第二十六章 贖罪を語りし者
狙うは湖の真ん中にある島に棲息する怪鳥。
体長は翼を広げると、およそ25メートルにもなる。しかも、一羽ではなく数十いる。
魔王アドラメレク・岩瀬那奈は、ロストソウル・アルティメットバスターを構え、狙いを定めていた。
「……………ダメだわ。」
運悪く、外は夜。おまけに、怪鳥は黒色。でかいとは言え、数十もいるとなると、一発だけでは仕留め切れない。
一羽だけ仕留めても、残った怪鳥達に攻められては都合が悪い。勝てないわけではないが、ここでの力はなるべく温存しておきたい。
「やれやれ、翔子のロストソウルなら楽なのに………」
朝まで待っても答えはでないだろう。
レリウーリアの策士も、今日ばかりは後の事まで考える余裕はないようだ。
「戻ってからの事は、戻ってから考えるか。」
トリガーに指をかける。
ランチャー型ロストソウルに、無駄にならない程度のオーラを込める。
バリオン物質で出来ているロストソウルには質量がない。
一見重そうに見えるアルティメットバスターだが、扱うのは難しくない。
那奈はアルティメットバスターが熱くなっていくのを感じ取る。
「それじゃ、行くわよ……………………発射!!」
アルティメットバスターから圧縮されたオーラが放たれる。
怪鳥達は異変に気付いたが、時既に遅し。アルティメットバスターの餌食となる。
「さて、問題はここからね。」
数十羽いた事だけはわかっている。今の攻撃で、生き残る数が問題だ。
那奈はアルティメットバスターを構えたままで、湖面すれすれに浮遊しながら近づいて行く。
以外にも、生き残った怪鳥はいなかった。何度も注意深く確かめたが、やはり生き残りはない。
「………警戒し過ぎだったかしら?」
もう一度周囲を見回す。
万が一にも失敗は許されない。
「大丈夫みたいね。早く戻って美咲を助けなきゃ。」
脳裏にローサの事がよぎる。
那奈自身も、天使や不死鳥族を数多く倒して来た。
だから自分達だけが被害者だとは思わない。ただ、それでも割り切れない気持ちがあるのは否めない。
「悪魔というのは、やる事が派手じゃのう。」
「誰!?」
暗闇からうっすら人影が見える。
「島の管理人とだけ言っておこうか。」
長い白髪で、長い髭を携えた男性の老人がいる。眉毛は瞳が隠れてしまうほど伸びている。
「島の管理人?島って言っても、小島もいいとこじゃない。管理人なんてうさん臭いわね。だいたい、どうして私が悪魔だってわかったのかしら?」
「それだけむんむんと気配を放てば、嫌でもわかる。」
「それもそうね。で、私に何か用?急いでるんだけど。」
「…………アダムの力は強大じゃ。インフィニティ・ドライブが不完全なものであったとしても、倒すのは難しいぞ?」
「なんで貴方が………こっちの事情を知ってるの…………?」
「ほっほっほ。なんでもお見通しじゃよ。魔王アドラメレク。」
ただ者じゃない。事情を知り尽くしているようにも思える。
「いい加減に名乗りなさい。でないと………吹き飛ばすわよ?」
「血の気の多いのは、ヴァルゼ・アークの影響か?」
「…………何言ってんの?ヴァルゼ・アーク様は滅多な事じゃ熱くならないわ。」
「ほっ。何も知らんのじゃの。あやつほど熱い男はおらんで。常に世を憂いておる。」
ヴァルゼ・アークと言葉を交わした事があるのだろうか?
ますます何者か知りたくなる。
「名乗りなさいよ。ヴァルゼ・アーク様に伝えてあげるから。」
「やめておけ。ワシの名を出せば、奴は機嫌を損ねるぞ。ほっほっ。」
「でもそれじゃ私が納得出来ないのよ。」
「それはおぬしの問題じゃろ。ワシには何の関係もないわ。ほっ。」
どうあっても言わないらしい。
「力ずくって手もあるけど?」
どうあっても聞きたいらしい。
「ほっほっ。お前さんでは勝てんよ。それでもやりたければ試してみるといい。」
アルティメットバスターの銃口を向ける。
トリガーはいつでも引ける。でも、何故か引いてはいけない気がする。
「……やめておくわ。」
アルティメットバスターがスーッと消える。
「懸命じゃな。」
那奈は翼を広げる。
「…………気をつけよ。」
老人は那奈の背中に声をかけた。
「気をつける?何に?」
「ダイダロスは神を従えておる。」
「……なんですって!?」
思わず振り向いた。
「お前さん達が思うより、ダイダロスもまた強大じゃ。人間の域を超え、神を超えた。奴にインフィニティ・ドライブを渡してはならん。」
「どうしてそんな事を教えてくれるの?」
「…………ヴァルゼ・アークへの、せめてもの罪滅ぼしよ。」
「……………………心しておきましょう。」
老人の言葉に嘘はない。
どういう関係かは知らないが、ヴァルゼ・アークに借りがあるらしい。
それも大きな借りが。
ヴァルゼ・アークには那奈達も知らない事が多い。いや、きっと知らな過ぎる。
由利ですらヴァルゼ・アークの目的を知らなかったくらいだ。
その他の事なんて、誰にもわからなくて当然だろう。
「他に伝える事は?」
「………済まなかったと。」
那奈は老人の言葉を受け取り、ヴァルゼ・アークの元へ戻る。
「終焉生まれし時、時代は終わる。だが、終焉の源が複数生まれたら………」
老人は天を仰ぐ。
「宇宙よ………運命に抗う者達の悲鳴、よく聞くがよい。」
七つ目のオーブが割れた。