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第三十七章 野心

ミューズを倒し羽竜達の後を追おうとした時、あかねの前にシュミハザ……南川景子が現れた。


「ペチャパイ女………」


失言。撤回するには一秒後でも遅すぎた。


「ペチャ…………!!?今日はいきなり喧嘩を吹っかけて来ますのです。単純バカに似て性格まで悪くなりやがったのです。」


「何しに来たのよ。」


「会う度に「何しに来た?」しか言えないのですか?何しに来ようと私の勝手なのです。」


勝手は勝手だが、用件を受ける方の身にもなってほしい。

毎回こっちの都合を狂わすタイミングで出て来られても困る。


「『過去』での続きをするつもり?」


「それ以外に私とお前の間に何があるのです?」


「先を急ぐのよ、貴女も同じでしょ?だったら私に構ってるよりも、やるべき事があるんじゃないの?」


「もちろんなのです。やるべき事は山積みなのです。でも、それは悪魔としての仕事であって、南川景子個人としては吉澤あかねを殺す事の方が優先すべき事なのです。」


あんまりはっきりと殺害予告するのもいかがなものか。

今日の景子はいつもと違う気がした。思わず口を突いたあかねの嫌みにも付き合わず、心なしか気分が高陽している様子だ。


「殺しますって言われて、はいどうぞなんて言うとでも?ヴァルゼ・アークさんになんて言われて来たかは知らないけど、邪魔をするなら容赦しないから!」


「ヴァルゼ・アーク様は関係ないのです。」


「関係ない?それじゃ、個人的に私を殺すって…………」


個人的な恨み。みたいな事かと思っていたが、本当に南川景子個人の感情らしい。あかねはそんなに恨まれる覚えが当然ない。………………ちょっとは嫌みも言いはしたが。


「全くの個人的な事なのです。お前を殺し、ダイダロスと藤木蕾斗を。そしてあの単純バカも葬り去るのが私の目的。」


「それは悪魔としての目的じゃない。貴女個人の目的と区別しなくてもいいような気がするけど?そんなに恨まれるような事だってしてないわ。」


「恨みはないのです。私はレリウーリアで誰よりもヴァルゼ・アーク様から愛されたい……それだけなのです。」


寂しげな表情を見せ、きゅっと唇を噛み締めた。


「ヴァルゼ・アーク様は単純バカも、お前の事も愛しく思っているのです。」


「ヴァルゼ・アークさんが?」


「仲間ならまだしも、敵のお前達に愛する人の心を持っていかれるのは我慢ならないのです。」


どうやらここに来て心の奥底にしまい込んでいた野心を抑え切れなくなったらしい。


「そんな事私知らないわよ!」


「うるさいっ!ヴァルゼ・アーク様は私だけのものなのですっ!誰にも………誰にもあの人の心は渡さないのですっ!みんな死んでしまえばいいのです!」


デスティニーチェーンがミクソリデアンソードに巻き付く。


「いきなり!?勘弁してよ!」


ミクソリデアンソードを奪われないように必死に抵抗する。


「誰もいなくなればあの人は私だけを見てくれるのです!」


景子の瞳が真っ赤に光る。まるで覚醒したヴァルゼ・アークのように。


「うわっ!ちょっ!」


景子に振り回されて立ち位置を確保出来ない。

右へ左へ、転ばないようにするのでやっとだ。


「バランス感覚のいい女なのです。」


ちょっとだけ感心してしまう。

あかねはなんとかバランスを立て直し踏ん張る。


「同じ手は二度は通用しないからね!」


「活きのいいところまで目黒羽竜に似てるのです。」


互いに一歩も退かずデスティニーチェーンを引っ張り合う。

この瞬間だけは、相手が自分の手の中にいるも同然。あかねにしても同じ事が言える。

景子がデスティニーチェーンをミクソリデアンソードから解かない以上は、彼女もまた武器を使えないでいる状態だ。

かと言って、永遠に睨めっこをしてるわけにもいかないのだが。


「ずっとこのままでいるつもり?」


「お前がおとなしく死を受け入れれば済む話なのです。」


どうやらエアナイトの能力を警戒してるようだ。

それだけエアナイトの能力は特筆すべきものだとも言える。


「嫉妬に狂うのは勝手だけど、私にまでとばっちりはごめんだわ。ヴァルゼ・アークさんが好きなら、そう言えばいいじゃない。」


「うるさいっ!!この世から私とヴァルゼ・アーク様以外いなくならない限り、あの人は私には振り向かないっ!!例え想いを何度伝えようとも「ありがとう」としか言われないっ!!こんなに……こんなに愛してるのにっ!!」


いつもの語尾に付ける『なのです』という不自然な口癖が無くなる。景子の感情が高ぶり、激高し始めた事を伺わせる。

あかねはそんな景子に恐怖感さえ覚えていたが、なんとか表に表さないようにしていた。

彼女から感じる恐怖。人のそれでもなく、悪魔のそれとも違う気がした。なんと言うか………女独特の『毒』とでも呼べばいいのだろうか。

はっきりとわかるのは、景子はレリウーリアとしては行動していない。一人の女として想いを遂げたい為だけにいる。


「死ねっ!吉澤あかね!!」


デスティニーチェーンを解して電流の魔法を流す。

ピンッと張った鎖をあっという間に駆け抜け、ミクソリデアンソードを伝ってあかねを襲う。


「きゃああああっ!!」


全身の細胞壁と細胞壁の間までを埋め尽くすくらい高い密度で電流が流れる。

前半の絶叫とは逆に、後半は声にすらならない。


「敵のお前達をなんで気にかけるのか知らないけど、あの人は私だけ見てればいいのっ!」


(………このままじゃ………やられちゃう………)


倒れ込む姿勢もとれないほど電流で縛られている。

僅かな意識の中、形勢逆転のチャンスを見た。


(…………鎖……って……)


のけ反る状態から景子を見る。

ある。形勢逆転出来るチャンスが。

ゆっくりと後ろへ下がる。

はちきれんばかりに張り詰めたデスティニーチェーンを、思い思いの力で引っ張る。


「逃げられると思ってるのか!」


景子もまたデスティニーチェーンを引っ張る。

まるで綱引きでもしてるかのように、鎖を引き合う。


「どこにそんな力が……!」


電流を浴びながらも景子と対等な力を見せるあかね。成長ぶりが伺える。


「一つ…………教えてあげる…………鎖ってさ、引っ張る力には強いけど………その力がなくなったら……どうなるのか……」


ミクソリデアンソードに絡みついたデスティニーチェーンを精一杯引っ張り、景子もまた力を入れた事を感触で確認すると、なんと、ミクソリデアンソードを手放した。


「なっ………!!」


どうなったかは想像に容易だろう。

互いに引き合っていた力が、仮に50:50とするならば、一瞬で100:0になったのだ。

ミクソリデアンソードは持ち主の意志とは無関係に景子に飛んでいく。

自分で自分を攻撃したような結果にも見える。ぎりぎりでかわしたものの、頬をかすめ傷を負った。


「吉澤あかねっ!!」


まさか自分の武器を利用されるとは思わなかったらしく、あかねの名を口にしたものの次の行動に移れない。

あかねは、ダメージの残る身体に鞭を打つようにダッシュで景子の前に来ると、体当たりをかました。


「ええいっ!!」


聞けばマヌケな声をあげながら景子に当たり、二人は転げる。

景子は退勢を整える間もなく、ミクソリデアンソードを手にしたあかねにその刃を向けられてしまう。


「形勢逆転ってとこかしらね。」


「ナメた真似を……」


「自分の武器のウィークポイントくらい頭に入れといた方がいいよ。」


「黙れっ!お前なんかに言われる筋合いはない!」


「普通に話せるじゃない。変な語尾つけるよりもいいと思うな。」


「うっさい!黙れって言ってるでしょっ!!お前には関係ないっ!!いいからさっさと殺して!」


さっきまでの真っ赤な瞳は、いつもの景子の瞳に戻っていた。

キツイ印象を与える目をしてはいるが、よく見ればくりっとしていてかわいらしい。

本人は気付いていないが、無愛想ながらも好意は持たれる顔立ちをしている。

幼さの残るその顔と、彼女が言ったヴァルゼ・アークへの想い。大人へと加速していく心と身体が比例しない。

あかねにも景子の気持ちはわからないでもなかった。

景子の周りの女性達は華やかで魅力に溢れている。自分一人が置いていかれそうになるのが耐えられないのだろう。

もがき苦しんでるのが痛いほどわかる。だから、


「殺さない。」


そう告げた。


「バカにしてんの?」


「ううん。好きな人がいるのはおんなじだから。貴女が死んだらきっとヴァルゼ・アークさんは悲しむ。そして、私も後悔する。多分、私と貴女は似た者同士かもしれないから、生きて幸せになってほしい。」


「ハンっ!似た者同士?幸せになってほしい?どこがよ!エラソーに。今殺さなければ、またお前を殺しに行く。何度でも。」


「いいよ。私も何度でも相手してあげる。」


憎たらしいくらい可愛い笑顔で微笑むと、ダメージの残る身体を抱えながら今度こそ羽竜達の後を追う。


「似た者同士…………フン、どこがよ………」


彼女の深い闇に光が届く日は来るのだろうか………。


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