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第五十一章 十五人目の悪魔

「…………助かったわ。」


安心しきった顔で、由利はふぅと息を吐く。


「無理はしないで下さい。」


ヘスティアが自爆する寸前で愛子に助けられた。多少の傷と激しい体力の消耗は見られるが、なんとか生きてる。お腹の赤ちゃんも。

腹を摩り怖い思いをしただろう我が子をあやす。

母親としての自覚などまだ無いが、本能的にそうしてしまう。


「絵里達も………死んでしまいました。司令にまで死なれたら…………」


「愛子…………」


「司令がいてくれたら………もっと的確な指示が出せたんでしょうけど。申し訳ありませんでした。」


泣きたいけど泣けない。消えていく仲間のオーラを感じる度にどれだけ我慢したか。


「貴女のせいじゃないわ。せめて残るメンバーと美咲だけは死なせられない。でしょ?」


「はい。」


由利に肩を叩かれなんだか勇気が湧いてくる。


「でも司令は戦いには参加しないで下さい。お腹の子に負担かかったらダメですから。」


「バカね。貴女達だけに……」


言いかけてハッとした。

愛子も由利を見て視線の先を追う。


「景子…………!」


愛子が息を飲んだ。話を聞かれてしまったか。


「どういう事なのです?子供………って。」


凄い顔で由利を睨みつける。いつも無愛想な景子だが、無愛想と呼ぶには憎しみさえ感じる。


「違うの!これは……」


「黙れっ!!二人だけでずっとみんなを騙してたくせに!!」


言い訳しようとした愛子を叱咤する。


「もしかしたらと思ってはいたけど…………裏切り者っ!!」


「景子!言葉を慎みなさい!誰に言ってるかわかってるの!?」


言う事をきかない景子に愛子がいらつく。


「うっさいっ!!総帥は司令一人のものじゃないっ!!なのに………妊娠?ふざけんな!!どいつもこいつも邪魔な存在ばかり!!」


二人とも年下の景子に圧倒される。決して長い付き合いではないが、それでも深く付き合って来た。しかし、こんな景子は見た事がない。口癖の「なのです」も無く、普段のおとなしさが爆発したかのように荒い口調。

思わず手が出そうになった愛子の手首を掴み、由利は静かに頷いた。


「景子………貴女の言う通りね、私はみんなを裏切った。謝って済まされる事ではないけれど、ごめんなさい。」


由利は景子の気持ちをよく理解している。大人とは言い難い年齢の彼女は、ヴァルゼ・アークに想いを寄せても女として扱われる事はなかった。

それでもひたむきに想いを募らせて来たのだ。景子からすれば裏切りの何ものでもないだろう。


「フン!謝られても困る!」


かと言ってヴァルゼ・アークに告げれば余計に由利を気にかけるだろうし、堕ろせとは………言えない。心の奥底では由利の事がまだ好きだし、赤ん坊がかわいそうに思える。優しさに勝てない自分がいる。


「ヴァルゼ・アーク様には言わないで。あの人の野望を叶えるのが私達の役目。もうすぐ叶うの、犠牲になった絵里達の為にも勝たなければならないわ。でも私に赤ちゃんがいる事を知ったら………躊躇って悩んでしまうわ。そんな想いはさせたくないの。だから………」


景子が由利をぶった。愛子も驚いてただ立ち尽くす。


「勝手な事を………!」


女としての気持ち………仲間としての気持ち………葛藤する二人の自分に困惑しながらも、走り去った。なにもかもを振り切るがのように。


「司令……大丈夫ですか?」


「大丈夫。ちょっと驚いたけど。」


「司令をぶつなんて……なんて娘なの。」


「いいの。景子の言う事が正しいもの。私は司令官失格よ。貴女にも謝らなくちゃね。」


「やめて下さい!私は……」


「愛子、無理しなくていいのよ。私も女。同じ男を愛して、誰かが抜け駆けするように子を身篭ったら私だって嫉妬するわ。」


「……………………。」


さすが由利だと思った。何があっても冷静に分析して自分に対しても優劣を付ける辺り、ヴァルゼ・アークが傍に置く理由がよくわかる。


「さ、こんなところで内輪揉めしてる場合でもないわ。今は任務を優先しましょう。」


「司令…………」


「どうしたの?」


本当は由利だって辛いはず。

ショックだったろう、景子にぶたれて。


「お腹の赤ちゃん、産まれて来れないかもしれませんけど…………名前くらい付けてあげて下さい。司令の子は私達レリウーリアみんなの子でもありますから。」


ウインクして微笑む。

死んだ仲間達も同じ事を言ったと思う。ま、ローサは『キーッ』てヒステリー起こしてただろうが。

 由利も、愛子が仲間を代弁したのだとわかっていた。


「………………ありがとう。」


心を込めて感謝した。愛すべき仲間達に……。

それをわからせてくれた仲間………まだ名前はないその姿も見る事はないだろう十五人目の仲間に。

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