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第三十二章 絶対支配

それぞれが過ごした時間はまちまちだったろう。

しかし彼女達を待っていたヴァルゼ・アークと由利から見れば、同じタイミングで全員が帰って来た。

時間にして一時間。


「全員無事で何よりだ。」


ヴァルゼ・アークの言葉の前に、レリウーリアの面々がひざまずく。


「その余裕の態度を見る限り、そんなに時間は経過してないみたいだな。」


変わらずの喧嘩腰で羽竜が噛み付く。

そこがまたかわいらしくも思える。ヴァルゼ・アークは笑顔を崩さない。


「お前達が一生懸命働いてくれたおかげでな。」


「俺はあんたの為に戦うんじゃない。この戦いが終われば、次はあんただ。」


やっぱりいけ好かない。大人の余裕とも違う気がするし、バカにされてるわけでもない。

嫌味を言ってるのかもしれないが、そうは感じない。


「それは楽しみだ。」


ヴァルゼ・アークが微笑む。

いくら張り合っても口では勝てない……多分。


「ヴァルゼ・アーク様、お伝えしたい事があります。」


那奈がひざまずいたままヴァルゼ・アークを見上げる。


「なんだ?」


「実は、試練の先で奇妙な老人と出会いました。」


「…………で?」


この時点で老人が誰かはわかったはずだ。

険しい表情がそれを物語る。

老人は言った。自分の名前を聞けばヴァルゼ・アークは機嫌を損ねると。


「はっ………ダイダロスは神を従えていると。」


「神を?」


それを聞いて、羽竜が声を上げる。条件反射というやつだ。


「そうだ。鹿も言ってた。神々の何人かがダイダロスと手を組んでるって。」


「それ本当なの、ハー君?」


千明が立ち上がり聞き返した。

敵に神がいるとなれば、美咲を救うのも難しくなる。

なにより、自分達の勝利に影が射す。


「総帥………」


由利が黙り込むヴァルゼ・アークを見る。


「ここまで来たら神ごと消し去るまでだ。どうせいずれは出て来るだろうとは思っていたからな。」


じたばたしても始まらないという事らしい。


「私からもお前に伝えたい事がある。」


ジョルジュが一歩前に出る。


「お前を純粋だと言っていた女がいた。彼女はお前に野望を遂げてもらいたいそうだ。」


「女ぁっ!?聞き捨てならないわ!!誰よその女って!」


はるかが騒ぎ立てる。ローサが生きていれば、彼女が真っ先に反応を見せていただろう。


「名前は聞かなかった。私には関係ないからな。」


「あのねぇ、ジョルジュ。名前くらい聞いてきなさいよ。気の利かない男ね!」


翔子も便乗してジョルジュを責め立てるも、綺麗に聞き流されている。


「彼女の計らいですんなり事が進んだ。言わなくてもよかったのだが、私から彼女への恩返しみたいなものだ。彼女は今もお前を想っている。」


レリウーリアの悪魔達の目つきが変わる。

 余計な事を。そう思ってるに違いない。


「そうか。」


浮かない顔でたった一言そう言った。


「ケッ、女ったらしが。神様ってのはどこに行っても変わんねーみたいだな。」


皮肉を言う羽竜に対して、結衣が食ってかかる。


「目黒君、今の言葉取り消して。」


「なんか悪い事言ったか?」


「神様はみんな同じ?違うわ!ヴァルゼ・アーク様は神かもしれないけど、私達はそう呼ばない。ヴァルゼ・アーク様は神と呼ばれるのを嫌うから。だからあえて魔帝とお呼びするのよ!ヴァルゼ・アーク様を神と呼ぶのは侮辱よ!許せないっ!」


結衣だけじゃなく、他のメンバーも全員立ち上がって羽竜を睨む。

彼女達はヴァルゼ・アークが侮辱されるのを許さない。

過去へ行った時も、セイラが侮辱したのを聞いて全員が武器を手にした。誰かが止めなければ、その場で殺す気だろう。

羽竜とあかねが武器を構える。


「止せ。今は羽竜達と戦う時ではない。美咲を助けるのが先だ。」


ヴァルゼ・アークに言われれば従うまで。結衣からすれば羽竜を消してしまってもかまわないのだが。


「さあ、お喋りは終わりだ。覚悟はいいな?後戻りは出来んぞ。ここで奴とケリをつける。」


そう言うと、ヴァルゼ・アークは結界の消えた大きな扉に触れる。

扉が重い音を立ててゆっくりと開く。

強い光がヴァルゼ・アーク達を照らす。


「行け!俺に盾突く神を殺し、美咲を救い出せ!」


「「「「はっ」」」」


由利を除く十人の悪魔達が敬礼して戦いの場へと飛び込んで行った。


「羽竜、約束通り蕾斗はお前に任せる。見事止めて見せよ。」


「言われなくてもそのつもりだ。あんたこそ、ダイダロスに負けるなよな。」


「フッ……いらぬ心配だ。」


羽竜達も扉を抜け蕾斗を目指す。


「目黒羽竜は本当に藤木蕾斗を倒してしまうのでしょうか?」


駆けて行く少年の背中を見ながら由利が問う。


「言ったろ。それが奴らの運命よ。互いを知った仲だからこそ、どちらかが消えねばならぬ事もある。理想を実現出来る力を得た蕾斗と、あくまで人として生きる事を望む羽竜とでは混じり合う事はない。」


「ではインフィニティ・ドライブはどうなさるのです?総帥の野望には必要不可欠な力。蕾斗が死んでしまえば……」


「フッ。気にするな。インフィニティ・ドライブは必ず俺のものになる。それに、蕾斗が羽竜を倒す可能性だってないわけじゃない。まあ黙って見ていろ。運命に操られたピエロ達の結末を。」


きっと、それは羽竜達だけを指してはいない。

ダイダロスや彼に同調する神々、そして自分達をも指している。

今まで何度も覚悟を問われたが、これが最後かもしれない。

千年。歪曲された歴史が積み重なる時間も、果てる時が来たのだ。戦いの勝者は一人。

それが誰であれ、その者が未来を創る権利を得る。


「わかりました。では私も行きます。総帥もお気をつけて。」


由利も扉の向こう側にある都市のような城へと走って行く。


「なあ、宇宙よ。もうじきお前の悪行も終わる。そして怯えるがいい。人々が運命に怯えたように。お前も運命に怯え絶望するといいっ!!」


その手には絶対支配という黒き刃の剣を握られ、運命に嘆く魔帝は最後の戦場へと足を踏み入れた。


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