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第六十三章 宵闇

通路を突き当たると、それは扉だった。

ヴァルゼ・アーク達は遠慮なく中へと入る。

そこにいたのは三歳くらいの少年。


「よく来たな……ヴァルゼ・アーク………」


「ハーデス………」


久方ぶりにハーデスの名を呼んだ。ケルベロスと解空時刻を交換して以来だからかなり過去へさかのぼる。


「随分楽しい事をしてるじゃないか。ワシも仲間に入れてくれ。」


「仲間に入れろだと?フン……笑わせる。黄泉の王がなんでここにいる?」


「決まってるだろう。ワシもインフィニティ・ドライブを欲しくなってな。」


ハーデスがヴァルゼ・アークの目線まで浮く。


「やれやれだわ。」


由利が溜め息をついた。


「インフィニティ・ドライブが欲しいのなら相手が違う。あいにく俺は持ってない。」


「そう邪険に扱うな。ワシはお前にも会いたかったのだ。古い付き合いじゃないか。」


「よしてくれ。なるべくならお前とは関わりたくない。」


「つれない奴よ。」


ヴァルゼ・アークに会えたのがよほど嬉しいのか、ニヤニヤとしている。


「総帥、司令、先に行って下さい。ハーデスは私が相手します。。」


愛子がダモクレスの剣を持ってハーデスの前に出る。


「愛子………」


その背中を由利が見つめる。


「ベルゼブブ、お前に用はない。去れ。」


「黙りなさいハーデス。貴方の遊びに付き合ってる暇はないのよ。」


睨み合う。


「行くぞ、由利、景子。」


二人を先導するヴァルゼ・アークに、


「総帥!」


愛子が声をかけ、


「なんだ?」


「私の事………愛してますか?」


「ああ。愛してる。」


そっとヴァルゼ・アークに寄り添う。長い時間ではないが、温もりが欲しかった。愛した男の体温が。


「そのお言葉だけで十分です。」


ヴァルゼ・アークから離れ、ハーデスをもう一度睨む。


「死んではダメよ、愛子!」


「はい。」


由利の言葉に頷く。

ヴァルゼ・アーク達がハーデスの後ろに続いてる通路へ走る。


「景子!」


最後尾の景子を呼び止める。景子は黙って愛子を見る。


「総帥と司令の事……頼むわよ?」


「…………死ぬなとの命令は守らないといけないのです。」


別れのような言葉を受け入れられなかったのか、生きて戻れと景子は言った。


「ありがとう………」


愛子の返事を待たずにヴァルゼ・アークと由利を追った。


「さあてと………おとなしく待っててくれた礼だ、せめて一瞬で殺してやるよ。」


影の部分の愛子が出る。瞳を青く光らせて。


「口の悪い女だ。冥界とは印象が違うが………?」


ハーデスの手に大鎌が握られる。死神の持つそれのような。


「気にすんな、口が悪いのは生れつきだよ。」


「ベルゼブブ、ワシはお前に用はないと言ったはずだ。」


「うっせーよ。お前になくてもこっちにはあんだよ。ごたく並べてねーでかかって来い。」


一度突き立てたダモクレスの剣を、もう一度力いっぱい床に突き立て、地鳴りを起こした。

愛子の『やる気』が伺える。


「………よかろう。闇王自ら残ったのだ、期待に応えてやろう。」


ハーデスは遊べればいい。黄泉での退屈凌ぎでしかないのだ。

本当にインフィニティ・ドライブが欲しいかどうかは疑わしい。

 生来の遊び人であるハーデス、だが遊び方は人間の遊び方とは比べるに及ばない。

自分の命を賭けて遊ぶ嗜好の高い神がハーデスなのである。


「その必要はない!目障りだ!消えろっ!」


目にも留まらぬ剣さばきでダモクレスの剣を振るいハーデスを………バラバラにした。

手足はもちろん、首までもが飛ばされた。


「隙だらけなんだよ。バカが。」


勝負はついたかのように見えた。しかし、


「ベルゼブブ、お前はやる事が派手すぎる。人に移り住んでも変わらぬとは………愉快だな、転生というものは。」


頭だけがふわふわと浮いて、愛子を向いてから浮力を失う。


「人の事が言えるのか?お前はやる事がまどろっこしいんだよ。いい加減ほんとの姿見せろ!」


影の愛子は感情的になりやすい。

 ハーデスの真の姿を知りはしないが、まさか黄泉の世界を支配する神の姿が人間の少年、それも三歳程度だとは到底思えない。だいたい昔から暇さえあれば容姿を変えて楽しんでいた。ベルゼブブが最後に見たハーデスは白馬の姿をしていた。

その時その時に興味のあるものに姿を変えるらしい。


「やっと気に入った肉体を得たというのに………まあよい。見せてやろう、真の姿を。」


バラバラになった肉体が無造作に浮遊して光り始めると、それぞれがまるでロボットが合体するようにもとに戻り、フラッシュ現象を起こした。

そしてそこには真のハーデスの姿があった。


「ハーデス……………まさか女とは…………」


気品の漂う顔立ちが、深緑の鎧に映える。

見た目は愛子より若い。結衣と同じくらいに見える。


「驚いた?あたいの姿を知ってる奴ってあんまりいないのよ、だから貴重なんだ。よ〜く拝みなさい。」


さっきとは打って変わって、お調子者の雰囲気がある。

とてもじゃないが、黄泉を支配する神のイメージとは程遠い。


「誰がお前なんか拝むものか。まあ子供を手に掛けるよりはマシだから返って助かる。そこだけは礼を言ってやる。」


「悪魔も子供を殺すのは気が引けるのね。ん〜面白い面白い。」


コクコク首を動かし勝手に頷く。


「冥王ハーデス………黄泉へ帰る気はないんだな?」


「ない。ぜ〜んぜんありません。私はヴァルゼ・アークと遊びたい。だから貴女を倒して彼を追う。」


「そうかい、お前もヴァルゼ・アーク様が好きなのか。ふふ……全くもって罪なお人だ。」


ヴァルゼ・アークを想い少しにやけた。自分達だけでなく、神からも好かれるのだから参ってしまう。まあ誇らしくもあるが。


「んじゃ、おっぱじめるよん。準備はいい?ベルゼブブさん。」


「準備なんかとっくに出来てる。いつでもかかって来い。」


「自信満々なのはいいけど、命は一つしかないんだから………大切にしなよ!」


自信など愛子にはなかった。ハーデスがそんじょそこらの神とは違う事くらい知っている。

生きて戻る事は不可能。奇跡に身を委ねるくらいなら、死をもって勝利を掴む。

闇十字軍レリウーリアの名を汚すわけにはいかない。

二つの人格に苦しむ自分を救ってくれたヴァルゼ・アークへの最後の奉公。

高ぶる気持ちは、愛の証。


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