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第七十章 無神論者

息絶え絶えで目指した場所は、


「………アダム!」


蕾斗のところだった。


「ダイダロス………」


姿形は変わっても、蕾斗だとわかるのはインフィニティ・ドライブの気配。奢り高ぶるようにも感じるし、威厳の塊にも感じる。不思議なほどの深い神秘すら感じるのだ。こんな気配はインフィニティ・ドライブの他にはない。


「生きてたんだね……」


一度は敵と睨んだダイダロスの存在に安堵する。


「ええ……なんとか。さすがに魔帝には遠く及びませんでした。貴方は誰に?」


蕾斗が逃げて来たのは雰囲気でわかるが、今の蕾斗を追い詰める者がいるとはダイダロスには思えなかった。


「聞かないでよ。」


「終焉………ですか?」


羽竜が追い詰めたのだとしたら、事態はダイダロスにとっては深刻だった。

何があったのか事実関係を知る余裕はもうない。ヴァルゼ・アークには勝てない事は身をもって知った。生きてる事が奇跡だろう。

 蕾斗からインフィニティ・ドライブを奪うのなら今をおいては二度と訪れない気もする。でもそれすら出来ない。『鍵』が手元にないからだ。

眼帯を奪われあらわになった右目には、埋め込まれた宝石が妖しく光っている。


「初めて見たよ、目に宝石なんか入れてる奴………」


屈託のない笑いを見せる。かつては羽竜達に見せてた笑顔だ。


「フフ……これは解空時刻ですよ。」


「………まさか……三つ目が存在したなんて………!!」


「アダム、このままでは二人とも負けてしまいます。最終手段を取りませんか?」


「最終手段?」


誰かを信じてなければ不安な蕾斗の性格を最大に利用する時期が来た。インフィニティ・ドライブを剥ぎ取れなかった時の為の計画。蕾斗と同一の単体になる事でインフィニティ・ドライブを手にする。あまり望んだ計画ではなかったが、戦う相手が悪かった事を今更ながらしみじみ痛感している。やるしかないだろう。


「ミドガルズオルムを呼びましょう。」


「ミドガルズオルムって………あのでかい蛇の事?」


過去で見たあのとてつもなく巨大な蛇。空を覆い尽くすほどの巨大さに息を呑んだのを思い出す。


「あの時ミドガルズオルムを呼び起こしたのはオノリウスです。彼に出来たのなら貴方にも出来るはずです。」


「いきなり言われてもどうやったらいいのさ……」


「解空時刻にインフィニティ・ドライブを注ぐのです。」


「解空時刻に?」


「解空時刻はフラグメントを集める為に存在したわけではありません。本来の目的は空間に歪みを作り、異次元への道を生み出す為のアイテム。道さえ開けばミドガルズオルム自ら現れるでしょう。」


「ま、待ってよ!ミドガルズオルムを呼んだって僕らの言う事聞くかわからないじゃないか。危険な賭けだよ!」


「危険は百も承知。だからこそ効果のある戦略なんです。」


駄々をこねる蕾斗に説得を試みるのは、うまく言いくるめる自信があったからなのだが、思惑と裏腹に蕾斗は応じない。


「確実でないのなら僕は反対する。」


「……………困りましたねぇ、貴方を追って終焉が来ますよ?ほら………」


顎で蕾斗の逃げて来た道を指す。

そこには駆けて来る羽竜とあかねの姿があった。


「ハア……ハア……ダイダロス…………!」


蕾斗を垂らし込んだ張本人を前に羽竜の士気が上がる。


「終焉………」


士気が上がるのはダイダロスもだ。なぜなら、『鍵』がこのタイミングで向こうから来たからだ。


「フフフ…………フハハ………ハーッハッハッハッ!!!運命とはつくづく面白い!!なるほど、最後まで諦めるなと言う人間の言葉の意味がよくわかる!」


「何がおかしいんだよ!」


「これが笑わずにいられるか!」


にやけ顔が、険しく企みに満ちた顔つきになる。言葉遣いと共に。


「宇宙に心があるというのなら、宇宙は私を選んだのだ!終焉の源として!」


「何言ってんだ、一度は逃げたんだろーが!」


「逃げたわけじゃない。待っていたんだ……この時を!」


ファイナルゼロはヴァルゼ・アークに消されたが、それでも負ける気はしなかった。


「ダイダロス!」


「アダム、貴方はそこで見てなさい。終焉の源は二人もいらない。羽竜は私が倒します。」


蕾斗を押しのけ持てる力を惜し気もなく表層に出す。


「トランスミグレーションは私の前では無力!喰らえっ!アポトーシス・レイン!!」


全力で倒しにかかったダイダロスだったが、宇宙は彼を選んだわけではなかった。


「最後まで諦めないのなら、最後まで油断するべきじゃあなかったな!」


意味ありげに羽竜が笑った。


「何っ!?」


「トランスミグレーションは創造主のお前を見捨てたんだよ!!」


アポトーシス・レインに向かって飛び込んで来る。

羽竜がいつもと違う構え……刃を下げている。そしてアポトーシス・レインを切り裂く。

瞬間、見えたトランスミグレーションの刃は赤く光っていた。


「バカな………!」


創造主であるダイダロスの前でトランスミグレーションは力を発揮出来ないはずなのに…………絶対支配と同様に羽竜を選んだのだ。


「くたばれ!ダイダロス!!ディープ・エンド・エクスプロージョン!!」


ダイダロス……二度目の敗北。

左腕が宙を舞った。あの時ローサの左腕を奪ったように。

舞った左腕は蕾斗の前に落ちる。


「ぐおぉ………………なぜだ!?絶対支配といいトランスミグレーションといい、なぜ私を裏切る!!?」


「どーしようもないくらいバカだな。トランスミグレーションはお前の野望の道具になるのを嫌ったんだよ。ずっと一緒に生死を共にした俺に応えてくれただけさ。」


「こんな予定では………こんな予定ではなかったはず!!」


悔しさを隠し切れない。戻る場所は、


「アダム!最終手段を!!」


蕾斗だ。インフィニティ・ドライブは目の前にある。やはりミドガルズオルムを召喚する危険な賭けに出るしかない。


「嫌だ………なんか嫌な予感がするし……」


なんとなく、ダイダロスの言葉の節々に疑惑を抱く。

今更ながら、ダイダロスもインフィニティ・ドライブを求めていた一人だと思い起こす。


「聞き分けのない……!」


蕾斗の首を掴み上げる。


「蕾斗!!」


「蕾斗君!!」


羽竜とあかねが剣を構え、暴挙に出たダイダロスにいつでも飛び掛かろうとする。しかしダイダロスがオーラを使ってバリアを張り近づけない。


「く………苦しい………何を………するんだ……?」


「どれだけ我慢したと思ってるんだ。貴様のような子供に媚びへつらうのは容易じゃないんだよ!」


蕾斗からインフィニティ・ドライブは剥ぎ取れないが、犠牲の柩をかけられ従者となっている蕾斗自身を操る事は可能だ。


「は………羽竜君……助けて………」


親友の悲痛な叫びに胸が疼く。

自分をヒーローと呼び、いつも助けを待っていた親友の叫びに。


「蕾斗………。ダイダロス!往生際が悪いぞ!!」


がむしゃらにバリアにトランスミグレーションを斬りつける。

あかねもミクソリデアンソードを同じように斬りつける。


「うるさいガキ共だ………。」


呟くように言うと、さらに力を入れて蕾斗の首を絞める。


「ぐあっ………………」


「保険をかけてて助かったよ、さあインフィニティ・ドライブを解空時刻に注げ!ミドガルズオルムを呼ぶのだ!!」


もはや蕾斗に断り続ける余力はない。次第に意識をダイダロスに奪われていく。

羽竜とあかねはミドガルズオルムの名を聞いて、ダイダロスが何をしようとしているのか悟る。想像すらしたくないあの化け物を。

 やがて完全に意識を断たれると、インフィニティ・ドライブが勢いよく解放され、ダイダロスの右目に埋め込まれた解空時刻に注がれる。


「ウオオオッ!!」


ダイダロスの唸り声と共に力を得た解空時刻は夜空に歪みを作り、空間を裂いた。


「さあ!来い!ミドガルズオルムよ!!」


その名を口にすると、奇声を発し次元の歪みから四つの目が浮かぶ。

 羽竜の解空時刻も反応している。


「フハハハッ!早く来いっ!」


辺りに激しい雷鳴が轟く。鼓膜が潰れるほどに激しく。

そして現れる…………次元管理者ミドガルズオルムが。


「マジかよ……………!」


どう対応していいかわからない厄介な敵を前に、羽竜もあかねも立ち尽くすしかなかった。


「このまま殺られてたまるかっ!この星もろとも消し去ってやるっ!」


ダイダロスが蕾斗を連れたままミドガルズオルムの目前まで行く。


「次元管理者よ、インフィニティ・ドライブと私達を受け入れよ!」


ダイダロスの最終手段とはミドガルズオルムを召喚する事ではなく、ミドガルズオルムと蕾斗と自分との融合。蕾斗はあくまでインフィニティ・ドライブの供給源として『使う』つもりだ。

舵を取るのはダイダロス。インフィニティ・ドライブが自分のものにならない時の為に考えていた手段だ。

蕾斗を操ったところでインフィニティ・ドライブを全て使いこなすのは無理だろう。ならば、ミドガルズオルムをフレームにインフィニティ・ドライブを供給すれば、フルに活用する事は可能だ。

つまり、ミドガルズオルムの屈強たる肉体は大いなる盾となる。インフィニティ・ドライブは尽きる事のない力。言わば剣となる。ダイダロスはそれらを総括する頭脳となるのだ。

自信はある。インフィニティ・ドライブにはそれだけの力があるのだから。

ダイダロスとミドガルズオルムの睨み合いが続く。

そして、ミドガルズオルムはダイダロスと蕾斗を受け入れた。

二人の身体を粒子が包み、何度もフラッシュする。真っ暗な夜空が、正反対に真っ白に光った後、そこには二人を取り込んだミドガルズオルムがいた。


「羽竜君………」


「ああ…………最悪だな……」


巨大さは変わらない。少し厳つくなり、蛇から龍へと進化したようなミドガルズオルムの額に、上半身裸体でダイダロスがいる。

蕾斗はミドガルズオルムの喉元に、元の姿…………見慣れた蕾斗のままで、両腕を広げた状態で溶け込むようにいた。


「感じる…………感じるぞ!これがインフィニティ・ドライブ!!素晴らしい…………語る言葉も見つからない。」


思惑通りにいったようだ。満足そうに悦に浸っている。


「クックックッ………ついに私は手に入れた!無限を操る力、インフィニティ・ドライブを!!」


手に入れた形は違えど、間違いなくインフィニティ・ドライブはダイダロスの手にある。


「フハハハハハハハッ!!ハーッハッハッハッハ!!!」


勝ち誇る笑いが夜空を汚す。

もはや神など恐れるに値しない存在がいた。


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