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第六十四章 LOST SOUL

風の音が聞こえる。ヴァルゼ・アークと由利と景子は、自分達が来た建物を出た。

向かい側にもまた建物。そこへ誘うように橋がかけられていた。


「無駄な努力を………」


どんなに複雑に造っても、最後は辿り着いてしまうもの。ダイダロスも、途中でヴァルゼ・アーク達がこの程度で脱落するとは考えてないだろうが。

無駄な努力などないと言うが、例外もある。ヴァルゼ・アークは半ば呆れ気味に言っていた。


「いよいよですね……総帥……」


由利は、向かい側の建物にいるだろう蕾斗とダイダロスとの戦いに気を引き締めている。


「由利、景子、蕾斗とダイダロスはおそらく一緒にはいないだろう。俺がダイダロスを叩く。二人は蕾斗のところへ行き、美咲を救出して来い。」


「どうして美咲が藤木蕾斗のところにいると?」


「ダイダロスは俺と差しで勝負を付けたがってるはずだ。それにダイダロスもまだ蕾斗からインフィニティ・ドライブを奪う時ではないと知っている。蕾斗とは別の場所で俺を待っている。」


直感と言えば直感だが、もっと確かな感覚だった。蕾斗がインフィニティ・ドライブを自分の中から引き出すまでは用がないのが本音で、それには羽竜が必要だ。

親友である羽竜と戦えば、蕾斗は必ず引き出す。彼の中で羽竜の存在が大きくなりすぎているからだ。羽竜を超えようと躍起になる蕾斗の姿が見えていた。


「しつこく言うが、絶対に蕾斗には手を出すな。美咲だけを救えばお前達の任務は終わる。」


「任務は完遂します。しかしその後は総帥の援護をさせて下さい。」


最後までヴァルゼ・アークの傍にいたいと由利は願う。


「駄目だ。奴とは一対一でケリをつける。助けはいらん。」


「頑ななんですね………愛する人の夢の手伝いをしたいという女心も、受け入れてはもらえないなんて。」


悲観はしていない。返って来る言葉は予想出来た。


「身勝手な男だろ、俺は。」


「その身勝手な男に私達は着いて来たんです、勝っていただかなければ困りますよ?」


「フッ…………わかってる。」


軽く目をつぶり、想いにふける。そのまぶたには、死んで逝った仲間が浮かんでいるに違いなかった。


「行くぞ、まだ戦いは終わってない。」


穏やかな口調にも、激しい闘志を感じた。


「審判の時ですね。」


由利が言うと、景子が二人の前に出て、


「審判を下すのはヴァルゼ・アーク様なのです。」


自分を忘れるなと言わんばかりに、無愛想な表情で言った。

今日という日に夜が訪れていた。闇を糧にするヴァルゼ・アーク達には最高のシチュエーションだった。







羽竜とあかねは、愛子とハーデスのいる部屋の前で往生していた。

特別な力が働いているのか、扉が開かない。押しても引いてもだ。

先を急ぐ二人にはストレスにしかならない。


「誰が戦ってんのか知らなねーけど、ここ通らなきゃ先に行けねーじゃねーか。」


扉に八つ当たりして蹴ってみても状況は変わらない。


「はぁ………しょうがねー、少し休むか。」


休みたい気持ちではないが、どうにもならないのでは他に選択肢がない。

扉にもたれるように羽竜は座り込んだ。


「…………気にすんなよな、新井の言った事なんて。」


あかねを気遣う羽竜は珍しい。


「羽竜君、私…………怖い。」


「吉澤………」


「千明さんまで殺したのに………もし蕾斗君まで……………」


「大丈夫だって。それに千明さんの事は………なんて言うか………敵だったんだし、吉澤が望んだ事じゃないのはわかってるから。」


慰めになってないのはわかってる。でも聞き上手にもなれなかった。


「いつの間に私達こんな風になっちゃったのかな………私やだよ、新井さんとだってお友達でいたかったのに………どうして………」


泣き出すあかねを躊躇はしたが、立ち上がって抱きしめる。


「羽竜…………君?」


「ごめんな、気の利く事言ってやれなくて。泣きたいなら俺の胸で泣けよ、汗くさいかもしんないけどな……サマエルと戦って来たばっかだから。」


二人の鼓動が高鳴る。なのに安心する。不思議な感覚だ。


「ううん。そんなことない。」


「蕾斗は俺がぶっ飛ばしたら目を覚ますさ。吉澤の事だって俺が守ってやる。何も心配いらない。」


「…………ありがとう。」


どんな不安も、羽竜がいればなんとかなる気がする。

羽竜にもあかねにも、運命を共にする覚悟がある。

負けられない想いが、ここにも二つ。







「美咲を頼んだ。」


「わかりました。」


「はいなのです。」


ヴァルゼ・アークに言われ由利と景子は階段を駆け上がって行った。

ヴァルゼ・アークの前にはダイダロスがいる。

 ロストソウルとイグジストを造り全ての戦いを仕組んだ男。

見た目こそ不死鳥族ライト・ハンドだが、魂はダイダロスだ。


「こうして貴方を迎える事、光栄に思います。なにせ私の宿敵ですから。」


ダイダロスの手にはファイナルゼロ、ヴァルゼ・アークの手にはかつてダイダロスが造った絶対支配。

その絶対支配はダイダロスの支配下。

 ヴァルゼ・アークに不利な状況が用意された。


「宿敵?図にのるな。俺が見て来たのはお前じゃない。」


夜は宇宙を映し出し、運命に未だ翻弄される二人を包んでいた。


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