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第六十五章 全ては満たされぬ運命の為に(後編)

二分もいらない。景子が言った通り、デスティニーチェーンが蕾斗を捕らえるまで一瞬だった。


「ほんと………殺してやりたいくらい嫌いだわ。」


雰囲気が変わるという表現より、これが景子の本性なのかと思わざるを得ない。

千明が持っていた妖艶とは違う妖艶的オーラ。千明の妖艶さはエロスなのに対し、景子は危険な香りがする。


「くそっ!なんなんだこの力………」


屈強な肉体を得たのに全く歯が立たない。デスティニーチェーンの継ぎ目が身体に食い込む。


「このまま殺してやろうかしら?ヴァルゼ・アーク様には泣いて謝っちゃえばいいし。」


彼女なりのジョークなのだろうが、半分は本音だ。


「離せっ!!僕を誰だと思ってるんだっ!!」


「オツムのあったかいバカ男………違う?」


「ほどほどにしろよ、お前なんか僕の敵じゃないんだからな!」


「吠える犬ほど弱いのよ。アハハハハ!」


仲間の前では笑った事のない景子が声を上げて笑う。あかねにやられた鬱憤を晴らすように、蕾斗を弄ぶ様は悪魔意外の何者でもなかった。







「美咲!しっかりして!」


由利に揺さぶられ気がつく。


「し……司令……」


まだ生きてる自分を見て安心してるのか、景子同様あまり笑顔を見せない由利が微笑んでいる。


「今助けてあげるから。」


そう言うと由利は、美咲を縛る魔法で作られたらしい光る輪にシャムガルを振り下ろした。

光る輪はあっさり壊れ、美咲の身体に自由が戻る。

支えを失った身体は由利が受け止めてくれた。


「美咲………!」


「司令?」


きつく美咲を抱きしめる。

由利がこんなにはっきり愛情表現するとは思わなかった。

ただそれも仕方のない事で、払った犠牲は多過ぎた。問題ばかり起こす仲間達だったが、退屈なんてしなかった。血の繋がりなどなくてもわかりあえた。 かわいい妹達の死は、知らず知らず由利の心に影を落としていた。

誰も死なせない。ひそかにそう決めていたのに。責任という二つの文字が重くのしかかる。


「は、恥ずかしいですよ……」


「ごめんなさい。安心してつい………」


「司令一人ですか?」


「結衣は後から来ると思うわ。愛子はハーデスと、景子は藤木蕾斗を相手してくれてるわ。」


「藤木蕾斗は危険です。」


「わかってる。もう私達の手には負えない。ここから一刻も早く引き上げましょう。」


闘気を握り、上に放り投げて爆発させ景子へ合図を送った。







由利の合図に景子は少しがっかり気味だった。まだまだこれから蕾斗を弄ぶつもりだったのを邪魔されたようなもの、舌打ちをしてデスティニーチェーンを引き戻した。


「きっかり二分。卒がない人ね……」


時計を見ていたわけではないが、感覚で二分だとわかる。そもそも、由利が時間を守らなかった事はどんな状況下であってももない。

景子は皮肉った恋敵の元へ戻ろうと背を向けた。


「ヴァルゼ・アーク様に感謝しなさいよ。殺そうと思えば殺せたんだから。」


強気な景子が背を向けたところを、蕾斗が魔法で攻撃する。


「生意気な………女め……」


無防備とは言え、浅はかな蕾斗の魔法など気配で知るに十分。振り向き様にデスティニーチェーンを今一度放つ。

…………だが、運が悪かった。

デスティニーチェーンは蕾斗の魔法を貫き、勢い余ってかれの厚い胸板までも貫いた。


「しまっ…………!!」


止められなかった。慣れない力に加減が出来なかった。


「ぐおっ……………」


身体が重くなり崩れ落ちる。

アダムの姿が『元』の蕾斗に戻る。


「はぁ………はぁ………うっ………」


蕾斗はうめき声を上げ苦しむ。

デスティニーチェーンは無造作に景子の意思に反して戻って来た。


「しくじったのです……デスティニーチェーンをコントロール出来なかったのです………」


失態に景子もいつもの無愛想な景子に戻る。さっきまでの危険な妖艶さは欠片もない。


「ふぅ………く………くそ…………僕は………死ぬ……のか?」


流れる大量の血を見て震えが止まらない。

抜けていく力に伴って目が霞む。


「嫌……だ………まだ………死にた………くない……」


しかし、苦しみ悶える蕾斗を見ていて景子に疑問が生じる。


「…………なんで死なないのです?」


自分に問いかけた。

デスティニーチェーンは確実に蕾斗の胸を………心臓を貫いた。そして夥しい大量の出血。苦しむ程度で終われるわけがないではないか。

不気味な予感がした。第六感が疼く。


「うぁぁ…………う………ウアアアアアアアアアアアッ!!」


突然蕾斗が絶叫した。と同時に、恐怖を覚えるようなオーラ………言葉にならないプレッシャーが一気に、凄まじい勢いで溢れ出す。


「これ………は………」


景子が怯える。本能が彼女に訴えているのだ。

ヴァルゼ・アーク以上のオーラ。

 そう、宇宙さえ飲み込んでしまいそうなこのオーラは……


「イン……フィニティ………ドライブ!!」


そうだ、間違いない。こんなとんでもないオーラなどただ一つしかない。

溢れ出すオーラが止まる気配はない。

蕾斗は自身のオーラに包まれて溺れていく。空間という空間がインフィニティ・ドライブで満たされる。

息の詰まる中、景子は蕾斗を見失わないように必死で睨む。

そして彼女が見たものは、街を荒らした白い霧状の生き物。ミスティアがもっと具体的になった生物だった。







「この力は………まさか!」


ダイダロスの計画にはない事態が起こった。


「蕾斗………ついに目覚めたか……」


それはヴァルゼ・アークも同じ。不測の事態は二人を困惑させた。


「何故急に……」


ダイダロスには何か確信があったようだ。蕾斗がインフィニティ・ドライブに目覚める事は『まだ』ないと。


「そんなに意外か?」


ダイダロスの様子がおかしい事にヴァルゼ・アークが気付かないわけがない。


「…………ええ。意外ですね。」


「フッ。あっさり認めたな。」


「貴方に嘘をついても事態が変わるわけではなさそうなので。」


「そういう事だな。」


ヴァルゼ・アークはダイダロスが蕾斗に何をしたかわかっていた。


「それにしてもなんという凄まじい力。無限を操るには申し分ない力ですよ。」


感服。求めた力の脅威に晒されながらも、ダイダロスはインフィニティ・ドライブに魅了されている。


「よく噛み締めておくんだな。インフィニティ・ドライブはお前のものにはならんのだから。」


「いえいえ。私は手にしますよ、必ず。」


「まあいい。それはそうと、なぜ蕾斗に犠牲の柩をかけた?」


「なぜ?当たり前ではありませんか、あの年頃は心変わりをよくしますからね。私との契約を反古にされてしまうのを恐れたまでです。」


「ダイダロス…………」


「なんでしょう?」


平静を装っていたヴァルゼ・アークだったが………キレた。


「冥土へ行く準備をしろ!」







解放されたインフィニティ・ドライブは、ハーデスの支配する黄泉にまで及んでいた。


「おお………もしかしてこれは噂のインフィニティ・ドライブ?」


ハーデスもまた魅了された一人だった。


「ついに……………」


愛子は感極まる。

黄泉にいる愛子には知る由もない。なぜインフィニティ・ドライブが解放されたかなど。彼女はヴァルゼ・アークがインフィニティ・ドライブを手に入れたのだと思い込んでいる。


「ハーデス、私の役目も終わったわ。」


影の愛子は消え、普段のおっとりした愛子になる。


「ほう。そいつはごくろうさん。でも黄泉を荒らした罪は償ってもらわんとさ、あたいの面目立たないんよ。」


「心配いらないわ。役目は終わっても、貴女を生かしておくつもりはないもの。」


「ほうほう。なんの為にだい?」


「ヴァルゼ・アーク様に好意を寄せていいのはレリウーリアだけよ。レリウーリア以外の者がヴァルゼ・アーク様を愛する事は許されないの。」


「ありゃりゃ。また奇特なルールだねぇ。なんとか見逃してくんないかい?」


「うふふ。ダメね。」


「そうかい。でもいつから独占欲が強くなったんだい?君はそんなに俗物じゃなかったと思ったけど?ねぇ……ベルゼブブ。」


「答える義務はないわね。私は私の役目を終えた。でもヴァルゼ・アーク様の邪魔になりそうな貴女は始末しないと。それだけよ。」


ダモクレスの剣をかざす。


「ベルゼブブ、あたいはお冠だよ。遊びを邪魔したのは君じゃないか。」


上空に再び大きな火炎球が。


「なるほどなるほど。どうあっても決着を急ぎたいんだね。」


しかしハーデスはベルゼビュートキャンディを見るのは三度目。どんな技かは知り尽くしているつもりだ。


「ほんならあたいも……サンクション・オブ・ザ・エレバス!!」


寡黙にハーデスの動きを読む。

愛子は生きて勝ちを取ろうとは思っていない。確実にハーデスを仕留めるには、自分も黄泉の住人になる覚悟が必要だ。

黄泉の制裁が始まる寸前にハーデスの後ろを取り、羽交い締める。


「ぬあっ!?ベ、ベルゼブブ!何を……!!」


「………貴女はまだ子供よ。あのお方の愛を求めるに値しない。」


火炎球が瞳を現す。


「ちょ………待った!待った!死ぬ気なのかい!?」


「ハーデス………貴女は情熱に身を焼いた事ある?」


役目を終える。そう言った彼女はなぜか優しさに満ちていた。


「ななな、なんの事だい!?」


愛子の行動が理解出来ず冷静さを失ったハーデスは…………もう愛子には勝てない。

あわてふためくハーデスに、愛子はにっこり微笑んだ。憐れみではなく、昔を自分を見ているような気がしたから。


「ベルゼブブ!!」


「次生まれ変わったら、情熱に身を焼くような恋をするといいわ。その時は、応援してあげるから。」


充満するインフィニティ・ドライブが霞んでいく。

何が起きてるかは知らなくてもいい事。ただ残念なのは、ヴァルゼ・アークの雄姿を見れない事だけ。


(ヴァルゼ・アーク様………私の身を焦がした人……)


準備を完了し、仕上げにかかる。


「ベルゼビュートキャンディ!!!」


誰かを死ぬほど愛して、その人の為に全てを捧げる事が正しいかどうかはわからない。

でも、生まれて来て世の常識に縛られ生きるくらいなら、後ろ指差されても貫き通したい愛があってもいい。

 情熱は永遠に情熱のままではいられないのだから………。


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