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第三十四章 出来レース(後編)

最初に現れた神は、


「醜い烏めらが………」


彼女達をそう罵った。


「ヘラ…………」


千明が目の前の女神の名を口にした。


「よもや悪魔風情と戦う羽目になるとは。それも小娘ばかり。」


女神は千明、景子、那奈、純、はるか、葵、愛子、絵里を見て吐き捨てるように言った。


「その小娘に貴方は殺されるのよ。」


愛子が言うと、ヘラは苦笑いをした。

多少はカンに障ったらしい。

それでも平静を装うのは、あらゆる神々の頂点に君臨する、大神ゼウスの妻としてのプライドからだろう。


「わらわを殺す?愚か者め!悪魔ごとき烏合の衆が誰に物を申しておる!」


「お前だよ。ババア。」


愛子の二人目の人格が現れた。

声のトーン、口調も荒々しくなった愛子に不覚にも一瞬怖じけづく。


「………よくも侮辱を……」


「神と言えども、若さを取り戻す事は叶わない願いのようですわね。」


純も何か言わなければ気が済まないらしい。


「ルシフェル!!」


「違いますわ。私はルシファー。魔王ルシファー!」


「何が魔王かっ!成らず者の天使が!アマゾネスの時は討ち損じたが、今度はわらわ自ら消してやる!!」


「アマゾネスの時?…………まさかヒッポリュテに私が悪魔だとわかってしまったのは………」


「わらわが言ったのよ。アマゾネスの身でありながら、戦いもせずによそ者のお前に帯を渡すものでな。思わず呆れてしまったわ。」


純が試練の為、ヒッポリュテに帯を取りに行った事を一部始終見ていたのだ。そして、ヒッポリュテと純が戦うように小細工したのも、ヘラだった。


「みなさん、ここは私に任せてさっさと先をお急ぎあそばせ。」


グングニルを強く握り、仲間達へ指示する。

純とヘラが何の話をしてるかは何となくわかった。

さぞかし腹に据え兼ねる事があったのだと伺えたのは、お嬢様である彼女が滅多に見せる事のない神経質なほどの怒りの表情。


「仕方ないわねぇ。純の意見を尊重して任せましょう。」


純のこんな表情を見たのは初めてだ。何をを言っても純が引かないと、千明ならずとも感じ取れた。


「いいんじゃない。ババア相手に大勢でってのも後味悪いし。」


絵里が一人足早に歩きヘラの脇を通り過ぎる。


「尊重するも何も、お嬢様は人の言う事聞かないからね〜。ま、よもやババアに負けるような下手はこかないでしょ。」


はるかが純の肩を軽く小突く。

那奈も葵も景子も、純に任せる事に異論はない。みんな先へと急ぐ。


「何をなさってるのです?貴女も早くお行きなさい。時間がなくてよ。」


後ろで立ってる愛子を急かす。


「………悪魔も人手不足なのはわかってんだろ。必ず追い付いて来い。」


「はぁ……口の悪い愛子ちゃんはいただけませんわねぇ。人の心配をする余裕があるなら、まずご自分の心配をなさいませ。」


振り向いた純と視線を交わし、


「死ぬなよ。」


ネオンのように青く光る瞳でヘラを睨み仲間の後を追う。

 愛子の背中に想うところはあったものの、後ろ髪を引くわけにもいかない。ただただ、仲間達の武運を願った。


「仲間がいた方がよかったのではないか?」


「いない方が都合がいいんですの。」


「たいした自信だ。」


「仲間には私の残酷な一面は見せたくありませんから。」


「さすがは仲間想いのルシフェル。だが神を裏切り悪魔になったお前には、引き裂きの刑をくれてやる。」


ヘラの魔力が辺りを包み、逃げ場を無くす。とことんまで傷めつける気だろう。

警戒するまでもなく、純とてとことん傷めつける気だ。


「しかし理解に苦しむ。そこまでヒッポリュテにこだわる理由が見当たらん。何故だ?」


「人の優しさのわからない貴女に説明したところで無意味ですわ。」


「ルシファー………!!」


馬鹿にされオーラが荒れる。


「さ、始めましょう。……クソババア!」











生体エネルギーを吸い取られ続け、体力的にはかなり限界までは来ている。

あまり安心出来る状態ではなかった。

自分のエネルギーを使われ、仲間達に迷惑をかけてるかもしれない。そう考えると、何も出来ない自分が悔しい。


(総帥……………みんな……………)


憔悴しょうすい仕切った美咲のところに蕾斗が来た。


「だいぶ苦しいみたいだね、リリス。」


「気安く呼ばないで。」


親しみを込められてるわけでもないし、悪意を感じるわけでもない。それでも、どこか所有物のような言い方が嫌だ。

かつて見ていたおっとりとした雰囲気の少年は、神ですら寄せ付けないほどのオーラを漂わせている。

実力は取るに足らないのだろうが、彼に備わった自信と揺るぎない理想はきっかけさえ与えれば天地さえひっくり返す力となる。


「ヴァルゼ・アーク達が来たよ。」


「そう。」


「君を取り戻そうと仲間達が躍起になってる。嬉しいかい?」


「嬉しいわ。貴方達の野望もこれまでだと思うと、嬉しくて笑いが止まらないわ。」


仲間が来たという事実は、美咲にゆとりをもたらした。

まだ踏ん張れる。きっと助けに来てくれる。まだ倒れるわけにはいかない。

ヴァルゼ・アークが勝利を手にするのをこの目で見届けるまでは。


「悪魔と神。悪魔が勝てると思うの?ヴァルゼ・アークだって勝てるかわからないのに。」


「勝つのよ。あの子達は負けない。信じてるから。」


「無理だと思うよ。」


美咲が信じるモノが、蕾斗の不安を煽る唯一の隙になる。

今の蕾斗には信じられるモノがないのを美咲も本人も知っている。


「そういう貴方のお友達は来たのかしら?」


「………………羽竜君の事?彼はもう友達じゃない。」


陰りが射す。蕾斗の中で葛藤が生じている。


「貴方はそう思わなくても、目黒羽竜は貴方を友達だと思ってるんじゃないかしら。彼の目的は藤木蕾斗を連れ帰る事。その横っ面をひっぱたいてもね。」


「僕はもう藤木蕾斗じゃない。アダムだ。」


「いいえ。貴方はまだ藤木蕾斗よ。」


「口の減らない魔女め!」


指先から魔法を放って美咲を黙らせようとする。


「きゃあああっ!!」


「僕を誰だと思って………」


「何度だって言ってあげる………貴方は藤木蕾斗よ。」


「くっ!!」


今度は強めに食らわす。


「悪魔ってのはお喋りで困る。」


いつも言い負かされる自分が嫌になる。

若い………それだけなのだろうか?本当にそれだけなのだろうか?何か不足してるモノがあるのでは?

インフィニティ・ドライブはもとより手中。使いこなせなくても、誰も自分には手を出せない。

それだけでも大きな防御となっている。なのにこの不安はなんだ?

うなだれる美咲を後にする。


「…………貴方は………一番大切なモノを失ったのよ。それに気付けないのなら………舞台から引きずり降ろされるだけよ………」


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