第八十章 宇宙の心
ヴァルゼ・アークの導きのままに羽竜は来ていた。『宇宙の心』とやらに。
青い空間の中、50インチ大のモニターのようなものがずらりと左右に無造作に浮かんでいて、そこに流れてる映像には西洋の風景やそんなに昔じゃない時代のものまで流れている。恐竜の映像まである。
「これは…………?」
映っている恐竜が本物かどうかは確かめる術はないが、まさか映画を流してるわけでもないだろう。
羽竜は無限にありそうな映像を眺めながら空間の奥へ進んで行く。
「目を奪われたようだな。」
「ヴァルゼ・アーク………」
人間の姿でヴァルゼ・アークはいた。
「ここがあんたの言ってた宇宙の心……?」
「そうだ。周りにある映像は宇宙が定めた歴史の数々よ。お前の右側にあるのは過去。左側にあるのは未来だ。」
「未来?」
羽竜は未来の映像を見る。
確かにSF映画に出てきそうな戦闘機らしきものが撃ち合いをしている。戦争をしてるらしい。
「運命が決まっていると言った意味がわかっただろう。」
ヴァルゼ・アークは投げやりに言った。
納得した。ヴァルゼ・アークはここで運命を知ったのだ。
「本当にこれが未来……?これから起きる出来事だって言うのか?」
驚き半分、好奇心半分。羽竜は『未来』の映像をまじまじと見る。
よく見れば、人々が惨殺される映像、悲鳴をあげ逃げ惑う映像………見るに耐えない映像まである。
おおよそ地球の歴史の全て。羽竜は『未来』の中からある映像を探す。
到底探しきれる数ではないが、それでもどうしても見たい『未来』がある。
「お前の探してる『未来』は無い。」
羽竜が何を探しているのか見当はついていた。
「無いって…………なんでだよ?」
無いわけがない。ヴァルゼ・アークは法則を破ってないからだ。だから絶対にあるはず。必死に探した。あるべき『未来』の姿を。
「確証がないと不安か?」
羽竜を憐れむ。
サマエルは言った。ヴァルゼ・アークは天使を滅ぼなければ法則を破ったとは言えない。そして自分がまだ生きている事実。そう、天使であるサマエルが生きている以上、ヴァルゼ・アークは運命の奴隷のままなのだ。だからヴァルゼ・アークが『負ける未来』が無いのはおかしい。
「なんで………なんで無いんだ!?あんたが負ける未来がどこかにあるはずだ!」
「ほう……俺が負ける未来か。そいつは面白い。」
「サマエルは死んでない。つまりあんたの法則である天使の滅亡ってのは遂行されてないって事だろ。だったらあんたが俺に負ける未来が絶対にあるはず……!」
「ハハハハッ!そういう事か。くく………」
「何がおかしい!」
「その法則は『悪魔』、強いて言えば『魔帝』のものだ。『俺』自身のものとは別だ。」
考えてなかった。そうだ、彼は『魔帝』+『人間』。よくは理解出来てないが、法則が二つあってもおかしくない。
「魔帝は自分の運命を絶対支配と共に『俺』に託した。その時の約束が天使を滅ぼしてほしいというものだった。『俺』は魔帝との約束を守っただけよ。まあ、サマエル一匹くらいは勘弁願うが。」
「魔帝と会ったのか……?」
「そういう事になるな。」
一体この男に何があったというのか?少年っぽい笑みはなく、世の中を嘲笑うかのような表情を見せる。
「気が済んだなら始めようか。」
絶対支配を取り出す。
「トランスミグレーションは使わねーのかよ?」
「トランスミグレーション?俺には絶対支配がある。他にはいらんな。」
「じゃあ返せ。」
返せと言って返って来るものでもないのは承知の上。
言ってみただけだ。
「ダイダロスと蕾斗はインフィニティ・ドライブを自分の力として使おうとした。だがそれは間違った使い方だ。トランスミグレーションの………インフィニティ・ドライブの本来の使い方を教えてやろう。」
ヴァルゼ・アークはトランスミグレーションを突き立て、インフィニティ・ドライブが解放される。
すると歴史の映像が乱れ、気流に飲まれたような感覚がする。
「何をしたんだ……?」
「宇宙を無に還すのさ。」
自分達のいる空間が急激に回転を始めた。
「わかりやすく言えば、インフィニティ・ドライブで時間の再生、早送り、巻き戻しを同時に行う。見てみろ、受け止め切れない力に宇宙はストレスを感じている。」
ヴァルゼ・アークは続ける。
「やがて宇宙は膨張をやめ停滞期に入る。」
羽竜は固唾を飲んで聞く。
「最終的には宇宙を収縮させなければならない。だがインフィニティ・ドライブでは今の状態を保つだけが限界だろう。そこでだ、終焉の源の力が必要となる。」
「……………俺の?」
「俺とお前が戦えば、インフィニティ・ドライブに匹敵する衝撃波が出せる。衝撃波で更に負荷をかけ、収縮させる力に変えてやるのだ。宇宙が無に還る前に俺を倒さなければ、お前の負けだ…………羽竜。」
よくもまあ思い付いたものだと舌を巻く。時間の再生と早送りと巻き戻しを同時に行う?信じるには知識が足りな過ぎる。でも宇宙は確かにストレスを溜めて停滞している。
『魔帝じゃないヴァルゼ・アーク』…………こんなにも恐ろしい奴だとは思わなかった。
「クッ…………制限時間付きかよ。」
「再生される時間は俺とお前だけのこの空間。さあ……始めようじゃないか。正真正銘、最後の戦いだ。」
真っ赤な髪に真っ赤な瞳。雄々しく聳える二本の角。魔帝ヴァルゼ・アークだ。姿だけは。
魔帝のものだけじゃないオーラが漂う。
ミクソリデアンソードを構えヴァルゼ・アークを見る。
羽竜は混乱寸前だった。誰なんだ……と。人間?ただの人間ではないのだとしたら、彼は……………………。
「ヴァルゼ・アーク……………あんた一体何者なんだ?」