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第七十一章 神の翼

ミドガルズオルムが召喚された。深刻な事態に由利達はヴァルゼ・アークの元へ来ていた。


「総帥!」


美咲が真っ先に抱き着いた。


「時間がかかってすまなかった。」


美咲の頭を撫でながら抱きしめ返す。小刻みに震えてるのは、久しぶりの温もりに安心したからだろう。


「いえ、私は大丈夫です。ただ………私の為にみんなを死なせてしまって…………」


「言うな。お前が悪いわけじゃない。」


ヴァルゼ・アークはマントを美咲にかけて頬を撫でる。

美咲はその手を取り唇をそっと当てた。


「総帥、ダイダロスは………」


結衣から受け取ったダイダロスの眼帯を手に、由利はミドガルズオルムを見ていた。


「確実に葬ったと思ったが………詰めが甘いのは俺も同じか。羽竜だけ責めるわけにはいかんようだな。」


さて、どうするかと思考を回転させてると、どこか遠くから熱い気配を感じる。


「…………まさかとは思いますけど………不死鳥族?」


結衣が目を懲らして空を覆い尽くしているミドガルズオルムの身体の隙間を見る。

甲高い鳴き声が響くと、炎を纏った鳥が飛んでくるのがわかる。


「役者がもう一人いたようだな。」


ヴァルゼ・アークがにんまりとした。

飛んで来たのはそう、不死鳥。不死鳥族の守護神オブリガードだ。


「この状況でこのタイミング………狙ってた?」


何か思惑を意識させる。由利には偶然には思えなかった。


「気が変わった。俺も参加させてもらう。」


二十四対、四十八枚の翼を堂々と広げる。


「なら私達も!」


結衣が翼を広げようとするのを見て、


「お前達は見ていろと言ったはずだ。」


ヴァルゼ・アークが念を押す。


「しかし、この状況でインフィニティ・ドライブは手に入るのですか?」


とてもじゃないが、手立てがない気がして美咲は不安になる。


「さあ………どうかな?」


ヴァルゼ・アークは悪戯に笑む。


「どうかな………って。総帥!!」


結衣も、曖昧な返事に余計に不安が募る。


「フッ………胸が高鳴らなければイベントとは呼べんだろう?これは最大級のイベントだ、俺が勝利するのを期待して待ってろ。」


こうなると何を言っても無駄だ。含みがあるのかどうかさえわからない。

ヴァルゼ・アークの悪い癖なのだが、楽しそうにしている彼を見て誰が止められるだろうか?


「総帥を信じて待つのです。」


景子はヴァルゼ・アークの機嫌を取るべく反対はしない。

わかってほしくてじっと見つめる。


「インフィニティ・ドライブは必ず手に入れて来る。」


そう言って飛び立った。

まるで遊びにでも行くかのように。







羽竜とあかねは、ミドガルズオルムの周りを旋回している不死鳥を見ていた。


「不死鳥…………オブリガードか!」


「オブリガードって………フランジャーの事だよね?」


オブリガードが助っ人に来たのか、羽竜にはまだ確信は持てない。

一万年に一度、ミドガルズオルムはその身を不死鳥に焼かれるという。ヴァルゼ・アークが言っていたのを思い出した。

だとすると、助っ人にはなってくれないかもしれない。

一向に旋回をやめない不死鳥に、まだ安心は出来なかった。


「何しに来たんだろう……」


あかねは敢えて口にした。


「わからない。でもオブリガードは死んだはずだ。」


「不死鳥だから蘇ったとか?」


「どっちにしても油断は出来ない。気を抜くなよ、吉澤。」


「うん。」


心なしか、不死鳥はミドガルズオルムと会話してるようにも思えた。一体何を話しているのか………。

不死鳥は旋回半径を次第に大きくすると、羽竜に向かって急降下して来た。


「うわっ!!」


「きゃっ!!」


熱気を引っ提げて二人の前でホバリングしている。


「久しぶりだな………羽竜。」


「やっぱりオブリガードか!!生きてたのか!?」


「私は不死鳥だ。死ぬという事とは無縁よ。」


「へっ………だったらもっと早く来いよな。不死鳥族(お前)んとこのへなちょこ野郎がとんでもねー事してくれてるぜ?」


「私にも都合というものがある。レリウーリアに不死鳥界を滅ぼされ異次元をさ迷っていたんだ、これでも急いで来たつもりだが?」


あかねはオブリガードが助っ人に来た事を確信すると胸を撫で下ろした。


「で?あのモンスター倒すアイテムでも持って来てくれたのか?」


羽竜は何が出て来るのか期待している。


「そんなものはない。」


「な………それじゃ何しに来たんだよ!?」


まるでオブリガードに他に何も出来ないような言い方をする。

悪意はないが言われた方は気分が悪い。


「何しに来たとは相変わらず失礼な奴だ。」


「わ、わりいわりい……。」


口を開けば誰かしら怒らせるのだからたいした才能だ。助けに来てくれた者にまで。


「まったく…………。いいか?羽竜、私がここに来たのはお前に私の命を託す為だ。」


「…………俺に?」


「私の魂………シーミレと引き換えにお前に翼と不死鳥族の鎧をやる。便利なアイテムではないが、確実な防御を誇る鎧だ。それと翼。どこまでも飛んで行ける神の翼だ。」


「魂と引き換えって……お前は死なないんじゃなかったのか?不死鳥だろ?」


「死ぬのとは違う。存在を変えるのだ。意思は失くなるが、心はお前と共にある。」


「でもよ!」


「他に方法はない。生きとし生けるもの、万物の運命をお前に委ねるのだ。」


「オブリガード…………」


「神だろうと人間だろうと、この世の生き物には皆平等に生きる権利がある。生きようとする意思がある限り、何人もそれを阻む事は赦されん。例え運命が初めから決まっているとしてもだ。」


オブリガードが炎で羽竜を包む。


「それと、断っておくが神の翼と鎧は勝利を約束するものではない。全ては終焉の源たるお前次第だ。忘れるな…………」


オブリガードは己の魂と引き換えに羽竜に不死鳥神の証を託した。

 真紅の刃を持つトランスミグレーションに合わせたように真っ赤な鎧に羽竜が身を包む。

そして背中には、六枚の炎の翼。雄々しく燃えている。


「凄い……………」


あかねが見惚れるほど鮮やかな赤。宝石のようなまばゆい輝きに虜になりそうだ。


「オブリガード………お前の意志は俺が確かに受け継いだ。」


遥か上空へ移動を始めたミドガルズオルム。

それは羽竜を誘ってるように見えた。


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