が答えだ。」


ヴァルゼ・アークも一から説明はする気は無い。


「ふざけんな!わかんねーよ!」


「わからないならわからないで構わん。」


会話をしていても時間の無駄なのはわかっている。だが羽竜にはヴァルゼ・アークに勝てる材料が揃ってない。せめて手元にトランスミグレーションがあれば…………もっとマシな戦いが出来るのだが。


「お前から来ないのなら俺から行くぞ!」


痺れを切らして攻撃に転じる。

ミクソリデアンソードが頼りの綱。羽竜は必死に応戦する。


(なんとか………トランスミグレーションを取り戻せれば……)


そう焦る気持ちを加速させるように、何度もヴァルゼ・アークの攻撃を受けたミクソリデアンソードにわずかに亀裂が入る。


「くそっ………!」


「フフ………あかね嬢の想いも儚く消えるか。」


胸が苦しい。宇宙が無に還る速度を増したのだ。

このままでは………負ける。

羽竜に成す術はなかった。







「宇宙が……………無に還るわ。」


由利は天を仰いだ。

異変を感じる。空間が捩曲がり、大地が割れ、空が歪む。


「総帥の勝ちなんですね?」


結衣は嬉しかった。大好きな『お姉様』の犠牲を払った甲斐があったのだ。


「…………勝ちなのです。」


景子も感無量だ。新たな宇宙で早く生まれ変わりたいと気が騒ぐ。


「さあ、見届けましょう。宇宙が無に還る瞬間を。」


由利は結衣と景子の肩に手を乗せ、辿り着いた勝利に酔いしれる。その間に、全てが終わる。







羽竜のオーラが弱くなって行くのを感じ、あかねは祈っていた。最後まで諦められない。奇跡は必ず起こる。


「羽竜君…………お願い、諦めないで!羽竜君が諦めたら世界が………宇宙が終わっちゃう。貴方は一人じゃない。ジョルジュも蕾斗君も、フォルテ君も水城さんも、セイラ様もメグちゃんもリスティも………私もついてる!だから、勝って!勝って私のところに帰って来て!」


届くはず。

 蝕む絶望を振り払い、羽竜は必ず勝つ。

あかねは強く……誰よりも強く祈り続ける。







「羽竜………ヴァルゼ・アークもお前と同じなんだ。二人とは存在しないはずの終焉の源。宇宙は迷っている。だからお前達に運命を委ねたのだ。」


サマエルもまた成り行きを見守っていた。

彼も宇宙の心を知っていた。

自身の人生を茨に例える心中に、小さな光を見た。希望だ。

何かを信じて歩く。不確かな希望だとしても、歩き続ければ道は見つかる。

羽竜達と出会った頃は天使が負けるとは思っていなかった。それどころか、羽竜達がここまで生き残れるとは思わなかった。

見事に運命を裏切った羽竜ならば、逆境に立たされてもはい上がるだろう。いや、逆境に立ってからが羽竜の真骨頂だろう。


「可能性が無くても諦めない。信じ続ければ道は開く。お前が教えてくれた事だ。悔いを残したままでは死ねん………そうだろう?羽竜………」







ミクソリデアンソードが折れた。同時に羽竜の心も折れてしまった。

がむしゃらに戦って来た羽竜には、ヴァルゼ・アークの用意した舞台は広すぎた。


「勝負あったな。宇宙は間もなく無に還る。俺の勝ちだ。」


ひざまずくようにうなだれる羽竜に言葉はなかった。


「……………お前はよくやったよ、俺が認めてやる。」


過去の映像も未来の映像も消えている。壊れたのだ、宇宙の心が。


「魔帝、今なら言える。感謝してると。運命に勝利したのだ!見ていてくれたか、友よ!」


ヴァルゼ・アークが魔帝に叫んだ。そして初めて友と呼んだ。

勝利を噛み締めるヴァルゼ・アークの後ろで、羽竜は己の力の無さに悔し泣きしていた。


「…………ちくしょう。ここまで来て負けるのか………」


遠退く意識の中、羽竜は奇跡を目にする。


『羽竜、こんなところで諦めるお前じゃないだろう?』


「ジョ……ジョルジュ……」


ジョルジュがいる。


『立て、羽竜。まだ終わってない。私の魂を無駄にするな。』


「オブリガード……」


不死鳥の姿でオブリガードも。


『あかねに嫌われるぞ。』


「フォルテ!!」


あの無邪気な笑みでフォルテが。


『貴方は一人じゃないわ。私達がいる!』


「メグ!!」


優しい眼差しがあかねを想わせる。


『何泣いてんの?戦士が聞いて呆れるわ!立ちなさい!』


「セイラ………」


相変わらず毒づくセイラまでいる。


『ここからが正念場じゃないのか?』


「リスティ………」


若き日のリスティ。過去で知り合ったリスティだ。


『羽竜君に涙は似合わない。さ、立って。僕達が力を貸すよ。』


「蕾斗!!お前まで………」


死んで行った仲間達の魂が羽竜を呼び覚ます。

そして羽竜は立ち上がる。


「まだだ………!まだ終わってない!!」


立ち上がった羽竜の周りには蕾斗達が見える。ヴァルゼ・アークはおののいた。


「バカな。成仏出来ずに迷い出たか!」


絶対支配を構え羽竜に仕掛けた。


「うおおおーーーっ!!!」


唸り、ヴァルゼ・アークの顔面を殴る。


「ぐわっ……!!」


ヴァルゼ・アークが無様に転ぶ。


「どこにこんな力が!!?」


「俺にはみんながいる。ヴァルゼ・アーク、宇宙が無に還るまで俺は諦めない!!」


羽竜の顔に血の気が戻る。

立ち上がるヴァルゼ・アークにもう一発お見舞いし、その隙にトランスミグレーションのところへ行き、抜く。

 力一杯引き抜くと、インフィニティ・ドライブが乱れ出す。収縮をやめ膨張に戻ろうとすり宇宙とのバランスが保たれなくなった。


「勝負はまだついてない!ヴァルゼ・アーク!!」


形勢逆転のはずだった。その矢先、ヴァルゼ・アークの周りにも死んで行った彼の仲間達が現れる。


「お前達…………!」


ヴァルゼ・アークも驚いた。


『総帥には私達がいます。』


美咲が言った。


『後少しです。総帥の野望が叶うまで。』


愛子が。


『おーほっほっほ!そんな顔は総帥には似合いませんわ!』


純が。


『勝ってもらわないと困りますよ。くすくす。』


千明が。


『恐れる事はありません。最後に勝つのは総帥です。』


絵里が。


『ラストスパート、行きますよ!』


葵が。


『愛する総帥の為に、全てを賭けます!』


ローサが。


『生まれ変わって、またみんなで騒ぎましょうよ。』


翔子が。


『しっかり絶対支配を握って下さい。』


はるかが。

ヴァルゼ・アークを慕う者達も、彼を勝利に導く為に集まる。


「……………お節介な奴らだ。」


嬉しそうにヴァルゼ・アークは皮肉った。


「羽竜!お前だけじゃない。俺にも仲間がいる!俺が愛し、俺を愛した女達が!」


ここまで来て負けられないのはヴァルゼ・アークも同じ。


「あんた言ったよな?俺達は運命の牢獄に囚われてるって。でも囚われてたのはあんただけだったんだ。」


「ほう。俺が?」


「そうさ。こだわり過ぎだぜ。運命なんて気まぐれじゃないか。女と一緒さ。」


「フッ………お前に女を説かれるとはな。」


互いに剣を構える。


「何があんたを駆り立てたのか知らねーけど、運命を意識した時からあんたの負けだ。」


「仲間が来たら随分饒舌になったな。」


「格好悪いところは見せられねーからな。」


「俺は最後まであがくぞ。俺から何もかも奪った宇宙を許す事は出来ん!」


「ならケリをつけようぜ。あんたの野望はここで終わりだ!行くぞ!ヴァルゼ・アーク!!」


仲間達が羽竜を支えるように力を注ぐ。


「全力で来いっ!これが最後だ!!」


ヴァルゼ・アークもまた支えられて来た。どんな大木も、しっかりとした土でなければ根は張れない。レリウーリアという土があって自分がいる。

羽竜か…………ヴァルゼ・アークか…………全てを賭けて振り下ろす剣は、運命を切り裂いた。


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