表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/93

第六十九章 ヒロイズム

羽竜、お前はまだわかっていない。相手の気持ちを汲んでやる事が優しさなんかではない。

厳しさを持ってこそ優しさなのだ。







「ぐわあ−−−−−−っ!!」


蕾斗が羽竜とあかねに負けた。

嫉妬から集中力を欠いたのだ。

背水の陣で挑んだ二人のオーラが、一瞬だけインフィニティ・ドライブの位まで力を増したのも要因だ。

疲労で膝を落とすあかねに構わず蕾斗の懐へ飛び込む。


「…………俺達の勝ちだな。」


「はぁ………はぁ………」


優位に立った事で油断が生じた。打たれ弱い蕾斗の脆さが出た。どんなに強い力を得ても、基礎体力だけは変えられなかったようだ。

トランスミグレーションが蕾斗を狙う。


「覚悟しろよ。」


だが羽竜は迷っていた。親友を手にかける事に。

蕾斗は躊躇い悩む羽竜を尻目に、ここぞとばかりに魔法をぶつけ難を逃れる。


「くそっ………!」


ワイヤースタントのように飛ばされた。


「甘いんだよ!羽竜君は!」


吐き捨てるように言ってどこかへ消えた。


「蕾斗の奴…………」


すぐに追跡を試みたが、腹部に喰らった魔法のダメージで動けない。

あかねもふらつきながら羽竜に寄っては来たが、声が出ない。


「蕾斗の言う通りだ、甘いんだよお前は。」


ヴァルゼ・アークだった。


「あそこまで追い詰めて逃げられるとはな。期待外れだよ。」


遠慮なく毒突くヴァルゼ・アークは、見下すように羽竜を見ている。


「な……何しに来やがった……。」


「蕾斗の最後を見届けに来たのさ。俺の仲間を殺した奴の憐れな最後をな。」


「だったらあんたが蕾斗を倒せばいいじゃねーか。」


「フッ…………また逃げるのか?」


「なんだとっ!?」


「水城………だったな、お前達や結衣のクラスメート。あの犠牲の柩の従者。あの時も結局は俺達が始末したんだ。」


「あんたに俺の気持ちがわかるかよ!」


「情けない奴め………羽竜、お前の目的はなんだ?言ってみろ。」


「…………俺は世界を守る。家族や学校の連中、地上の人々を助けたいから戦ってるんだ!」


「フン、笑わせる。人を傷つける事を怖がる奴がどうして人を救えると言うのだ?」


「人を傷つけなきゃ人を救えないわけじゃねーだろ………」


今までのどんな攻撃よりも利いた一発だった。

ヴァルゼ・アークが羽竜の顔をおもいっきり殴った。

羽竜はバランスを崩し………倒れた。


「いちいち盾突きやがって……。『若さ』という言葉がいつも助けてくれると思うなよ。」


絶対支配が羽竜の鼻先に突く。

見兼ねたあかねが庇う。毎度忙しい少女だとヴァルゼ・アークは思った。蕾斗から庇い、今度は自分から庇う。動く事すらままならないだろうに。


「ヴァルゼ・アークさん、羽竜君は優し過ぎるだけなんです。甘いわけではないんです。」


「それが甘いと言うのだよ、あかね嬢。優しさとは想う事ではない。自分に向けられる厳しさの中にこそ優しさはあるのだ。もし羽竜が優しいと言うのなら、親友の命を奪う罪を抱けるはずだ。でなければ世界を救うなどと夢のまた夢。」


「わかっています。私はヴァルゼ・アークさんの言ってる意味もわかってるつもりです。一人の人も傷つけられない人が、他人を救うなんて………って。でも人の命って尊いじゃないですか、それが友達ならなおさら。私達はたかだか17年の人生ですけど、羽竜君も蕾斗君も私もずっと一緒に過ごして来たんです。簡単にはいきません。」


「人の命など尊いものか。人の命ほどくだらないものはない。例えば、君達が守りたいと言った地上を我が物顔でのさばり、自分達が汚しておきながら、それを綺麗にしようとする事を誇らしげに語る。そんな輩の命が尊いと思うか?」


「それでも…………やっぱり尊いと思います。」


ヴァルゼ・アークの言った事は多分正しい。人間なんて浅はかで不完全な生物なのかもしれない。

でもそれを認めてしまったら、戦って来た意味が失われてしまう。いや、失われてしまう事を恐れた。千明を手にかけてまで正義を貫いたのだ、認めるわけにはいかなかった。


「賢い君なら、あるいは共感してもらえると思ったのだがな。」


あかねに動揺があった事など見抜いている。彼女を立てただけだ。


「さあ、どうするんだ?蕾斗を倒すのか?それとも諦めて家に帰るか?答えろ、羽竜。」


「…………倒すに決まってんだろ。あんたに殺らせるわけにはいかねーからな。」


「フッ……終焉の源の役目、しっかり果たせ。」


治癒魔法で羽竜とあかねの体力を回復させてやる。


「敵に塩でも送ったつもりか?」


嘘のように身体が動く。しかし、ありがたいとは思わない。ヴァルゼ・アークにも思惑はあるのだろうから。


「そんな気はさらさらない。お前には勝ってもらわねば困るだけよ。舞台の最後は俺とお前で飾るのだからな。」


ニヤリとするヴァルゼ・アークは無視してあかねと蕾斗を追う事にした。


「行くぞ、吉澤。蕾斗を追うんだ。」


「うん。」


走り出そうとした二人をヴァルゼ・アークが止める。


「待て。」


まだ何か言いたいのかという眼差しを羽竜は送った。


「わざわざ来た道を戻るのか?」


魔力を持たない二人が、かなりの高さにいるここから飛び降りるのはまず無理だ。


「しょうがねーだろ。空飛べねーんだから。」


羽竜が言うと、


「おまけだ。」


ヴァルゼ・アークは魔法陣を創る。


「言わずと知れた位相転移………瞬間移動の魔法だ。」


「蕾斗のいる場所がわかるのか?」


「インフィニティ・ドライブの気配を隠しきれていない。特定は出来てないが、まあ近い場所には行けるだろう。」


威勢よく断りたいが、頼るしか方法がないのが悲しい実情。

魔法陣に入る二人に、


「羽竜………」


「まだなんか用か?」


「トランスミグレーションを手放すなよ?それはお前の大切な相棒なんだからな。」


「言われてたまるかよ。トランスミグレーションがなけりゃ、あいつのインフィニティ・ドライブには勝てねーよ。」


「………わかってるならいい。行け。」


舌を出して偉ぶるヴァルゼ・アークを批判した。そして羽竜を引きずるようにあかねが魔法陣へ入ると、魔法陣がパアッと光り二人を位相転移した。


「終焉の源………か………」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ