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第四十九章 あかねと千明

二人にとっては出会わなかった方がよかっただろう。

淋しげに瞳を交換し合う。


「千明さん……………」


「あかねちゃん…………」


見知らぬ誰かならここで出会う事に感傷はいらなかった。

ここは戦いの場。顔見知りだからなんて理由は通用しない事は、あかねにも十分わかっていた。

同じ女性として憧れた千明。

妖艶。それでいて爽やかささえ漂う雰囲気が好きだ。

仕草のひとつひとつもエロチックで、同性であるあかねでさえドキッとしてしまう。

セクシーというのとは違う魅力が備わった女なのだ。


「くすくす。そんな顔しないの。似合わないわよ?」


今にも泣き出しそうなあかねに微笑みかけるのは、彼女の最後の優しさかもしれない。


「だって…………」


「ここまで来て泣き言は厳禁。貴女もエアナイトを名乗るのなら、剣を取りなさい。」


「でも今私達が戦う理由なんて………」


「あるわよ。そう決めてたの……ごめんなさい。」


すまなそうには見えないが、千明には千明の覚悟と正義があってここにいる。


「…………私にその意志がなくてもですか?」


「前に神社で話した日の事……覚えてる?」


まだあかねが未熟だった時、夜に神社で二人で語り合った。

その瞬間限りの友人。

あかねが千明に惹かれた日だった。


「はい。覚えてます。」


「貴女には貴女に出来る事をしなさいって、次に会う時はベルフェゴールとして貴女の前に立つって……確かそう言ったわ。そしてあかねちゃんも、運命にも私にも弱い自分にも負けないって。誓ってくれたじゃない。」


「……誓いました。」


「今がその時じゃないかしら?」


なぜこんなにもストイックなのだろうか?

微笑を絶やさず諭しているが、千明が望んでいるのはあかねの命。それと、自分の命を奪いに来るあかね。


「私の前にいるのは、私の憧れた妃山千明じゃなくてレリウーリアの一人、悪魔ベルフェゴールなんですね。」


頷くまでもない。あかねは確認してるわけじゃなく、覚悟を決めているだけ。


「少しダレたかな?仕切り直すわね。」


そう言って軽く咳ばらいをする。あかねの背中を後押ししてやる意図もあり、女優としてのスキルを見せてやる。


「我が名は暗黒王ベルフェゴール!闇十字軍レリウーリアが一人!我が野望の為エアナイトよ、悪いがここで死んでもらうっ!」


なかなかの声量で圧倒する。売れっ子なだけはある。

千明はあかねを見つめ微笑を少し緩め、何か言えと言わんばかりに顎をくいっと動かす。

エアナイトの能力とは無関係だが、空気の読めない女じゃない。だから……


「ここで潰えるのはベルフェゴール、貴女の方よ!!私が………」


込み上げて来るものをグッと堪え、


「私が貴女の野望を打ち砕いてあげる!!」


見事言い切ったあかねに、満面の笑みを贈る。


「くすくす。たいしたものね。あかねちゃん………いい女優になれるわよ。」


知らぬ間にミクソリデアンソードを千明に向けていた。感情が入ったからか、震える事なく切っ先は千明を捕らえている。

千明もブルーノイズを二度三度振って、カッコよく構えた。

これも演技なのだろうか?とにかく何をやっても様になる。


「手加減は無しよ。」


微笑を消し一変、悪魔の顔になる。

蝶のような青い羽を広げバトルを開始した。

あかねも、エアナイトの顔になる。その目には、一秒にも満たない未来が映っている。


「ドミナント・セブンス・スケール!!」


器用な戦いを出来る経験はない。技で応戦するのが得策だろう。


「くす。すごいオーラ………随分強くなったのねぇ……」


ドミナント・セブンス・スケールを瞬間移動で避け、あかねの後ろに出る。

エアナイトが万能でないのは、技を出したりと何かに集中している時は未来の空気を読めない。唯一の弱点というよりは、自身の攻撃の時には使えないのだ。ジョルジュに言われた通り基本は防御、最大の特徴はカウンター発動によるダメージを与える事。

だから千明が後ろに瞬間移動して来ても気付いた時には蹴り飛ばされていた。


「きゃっ!!」


前のめりに転倒し、慣れない痛みに困惑さえ見せる。


「かわいい悲鳴…………。萌えちゃうじゃない。くすくす。」


「やっぱり千明さんは強いなあ………」


膝の埃を払って千明に向き直る。


「もう一回行きます!ドミナント・セブンス・スケール!!」


あかねが千明に勝つにはただ技をぶつけるしかないだろう。

エアナイトの能力がどんなに優れていても、使いこなせなくては宝の持ち腐れ。あかねにはそれがよくわかっている。仮に使いこなせていたとしても、千明と対等にはなれない。

まぐれの一撃でも喰らわせる事が出来れば、突破口は開けると信じて。


「顔に似合わず力押しが好きみたいねぇ。ハー君の影響かしら?」


千明は身を優雅に翻して、


「なら私も………百鬼夜行!!」


技で対抗する。

人魂のようなオーラがあかねを取り囲み、集中砲火を浴びせる。


「さよなら、あかねちゃん。」


あかねの亡きがらを見たくなく、背を向け次の戦地へ向かおうとした時、


「ドミナント・セブンス・スケール!!」


「!!!」


まさかと思い振り返ると、あかねがドミナント・セブンス・スケールを放っていた。


「そんな……!?」


ブルーノイズを横にして受け止めた。


「直撃したのに………どうして……?」


自問自答してみる。耐えるだけの実力があかねにあるとは思えない。

ドミナント・セブンス・スケールを受け切れず、今度は千明が直撃を受ける。


「キャアアッ!」


非力だと舐めていた。身体が悲鳴をあげるほどの威力にあかねの秘めたる力を感じた。


「なんて威力なの……」


見ればあかねは肩で息をしている。彼女の『賭け』だったのか?


「……やるじゃない。驚いたわ。でもどうやって百鬼夜行を凌いだのかしら?」


「ハァ……ハァ………簡単な話です。千明さんが何か大きな技を出して来るのは読めました。だから直撃する前に一度オーラを消し、ゼロから全解放したんです。」


「その延長だからこの威力なのね………恐れ入ったわ。」


戦闘素人のあかねがセオリー通りにコマンドするわけがない。


「千明さん、どうしても白黒つけなければいけませんか?」


「言いっこ無しよ。それが私達の運命。」


「……………そうですよね。私も往生際が悪いなあ。」


「貴女のそういうところ、嫌いじゃないわよ。」


あかねは善戦した。必殺技の連発は見事だった。きっとあかねは、倒すつもりなんてなかったはずだ。動けない程度に留め、それで終わり。

中途半端?違う。あかねのこだわりだ。


「あのまま死んでれば貴女の無惨な姿を見なくて済んだのに。」


「あのまま倒れてくれてれば………誰も悲しい想いをしなくて済んだのに………バカよ、千明さん。」


「くす。バカな女が一人くらいいた方が、物語は盛り上がるのよ。」


勝負の瞬間。先に討って出たのは千明だった。

あかねは集中する。コンマ数秒の世界を見る為に。


「この距離なら凌げないでしょ!百鬼夜行!!」


「今!!」


待っていた。千明の最大の攻撃であり最大の隙を、カウンターをぶち込む最大のチャンスを。


「無声両唇摩擦音!!」


神さえ葬ると言われたエアナイトの奥義が………千明を襲う。


「なっ…………!」


百鬼夜行を放つ姿勢をとっていた千明は避ける事が出来なかった。

激しく叩き付けられ、鎧が砕けた。

負けを確信した瞬間だ。


「千明さん!!」


仰向けに倒れた千明に駆け寄り抱き起こす。

仕方なかったと言っても、心配にはなってしまう。


「なあんだ………ちゃんと切り札持ってたんじゃない……。」


あかねの頬に手を当て褒めてやる。


「ごめんなさい………ごめんなさい………」


あかねは泣きながら謝るしかなかった。


「バカね………これでいいのよ。あかねちゃん………もっと貪欲になりなさい。戦いも………恋も………貪欲にならなきゃいけない時もあるの……。きれいごとだけでは済まされない…………忘れないでね。」


『お姉様』として欠点を指摘してやる。


「はい…………忘れません。」


望まなければ結果は違ったのだろうか。

千明の手があかねの頬から離れ落ちた。

あかねと千明………不器用にしか生きられない女。


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