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第四十四章 華麗なる一族(中編)

葵が、純がはるかを殺したのだと理解するまでに時間は必要だった。

純は相変わらずニヤニヤと不気味に微笑んでいる。


「どうして…………はるかちゃんを………?」


恐る恐る聞いた。

 いつもなら純に対して気を使う事なんてない。構ってやるくらいでバランスが取れるからだ。


「どうして?決まっている。邪魔だからだ。」


ハッとする。声は純のものだが、口調が違う。同時に嫌な汗が流れた。


「まさか…………お前……」


「さて、なんて挨拶すればいいか。ルシファーと名乗るべきか…………それとも………」


オーラも純のものなのに純じゃない別人。


「はるか………とか呼んでたな、この女。こうもあっさり殺されてはヴァルゼ・アークも何も言えまい。」


はるかの亡きがらを足蹴にする。


「貴様ッ!!」


「そう怒るな。すぐにお前もあの世へ送ってやる。サタンよ。」


「…………貴様、ヘラだな?」


「そう呼んでくれるか。ハハハハ!若い肉体はいい。魔力こそ大分を失くしたが、それに見合う身体だ。」


純なら決してしないだろう笑みをまだ見せている。


「どうやって………」


「なあに簡単な事よ。わらわが肉体を捨てこの小娘の身体を乗っ取ったのよ。」


「乗っ取った?」


「悔しいが実力ではルシファーには勝てなかった。だから魔力を犠牲にして自分の肉体から魂を離し、小娘の肉体に入り込んだ。大分を失ったとは言え、永い時間を生きて来たわらわの魔力の前に、まだ若い小娘は逆らう事は出来ん。赤子の手を捻るより楽よ。」


「最悪ね………」


最悪も最悪だった。ヘラは自分の肉体を捨てたと言った。

つまり、ヘラを倒す=純を殺す事になる。ヘラの思惑はそこにもある。


「最後に勝つのは神だという事を教えてやろう。」


「結構。要らぬ世話よ。」


殺りたくないが殺らねば先はない。非情の選択は生きて次の死地へ歩む事を求めている。

拒否権はない。


「ほう…………殺る気か。」


「私達の目的はリリスを助け、ダイダロスと藤木蕾斗を倒す事。障害となるものは全て排除する。」


「仲間さえ障害だというのか?」


「あんたの思惑には乗らないわ。私が手出し出来ないと思ってるのなら大間違い。はるかの仇も交えてここで死んでもらうわよ、ヘラ。」


気が進むわけはない。理由はどうあれ仲間を手にかけるのは。

呪われた自分の手を見る。まだ呪われなければならないのか……。

葵は、意を決しヘラに挑む。







「翔子お姉様!!」


結衣も翔子も限界に来ていた。


「大丈夫。ありがとう、結衣。」


足がもつれただけだったが、肩を貸してくれた結衣に礼を言うも、状況は楽にならない。


「一体どっから出てくんのかしら………」


リリスの生体エネルギーから造られる白い霧状の生き物は、無限に増えるというより一定の数が減ると、それを補給する形で現れる。でもどこから現れるのかがわからない。翔子がいらだたしく辺りを見回す。


「必ずどっかにあるはずなのに。」


「翔子お姉様………あれは!」


結衣が指差す方に僅かだが空間が歪んでる箇所がある。


「…………フフ。っぽいわね。」


躍起になっていて気がつかなかったが、明らかに怪しい箇所が見える。

だとすればやるべき事は見えた。


「ねぇ、結衣?」


「はい?」


「……………私に何があっても貴女は任務を遂行してね。」


「翔子お姉様?」


翔子の言ってる意味がわからず聞き返そうとしたが、


「ここで時間をロス出来ない。どちらか一人でもみんなの加勢に行かなきゃならないわ。その役目、貴女に任せるから。頼んだからね!」


そう言って歪みへ飛んで行く。


「お、お姉様!?」


翔子の言った意味は聞くまでもなかった。

翔子が歪みへ向かうと、白い霧状の生き物達は全員翔子の後を追う。

実にわかりやすい。歪みがパイプラインなのだ。断たれれば補給されなくなるのだろう。

翔子もそれを確認する為に歪みに飛んだのだが、確証が持てた。

しかし、歪みを無くすなんて行為は物を破壊するのとはわけが違う。方法はただ一つ。


「すごいエネルギー………………こんなに強いエネルギーを僅かな範囲に留めておけるなんて。これもインフィニティ・ドライブね。危険な力………」


歪みを前にプレッシャーを感じる。

周りを囲まれた。逃げるわけにはいかない。


「みんな消し飛ばしてあげる。」


翔子の言葉を理解出来たのか、一斉に襲い掛かる。


「ごめんね結衣。体力も限界だし、こんなやり方しか思いつかないの。」


離れた場所から成り行きを見守る結衣を見下ろし呟いた。何か叫んでるみたいだったが、その姿すら愛しい。

集中する。ありったけのオーラを放出する為に。言ってしまえば翔子は自爆する気だ。

歪みを消し、白い生き物を消すたった一つの手段。

集束されたオーラは、竜神ティアマトに見える。


「みんな、楽しかったからね!!そして……………ヴァルゼ・アーク様!どうかご武運を!!!」


叫ぶと同時に放出したオーラが白い生き物と歪みを飲み込んで行く。それは翔子の最後だった。


「ダメよっ!!!翔子お姉様−−−−−−っ!!?」


翔子が何をしたいのかようやくわかった。既に手遅れではあるが。


「なんで…………もっと他に方法があったはず………馬鹿よ、翔子お姉様…………」


自爆という手段があまりにも唐突に行われた為、拍子抜けしてしまった。悲しさがただただ水面みなもを漂っているようだった。

 爆発はまだ続いている。

結衣に早く行けと言わんばかりに。

熱がじりじり肌を刺激する。


「…………くっ!」


涙を拭い、先に行った愛子達を追った。

翔子の想いを受け止めて。







「この爆発って…………」


那奈が真っ先に気付いた。

他の者達も足を止め、窓から見える爆発を見ていた。

ただの爆発じゃない。翔子のオーラが溢れている。


「竜神が自爆なんてらしくないじゃない…………」


絵里が唇を噛む。

もう何も言う事はなかった。悲しみに明け暮れるわけもいかないし、逃げ出すわけにもいかない。


「例え自爆しか道がなかったとしても、ヴァルゼ・アーク様の野望の為なら受け入れるまでよ。」


千明はクールに言い放った。

自分達も次の瞬間にはそうなってるかもしれない。否定出来ないのだ。

悪魔になった時から覚悟は出来ている。翔子が死んだ事で余計に冷静になれた。ローサの時みたく感情的にはならない。

死なねばならぬ時に、すんなり死を受け入れたいと思うから。







「信じられん…………本気で仲間を殺す気か…………」


ヘラは容赦なくマスカレイドで斬りつけてくる葵に恐れを抱いていた。

中身は別人でも見た目も肉体そのものも純なのだ。少しくらいは躊躇いがあってもいいくらいなのだが…………。


「しつこいわね。関係ないって言ったでしょ。ヴァルゼ・アーク様の障害になるくらいなら、純ちゃんだって死を望むはずよ。」


ヴァルゼ・アーク…………二言目にはヴァルゼ・アークの名が出てくる。ヘラには気に入らない。


「またヴァルゼ・アークか。どいつもこいつも。奴になんの魅力があると言うのだ?神々の時代からただ虚無であろうとする。ようやく腰を上げたかと思えば、自分の肉体を捨て人間に記憶と力を与える。そこまでしてしようとしている事が宇宙を無に還すだと?笑わせる。それに従うお前達もお前達だ。命を捧げて戦う果てには結局死が待つだけ。はっ!片腹痛くなるわ。」


「嫉妬?」


「何?」


「神があのお方の力に嫉妬するのはわかるけど、あんたは女として嫉妬してんでしょ?」


「バカな。わらわがヴァルゼ・アークに?」


「そうよ。振り向いてもらえなかったから恨んでるのよ。魅力が無い?いいえ、魅力がありすぎて好きになった事さえ気付かないくらいよ。」


「………戯言を。」


「覚えはあるんでしょ?かつて遠い昔、ヴァルゼ・アーク様に想いを寄せていた若い頃を。」


答えは聞く必要もないだろう。

葵の言葉はヘラに動揺を与えた。何かを思い出すように立ち尽くす。


「ま、ババアになってしまっては青臭くしか感じないかもしんないけどね。」


マスカレイドくるくると回し、


「手向けよ、受け取りなさい。百花繚乱!!」


ひらひらと舞う光の花びらが激しい吹雪へと変化した時がヘラの最後の時。


「ぐわぁ…………おのれ…………………負けてたまるか………悪魔めーーーっ!!!!!」


絶叫し、そのまま倒れた。


「純ちゃん!」


我を忘れ直ぐさま駆け寄ったが、純だけ殺さないやり方があったわけじゃない。


「純ちゃん…………ごめん許してよね。」


純の身体を強く抱きしめた。

はるかのところへも行き、はるかの身体も強く抱きしめた。


「はるかちゃん、加勢に来てくれた時嬉しかった。ありがとう…………」


二人の遺体を寄り添うような形で並べ、もう一度抱きしめた。

光の花びらが、まだ宙をひらひらと漂うように舞っていた。


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