第七十六章 それでもまた陽は昇る
由利達の不安は解消された。ヴァルゼ・アークの笑顔を見れば語らずとも事がうまく行ったのだと知り得た。
「お帰りなさい………ヴァルゼ・アーク様。」
由利が言った。
「ああ。ただいま。」
半分照れながら答えた。
相変わらず浮遊城は崩壊していっている。ぐずぐずしてる暇はもちろんない。
「そのトランスミグレーションは………?」
結衣がヴァルゼ・アークには似合わない真紅の剣を見て言った。
「インフィニティ・ドライブだ。」
その一言が全てを語った。
「お疲れ様でした。一先ず屋敷に戻りましょう。」
美咲は久々の笑顔を見せた。
「そうだな。とりあえず帰るか。」
横にいた景子の頭を軽く撫でる。自己アピールのない景子の存在を、ちゃんと認識してると伝えているのだ。
全員が翼を広げ、美咲はヴァルゼ・アークの後ろに何気なく視線を置く。そして見てしまう。二度と目にする事はないと思っていた男の顔を。
男は魔力の刃を構えていた。
「総帥、危ない!!」
ヴァルゼ・アークを押しのけて男の前に出た。
「ダイダロス!!」
由利が男の名を叫ぶ。
ダイダロスは魔力の刃を放っていた。そして美咲の胸に突き刺さる。
「あうっ……………」
美咲の眼鏡が先に落ちる。
倒れる美咲をヴァルゼ・アークが受け止める。
「美咲!!」
「フハハハハハ!!まだ死なん!!私はまだ死なんぞ!!」
髪を振り乱しダイダロスが叫ぶ。
「貴様あッ………!!!」
美咲を結衣に預けダイダロスに詰め寄り、思いきり殴り付けた。
「ぐあっ!」
「どこまでしぶとい奴なんだ!」
持っていたトランスミグレーションで、残る右腕を飛ばす。
「うわああっ!!」
ダイダロスに戦うだけの力はない。死に損ないというやつだ。
「フフ…………負けてなるものか……………負けてなるものかあっ!!!」
飛び掛かろうとするダイダロスの翼を斬り落とす。
「ウオオオッ!!」
もはやゾンビのように襲い掛かる。
だが呆気なくトランスミグレーションを突き刺され、崩れ落ちる。
「はぁ………はぁ………私は……………………まだ………」
「二度と………二度とそのツラ見せるなっ!!」
とどめに心臓へ一刺しした。
ハッとして振り返り美咲のところへ戻る。まさかとは思うが………。
「美咲!」
ヴァルゼ・アークは美咲をもう一度抱き抱えた。
「申し訳ありません…………せっかく助けていただいた命………………」
「何を言う。気をしっかり持て!今傷口を防いでやる!」
突き刺さった刃を抜こうとしたヴァルゼ・アークの手を美咲が弱々しく掴む。
「美咲?」
「もう助かりません………自分の事は自分が……よくわかっています………。」
ふらふらだったところに喰らった一撃は、あまりに大きかった。
「…………すまない、仕留めたつもりだったのだが。」
「謝らないで…………最後にヴァルゼ・アーク様をお守り出来て………よかった………。貴方に愛されて………幸せでした………」
美咲の手を握る。もう助からない事を悟ったからだ。
「ここで………みんなと果てます………。どうか………野望を叶えて…………」
「美咲っ!」
意識を失った美咲を強く抱きしめる。
予想以上の生命力だったとは言え、仕留め切れなかった自分の失態によって美咲は死んだのだ、やる瀬ない気持ちでいっぱいだ。
「総帥…………」
由利にもかける言葉は思い付かなかった。
ヴァルゼ・アークは美咲をそっと寝かせ、
「行くぞ。俺にはまだやらなければならない事がある。」
夜明けの空へ飛び立つ。
由利達もそれに続く。
世界は破滅し、仲間は死にゆく。それでもいつもと変わらず昇る太陽が、運命には逆らえないと言わんばかりの宇宙の意志に見えた。