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第五十二章 幾何学と無限を司る神

神と言っても、その数は決して少数ではない。崇拝に価する者もいれば、そうでない者もいる。存在の定義としては、どんな神であれ何かを司りその分野においては確実に秀でている。


「また一段と老け込んだんじゃないか?老人…………。」


真っ赤な髪と瞳が、仲間達の流した血で染め上げたようだ。

ヴァルゼ・アークは神の頂点に君臨する者と対峙していた。


「フ………久しいな、魔帝ヴァルゼ・アーク。」


ヴァルゼ・アークが『老人』と呼んだ者はゼウスと言った。

全知全能の神………ゼウス。

 白く長い髭と白く長い髪。人々の想像を裏切らない容姿。ただ違うのは金と銀の混ざり合う鎧を纏っている雄姿である事。


「まさかゼウスともあろうお方が、ダイダロスに手を貸すとは思わなかったぞ。神族は神族で来るかと思ったのだがな。」


「お前さんが人間達に力を与え、レリウーリアを復活させた事で神族は意見がバラバラになってしまってな。情けない話だが、余ではどうする事も出来なく成りつつある。」


神族はヴァルゼ・アークの復活とレリウーリアの復活に怯えた。まかり間違えば神の頂点はヴァルゼ・アークだったかもしれない。そんな存在を敵に回したくないという者がいてもおかしくない。


「世代交代だろう。」


老人には恰好の皮肉だ。


「かもしれんな。だが余の代わりが務まる者もいないのも悲しい事実よ。お前さんなら話は別だが。」


「フッ…………丁重に断っておこう。神族のクズ共の面倒は見切れん。」


「残念だよ。案外本音だったからな。」


全くもって二人共余裕の会話を熟す。

頂点を極めた者の威厳だろうか?


「狙いはなんだ?ダイダロスにほだされたわけじゃあるまい。何か目的があるはずだ。」


裏を勘繰るまでもない。ゼウスは正直に答える事を見越しての質問だ。


「インフィニティ・ドライブ……………余が生涯唯一手に出来なかった力。それをどうしても欲しくなった。」


「笑わせる。所詮欲の塊か。」


「そうではない。インフィニティ・ドライブがあればまた安息の時代を創る事が出来る。そう考えたのだ。」


「偽善ならやめておけ。誰が望もうと、安息など永久に訪れる事はない。宇宙がそれを望んではないからな。どうせインフィニティ・ドライブを求めるのなら、ダイダロスのように宇宙になったらどうだ?創り物の世界などすぐにメッキが剥がれるぞ。」


「惚れ惚れするくらいストイックな奴よ……ヴァルゼ・アーク。」


ヴァルゼ・アークが絶対支配を具現化する。


「悪いが先を急ぎたい。これ以上仲間を死なせたくないからな。」


「人間は想像すら出来んだろうな、魔界の神がこんなにも仲間想いなどと。」


そう言って、ゼウスは大きめの金鎚を具現化した。


「トールハンマーか……戦利品には申し分ないアイテムだ。」


ハンマーとは名ばかりで、使い方は魔力に依存する。魔力の強いゼウスだからこそ成り立つ武器だが、ヴァルゼ・アークが使ってもそのポテンシャルは高いだろう。


「先走るな。余はダイダロスにもアダムにも興味は無い。余は………ヴァルゼ・アーク、お前さんにしか興味が無い。」


ゼウスは、同じ神話の時代に生まれたヴァルゼ・アークの才能に嫉妬するどころか、魅了されていた事もある。同時に神王の座を奪われる恐怖も味わった。

だがヴァルゼ・アークは闇に堕ち、希望も持たない者達を救う為に自ら闇に堕ちた。

見捨てられた世界で独自の世界を創り、やがてそれは誰も対抗出来ない種族へと成長していった。

それが魔界であり悪魔という種族。物事の本質から逃げない偽善を拒む種族だ。


「まだ若かった余よりも更に若いお前さんに、不覚にも憧れさえ抱いた。もし、お前さんがその気になれば神界を奪う事だって可能だったかもしれん。だがお前さんは…………」


「言っただろ、神族はクズばかりだ。慢心するだけが取り柄の種族の長に、それこそ興味は湧かなかった。他に理由は無い。」


ヴァルゼ・アークの欲の無さ。それが一番の恐怖だった。心に付け込む隙すら無い。


「クズか………だがお前さんにも同じ事が言えるのではないか?」


「何?」


「運命が初めから決まっているのならば、受け入れればいい。決まっていようと決まっていまいと、我々には先の事はわからぬのだから変わらんはずだ。その身に起きた不幸を嘆いてそこから目を反らしているだけではないのか…………ヴァルゼ・アークよ?人間のお前さんも悪魔のお前さんもだ。」


「フフフ………全知全能の神には俺の過去まで見えているようだな。」


「…………悲しみは人を強くする。しかしそれは悲しみを乗り越えた者だけだ。いつまでも悲しみに捕われてる者には足枷にしかならんという事を教えてやろう。来い、ヴァルゼ・アーク。」


頂点らしい物静かな口調で言った。


「ならば老人よ、俺はお前に悲しみを受け止め、忘れずにいる事で強くなれるという事を教えてやる。」


最強の神の戦いが始まった。







ようやく辿り着いた。美咲のいる場所に。


「………那奈…………」


鎖で手足に枷をはめられた美咲がいる。


「副司令!よかった、まだ生きててくれて。」


駆け寄り抱きしめる。


「でもみんな…………」


美咲も絵里、翔子、純、葵、はるか、千明が死んだのを感じていた。助けられても素直には喜べない。


「今はここを出ましょう。さ、早く!」


はめられた枷を那奈が手に魔力を込めて手刀で断ち切った。


「逃がさないよ。」


そう言ったのは蕾斗だった。


「藤木蕾斗………」


かつて那奈は蕾斗にこてんぱんにやられている。その時の怒りが蘇る。


「駄目よ、那奈。彼はインフィニティ・ドライブを自分のものにしてるわ。私達じゃ勝てない。」


間近で蕾斗を見ていた美咲にはその恐ろしさがわかっている。


「リリス、君は黙ってて。」


「藤木蕾斗、この前の借りを返してあげる。」


「那奈!!」


逃げるつもりだったが、蕾斗の顔を見た瞬間気が変わった。


「ケツの青いクソガキがっ。引導を渡してやる!」


「那奈さん………いや、アドラメレク、引導を渡されるのは君だ。」


蕾斗は両手に魔力を集束させて魔法攻撃の準備をする。

対して、那奈はアルティメットバスターを具現して構えた。


「待って!那奈!」


美咲が那奈を呼び止め生殺与奪を具現化して那奈に渡した。


「貴女のロストソウルでは戦い難いでしょ、私の生殺与奪を使って。」


「副司令…………?」


「考えてみれば、手負いの私と一緒では逃げ切れないものね。なら貴女に私の命を託すわ。」


しかと生殺与奪を受け取った。


「始めていいの?」


憎たらしい顔つきに変わったな…………そう思った。賢そうな顔をしてた少年が、こうも変わってしまうものなのか。


「どっからでもかかって来なさい。」


アルティメットバスターを消し、生殺与奪をくるくる片手で回して構え直した。

両手に炎を出し、那奈に放つ。

炎は途中で融合して一つの火球となる。

生殺与奪で受け止めたはいいが、


「な、何……この力…………これが…………魔法!?」


消滅しない炎に既に危機を感じる。前に戦ったより遥かに強い。


「情けないなあ。レリウーリアともあろう人達がこの程度だなんてさ。」


「言いたい放題………言うんじゃないわよ!!!」


那奈の背中の十二枚の翼が開き、オーラを解放して打ち消した。


「フン………そうこなくちゃ面白くないよ。」


「おいたが過ぎるとしっぺ返しを受けるわよ。」


「そういう言葉は僕を倒してからにしてくれないかな。説得力に欠けるよ。」


そう言って放つ技は、


「行雲流水!!」


蕾斗の原点とも言うべき技。


「負けるか!!雲散霧消!!」


那奈が技の名を叫ぶと、上空の雲が著しく動き擦れ合う。擦れ合った雲が霧を発生させ、二人が戦う空間に落ちた極々小さな雨粒が爆発を起こす。


「やるね。さすがは魔王。」


爆発の中にありながら微動だにしない。それだけ那奈に勝てる自信がある。以前那奈と戦った時は、圧勝ではなかった。今日は力の差を見せつけたい。


「取って置きの技、試し撃ちしてみようか?」


不敵に笑う蕾斗にただならぬ気配がある。


「やってごらんなさい。この爆発の霧の中で貴方に何が出来るのか………思い知るがいいわ。」


力の差を見せつけたいのは那奈も同じだ。ナメられたままで事を収められるほど話のわかる女じゃない。

雲散霧消の空間内では自分の方が有利だと自負している那奈だったが、その自信は呆気なくひっくり返る。

それをいち早く悟ったのは美咲だった。


「那奈!!挑発に乗らないで!!尋常じゃないオーラを感じるわ!!」


精一杯の声で危険を警告するも、今の那奈には届かない。

テンションの上がってる今しか蕾斗にリベンジ出来るチャンスは無いからだ。

 逃げない意思を見せた那奈を見て彼らしくない笑みを見せ、


「喰らえ!アドラメレク!!」


蕾斗の放つ取って置きが、雲散霧消の空間を掻き消して行く。


「冗談でしょ…………こんな展開ありなの………?」


雨粒の爆発が一気に幾何学的な空間へと変わり、那奈の身体の自由を奪う。


「那奈っ!!!!」


美咲に出来る事は何も無い。

那奈が…………終わる。


「おのれ………ッ!!藤木蕾斗っ!!」


身体が浮き、真下から蕾斗が勝ち誇った表情で見ている。

この瞬間を待っていた。優越感に浸れる瞬間を。


「お願い、やめて!那奈を………那奈を殺さないで……」


はいつくばりながら、無駄だと心のどこかで知りながら、懇願するくらいしか出来ない。

もう仲間を失うのは嫌だ。


「リリス、そう思ってたのは君だけじゃない。天使も不死鳥族も、きっと同じ事を思ってたはずだよ。」


美咲を見ないで答えた。それは彼女の願いは聞き入れられない事を示唆している。


「ケリをつけよう!アドラメレク!ユーグリッド・メビウス!!!」


蕾斗は一度握り拳を作り、力強く開いた。


「クソガキがーーーーーっ!!」


鳥が撃ち落とされたように、羽根がひらひらと辺りを舞った。


「僕は万物の王になる!そう……無限王アダムに!!」


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