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第二十九章 満ち欠けた日

「あの図体でなんであんなにすばしっこいの!?」


破壊神アスモデウスこと綾女はるかが、追い切れない大猪に対して文句を言う。

大猪を捕獲するのが試練クリアの条件。安易に考え過ぎていたかもしれない。

猪なんて向こうから突っ込んで来てくれる生き物だと思っていた。まして『大』という敬称がつけられているのだから、それはそれは勇ましくタフな猪だと信じきっていた。だから捕獲するのに苦労はしないと高をくくっていたのは認めざるを得ない。

この大猪は、はるかを見るなり物凄いスピードで逃げる逃げる。


「あんまり必死で逃げられると、なんだか犯罪者みたいじゃない。」


大猪からすればそうなる。

意思伝達が不可能な生物に追われるのだ。逃げる以外にどんな選択肢があるというのか。

はるかの天真爛漫ぶりにかまってる暇は、やはり大猪にはない。


「ん〜………どうしたもんかしら?殺したらまずいし……」


あくまで捕獲がメイン。かと言って、捕まえられる寸前まで痛めつけるという行為は、これがなかなかうまくいかない。

熟練度が無ければ成し得ない高等技術だ。

とりあえずは見失わないように追い掛けるだけで精一杯。

広い草原を突き進む。森とか山であったなら、全力疾走とは大猪もいかなかっただろう。


「…………そうだ!火よ!火で足止めして少しずつ行き場を無くしてやれば……!」


至極真っ当な考え方を、今思い付く。

幸いにも周りは火に頭の上がらない草花の群れ。

草花には悪いが犠牲になってもらう。彼らの事情まで考えてたら何も出来ないで終わるだろう。

そして、終わる事もまた出来ない。


「炎の魔法なら大猪の前方まで一気に行ける!」


両手から炎を放つ。

はるかの思惑通りに、大猪の前方に炎が立ち塞がる。

大猪は止まる事なく右に向き直り、更に逃げようとする。

はるかは連発で魔法を放つ。魔力はさほど必要ない。乾燥した空気が火が育つのを助けてくれるからだ。

大猪がどんなに方向を変えようとも、たちどころに一面火の海に変わる。

逃げ場を失い、はるかに追い詰められる。


「食べたりしないから、ちょっちおとなしくしててね。」


真っ黒な鎧を纏ったか弱き乙女に恐怖しながらも、わざわざ火の中に生きる望みを模索するくらいなら、意思伝達不能なはるかに身を委ねたほうが得策だと認識したのだろう、図体からは想像出来ないほどあっさり気絶させられてしまった。


「任務完了〜!」


似たような試練でわずかでも苦労させられた景子や葵達に比べれば、これから始まる死闘へのウォーミングアップくらいにはなったはず。

大猪を軽々と担ぎ上げると、火に囲まれた領域から脱出する。

すくすくと空まで真っ赤に染めた火の海を脱した上空を飛行していると、大勢の人間が騒いでいた。

その騒ぎっぷりには納得させられる。

自分達が生活するすぐ近くで大火災が発声してるのだ、当たり前だろう。

まさか消防車が出動して来る世界とは違う。野次馬のそれとはレベルが違い過ぎる。

何人かがはるかに気付いて地上から指を差す。

あからさまに怪しげな女が、大猪を担いで見下ろしているのだ、火災の原因がどこにあるのかは三流推理小説よりわかりやすかった。


「あ、悪魔だっ!!」「なんて事をしてくれたんだ!!俺達の畑を!!」「殺せ!!」


などなど。罵声が止む事なく地上から飛んで来る。

気の利いた奴というのはどこにでもいるもので、弓矢を持って来てたらしく、待ったなしで攻撃してくる。そんなもの悪魔には通じないのだが。


「うざいなぁ。そんなに毛嫌いしなくてもすぐ帰るし。」


構う要素はない。帰ろうという意思を見せた時、


「誰かーっ!!助けてー!!」


絶叫にも勝る声がした。火の海の中から。

無意識で声の主を探すと、はるかと大猪がいた場所とは違う場所で、火に囲まれた赤ん坊を抱いた女性を見つけた。


「………………………。」


無言だったが、はるかの脳裏には不死鳥界での事が思い起こされた。そう、不死鳥界で赤ん坊を殺した事を。

悪魔と言えど女。赤ん坊という単体への想いは、男にはわからないものがある。多分。

自分の中でプレビューを見終わると、彼女達を救出した。

片方は獲物。もう片方は救出した母子。後者を人間の群れに返す。

人間達は、はるかを恐れ円を作るように後ずさる。

救出された母子は助かった安堵感から地面に倒れ込んだ。

はるかは何も言わず立ち去るつもりだったが、一人の少年の思わぬ行動にたじろいだ。


「お前なんか死んじゃえ!!」


暴言と共に石を投げられた。

額に当たり、血が流れる。

その行動が合図となって、他の人間達も石やら土を丸めた物体やらを投げ付けて来る。聞きたくない暴言も。

素早く場を離れた。心が痛い。責められても文句は言えないが、心の傷が癒える事はない。


「総帥……………」


涙が視界を遮る。早く戻ってヴァルゼ・アークに会いたい。彼ならこの心の傷が癒える言葉をくれる。

いや、敢えて泣き事は言わない。ただ戻ればいい。そうすれば、


「よくやった。」


笑顔でそうねぎらってくれる。そういう人だ。

それだけで充分だ。

自分が心を痛めた事でレリウーリアの野望………ヴァルゼ・アークの野望に一瞬でも水を差してはならない。

愛する人に会いたい。こんなにも想った日はなかった。


残るオーブは後二つ。


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