第二十二章 メイドのスキル
中間翔子、竜神ティアマトの職業は、メイド喫茶のメイド。
メイドが大のお気に入りで、屋敷の家事全般は翔子が仕切っている。
特に、掃除は得意だ。あの広い屋敷を段取りよく、隅々まで綺麗にする。それが自慢だったりもするのだが……………
「冗談でしょ……………」
与えられた試練は、数千はいる牛小屋の掃除だった。
最悪な事に、最後に掃除をしたのが三百年前だという。
レリウーリアの屋敷も結構な広さだが、数千頭いるの牛小屋の広さというのは問題外だ。
手前の入口から向こう側の入口まで、駆け抜けるのに何分かかるだろうか?小屋と呼ぶにはあまりに広い。それと、臭い。
鼻がひん曲がる臭気が充満してる。
「な〜〜〜〜〜にが楽な試練よ!!ダイダロスめ!こんなのメイドの仕事じゃないわ!!だいたい、水道も無いじゃないの!!バッ…………………………カじゃない!!!」
鼻をつまみながら小屋に踏み込むも、今度は目と喉が痛くなって外に出る。
「げほっ、げほっ。う゛〜〜〜〜〜〜帰りたい。」
試練なんて言うくらいだから、誰かと戦うのかと思ってた。翔子のロストソウル・波動砲は、一対一のタイマンには相応しくないが、だからと言って戦えないわけじゃない。こんな事をやらされるくらいなら、バトルの方がマシだ。
「降参かね?」
初老の男が話し掛ける。
「アウゲイアス…………」
男はこの小屋にいる数千の牛の飼い主で、この国の王だと名乗った。
「こんなの部下にやらせなさいよ!」
「ガハハハ!そうしたいのは山々だが、見ての通り貧しい国でな、王とは言っても部下はいないのだよ。」
確かに、王様とは思えない身なりをしている。
「やりたくないのならやらなくてもよいが、ワシの嫁になってもらうぞ!」
下から上まで、鼻の下を伸ばしながら翔子をじろじろ見る。
「なんでそうなるのよ。」
「眼帯の男がそう言ったのだ。」
「あんのヤロウ……………」
「さあ、どうする?やるのか?やらないのか?ワシはどっちでもいいが?」
「やるわよ!やるに決まってんでしょ!」
「そんなんやる気出さんでもええのに………。悪魔の嫁なんぞもらったら、自慢になるのにのう。」
アウゲイアスは残念そうに溜め息を吐く。
「と、とにかく、掃除が終わったら呼びに行くから、あっち行ってて!」
邪険にされ、おとなしくこの場を翔子に任せる。
「さて、地道にやってたらいつになるかわかんないわね。何かいい方法ないかな……?」
掃除に必要な道具は無い。牛もうじゃうじゃいる。唯一役に立ちそうなものは、小屋を挟むように流れる二本の川。水道は無いが、水の心配はなさそうだ。
「かと言って、一回一回汲んでてもダメね。と、なると…………………」
竜神の翼を広げ、上空から地形を確認する。利用出来るのは二本の川のみ。
「いいこと思いついちゃった!」
そのまま右の川に向かう。
「よ〜し…………………」
川の中に腰まで浸かり、波動砲を一基、具現化して狙いを定める。
狙うのは川岸。方向は小屋の入口。
「出力は………20%くらいでいいかな。」
電子音が鳴る。こんな物をダイダロスが造ったとは思えないが、まあいいだろう。無いと困る。
「いっくよ〜ん……………」
照準を再確認する。間違えば牛小屋を吹き飛ばし兼ねない。
「発射〜〜〜〜〜〜!」
出力を絞られた波動が川岸にヒットして、小屋の入口付近まで削る。
「…………成功かなぁ?」
川から上空に上がる。
一直線だった川の流れが、新たに出来た溝に流れ込む。
そして、小屋の中まで流れ込み、床を『掃除』し始める。
「う〜ん…………勢い足りないかぁ?」
小屋の中を覗いてみる。山にまでなってた汚物が流れては行くが、向こう側の入口で固まり出す。
「もうちょいね!」
今度は左側の川に行き、今と同じ事をする。
「そりゃっ!」
勢いがプラスされ、小屋の中の汚物は排除された。
臭気も大分おさまり、心なしか、牛達も喜んでいるように見えた。
「これでいいでしょ!」
最後に、大きな岩を二つ運んで来て、小屋に流れ込む水をせき止める。
「おお!!これは見事だ!!」
待ち切れず様子を見に来たアウゲイアスが感嘆の声を漏らす。
「終わったら呼びに行くって言ったのに………」
「まあそう言うな。それにしても、川の流れを変えるとは恐れ入った。」
「私は竜神よ?人の知恵とはわけが違うのよ!」
腰に手を当て、胸を張る。
「ワシとしては、嫁になってもらった方がよかったんだがのう。」
やっぱり残念そうに翔子を見る。
「私の身体は魔帝ヴァルゼ・アーク様の物よ?手を出したら間違いなく殺されるわよ。」
「むむっ………」
ヴァルゼ・アークの名は知っているらしく、唸るにとどまる。
「それじゃ、納得してもらえたかしら?掃除の方は。貴方が納得すればゲームクリアだって、ダイダロスが言ってたわ。」
「よかろう。合格としようじゃないか。」
「やった!」
そう言うと、翔子が消えた。
「やれやれ、別れの挨拶も無しか。せわしない女だ。」
アウゲイアスは、小屋の中を見て回ると、高台に上がり翔子の功績を眺めていた。
「…………それにしても可愛い娘だった………」
目を閉じて、翔子を思い浮かべていると、何かが動く音がした。
「ん?」
なんと、翔子が置いた二つの岩がゆっくり転がり出している。
しばし呆然としていたが、嫌な予感がし始めた。
人為的に作られた川……それを強引にせき止めた為、岩付近の川の勢いは強くなり、波動砲で削られた溝に浸透して、地盤が脆くなったのだ。
「お…………おおっ!?」
緩くなった地盤は一気に崩れ、岩もろとも流し出す。
「な、なっ……………!?」
岩は小屋にぶつかり破壊する。
不自然な川の形が、更に流れる勢いを増し、岩と小屋のみならず、数千の牛までも流してしまう。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………。」
何が起きたのか理解してるはずなのに、まだ信じられない。
アウゲイアスの気持ちなどお構い無しに、牛達は鳴きながら流されて行った。彼の全財産は無くなった。
「あ………………悪魔めぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」
アウゲイアスの叫びが翔子に届いたかどうかは知らないが、三つ目のオーブが割れた事は確かだった。




