第六十六章 INFINTY∞DRIVE(後編)
うっすら目を覚ますと、羽竜と蕾斗が戦っていた。
「う…………」
由利は頭を押さえ間を置いてから起き上がった。
「目黒………羽竜……」
蕾斗だとわかっていて戦っているのだろうか?わかっていて親友に刃を向けてるとは到底思えないが。
「由利さん!」
あかねが駆け寄って来る。
「彼は………藤木蕾斗だと知ってて戦ってるの?」
「………はい。もう……誰にも止められないです………」
悲しそうな瞳で羽竜と蕾斗を見つめる。きっと泣き出したいのを耐えているに違いない。
幼なじみ同士が殺し合う姿など見たいわけがないだろう。
「諦める事ね。これがあの子らの運命よ。」
慰める義理はない。期待しているのなら迷惑だ。全てが終わった時、失ったものと手に入れたものが同価値とは限らない。
割に合わなかったとしても、それが全て。
由利はヴァルゼ・アークの言葉を思い出していた。「羽竜は蕾斗を倒す羽目になる」と言っていた。決まっているのだと。
人の姿を捨てたから?違う…………そんな単純な理由で親友に刃は向けたりする奴じゃない。
それとインフィニティ・ドライブを手に入れる方法。ヴァルゼ・アークはどうやって蕾斗からインフィニティ・ドライブを奪おうというのか。
由利は美咲と景子を起こしながら考えていた。
「司令………あれは……!」
美咲も羽竜に気付く。気付かない方がおかしいのだが。
「吉澤あかね………」
景子は羽竜よりあかねが目についたらしい。
あかねはわざと目を反らした。関わる暇もないし、特にこちらから用はない。知らん顔してもらった方が助かる。
まあ……名前だけは覚えてもらったようだが。
「景子、今はここから退く事が先よ。」
景子が先走る前に抑止した。若さというのは感情に負けやすい。いつもは冷静な由利とて経験して来た事だ。嫌というほど。
「私達は失礼するわ。後はお友達同士仲良くね。」
「ゆ、由利さん!?」
蕾斗が羽竜に気を取られてる間に去る。あかねが何か叫んでるが、構ってやるわけにもいかない。
窓から飛び出し、結構下までダイブする。そして屋根から屋根を渡って離れる。
トランスミグレーションが後ろ髪を引くように時々ぎらつく。
(自己主張の強い剣ね………ダイダロスの趣味が………ダイダロス?)
由利は立ち止まってトランスミグレーションを振り返る。
「司令?どうかなさったのですか?」
美咲が不思議そうに見ている。
「そういう事………。総帥もお人が悪いわね。初めから言ってくれればいいのに………」
笑みが零れた。ヴァルゼ・アークは最初から羽竜と蕾斗を戦わせるつもりだったのだ。
「ここまで来れば大丈夫よ。さあ、見物させてもらいましょうか、終焉の源とアダムの戦いを。」
腰に手を当て常人には見えないくらい先の戦いを見守る。
「しかし司令、藤木蕾斗はインフィニティ・ドライブを持ってます。終焉の源とは言え、目黒羽竜に勝ち目は………」
美咲には蕾斗に勝てる者がいるとはどうしても思えない。
「勝ち負けは関係ないのよ。」
「どういう事です?」
「忘れたの?私達の目的はインフィニティ・ドライブ。最終的にインフィニティ・ドライブが総帥のものになればいい事、目黒羽竜が勝っても藤木蕾斗が勝ってもどっちでもいいのよ。ただ、目黒羽竜にはそれなりに頑張ってもらう必要はあるけど、心配するまでもないわね。」
「私にはさっぱりです。」
「いいから見てなさい。インフィニティ・ドライブが総帥のものになる瞬間を。」
自信がある。インフィニティ・ドライブがヴァルゼ・アークのものになると。
「総帥!!」
悔し泣きで充血した目を引っ提げて駆けた先にはヴァルゼ・アークがいた。
「結衣…………どこに行ってたんだ?」
「え……え〜とぉ……」
トイレだと思われてたら嫌だなと思いつつも、あかねにやられたとも言えない。
空気を察してくれたのか、
「聞いてほしくないのなら聞かないでおいてやるよ。」
結衣の頭を撫でながら言った。
「あは………ありがとうございます。」
心無しか、ヴァルゼ・アークは機嫌が良さそうだ。
こんな異常な気配を感じる中で笑っている。
「総帥?」
「蕾斗がインフィニティ・ドライブに目覚めたらしい。」
「じゃあやっぱり……」
「ああ。この気配こそ俺が求めた力よ。」
「もうひとつのオーラは………目黒君?」
「そうだ。さしずめ兄弟喧嘩と言ったところか。」
結衣には理解出来なかった。インフィニティ・ドライブがすぐそこにあるのになぜ奪いに行かないのか?
「結衣。」
「はい?」
「由利達はどうやら外に避難したらしい。これを持って由利達の元へ行け。」
そう言って眼帯を差し出す。
どこかで見た事がある眼帯、確か………
「戦利品だ。」
そう、ダイダロスがしてた眼帯だ。
「ではダイダロスは………」
機嫌の良さそうな顔が更に晴れる。
「わかりました。由利姉様のところに行きます。きっと喜びますよ!」
どうやら結衣の方が喜び具合は大きいようだ。満面の笑顔で由利達のところへ行った。
「羽竜………うまくやってくれよ?」
何もかもが、うまくいってるような気がしていた。