第十九章 ジャッジ
突如、上空に出現した円盤を見て、人々は宇宙人の侵略だと思い込んでいる。
兵器を持って挑んでも、ことごとく返り討ちに合う。世界は絶望に満ちていた。
しかし、羽竜、ジョルジュ、あかねの三人には、宇宙人なんかではなく蕾斗とダイダロスの仕業だとわかっている。
「あれは…………」
羽竜が円盤を見上げる。下から見る限りは、未確認飛行物体というものにしか見えない。
「UFO?」
「まさかだろ。」
あかねはお決まりのセリフを言わないと気が済まないらしい。羽竜にあっさり否定されてしまったが。
「おい、誰か来るぞ。」
ジョルジュが見てる空から、降りて来る影が見える。
細長い羽が四枚。見覚えのある形だ。
「新井さん!」
「ほんと、緊張感のない人達ね。うらやましいわ。」
あかねの顔を見たら、なんだか皮肉ってやりたくなった。
結衣からすれば、いくらヴァルゼ・アークの頼みとはいえ、納得がいかない。羽竜にどうしてこだわるのかがわからない。
「事態は深刻みたいだな。」
「ええ。目黒君のお友達のせいでね。」
「………で、何しに来たんだ?」
「上空に見えるあれ、ダイダロスと藤木蕾斗の城なのよ。そこに入るのに………あーもうっ!面倒だから行きながら説明するわ!」
「行くって、どこにだよ?」
「今、私なんて言ったのよ!着いて来なさい!」
羽竜達の先頭を行こうと、飛ぶ用意をする。
「待てよ!」
「何!?」
慌てて羽竜が止める。結衣は、いちいちいらついて仕方がない。
「蕾斗もいないし、ジョルジュも肉体が戻ってから、飛べないんだよ。」
「……………………ったく!」
結衣が魔力で三人を浮かせる。
「飛ばすから、ちゃんと着いて来てよ!」
返事をする間もなく、一気に加速してヴァルゼ・アークの元へ飛んで行った。
「頼むわよ。」
由利が言うと、全員が鎧を纏い、ロストソウルを具現化する。
十二のオーブのうち、無作為に九つのオーブにそれぞれ手を触れる。
光が彼女達を包み、どこかへ誘う。
「行ってきます。」
消える寸前、愛子がヴァルゼ・アークと由利に笑顔を見せた。
「みんな、無事で戻って来て………」
由利が切に祈る。
「…………そろそろ話したらどうだ?」
「え?」
神殿と城へと続く道は、大きな壁に遮られている。そこに結界が張られているのがわかる。
オーブは六芒星を描いた接点の上に点在している。
これだけの為に造られたのは明白だ。
今、ここにはヴァルゼ・アークと由利の二人だけ。
由利は優しい女だが、それを表現する事はなかった。司令官としての威厳もあるだろうが、自分にも他人にも厳しい女を貫いてきた。
ところが、最近様子がおかしい。意を決して直接問う。
「………変わったよ、お前。なんて言うか、笑顔が多くなったし、人を気遣う言葉を口にしたり、甘えたり。」
「…………………………。」
「そういうお前は嫌いじゃない。いつもみんなの手本でいようと頑張り過ぎるお前よりも、少し安心したりもする。でも、理由があるだろ、そうする理由が。」
由利にはヴァルゼ・アークの言葉が幸せの鐘にも聞こえる。
自分をちゃんと見ててくれてる、なによりの証だ。
「…………ありがとうございます。でも、言えません。」
「何故だ?」
「言ってしまえば、私はレリウーリア(ここ)にいれなくなります。」
「…………………言いたくないのならそれもいい。だがな由利、レリウーリアにいれなくなるなんて、今後口にする事は許さん。お前がいなければ、あいつらはまとまらん。フッ……みんなお前が好きなんだ。何があっても受け入れてくれるさ。」
「ヴァルゼ・アーク様………」
込み上げる涙をぐっと堪える。
それを見透かされたのか、優しく頭を撫でられ、額に軽くキスされる。
「ま、気が向いたら話すんだな。」
扱いが子供みたいで、いささか不満はあるが、気持ちは一気に落ち着く。
「年齢相応に扱っていただかないと、すねちゃいますよ?」
お返しに、腕を後ろに回し、前屈みになり、悪戯な笑顔で、ヴァルゼ・アークの顔を下から覗いてやる。
ヴァルゼ・アークは照れ笑いを見せた。
悪くない雰囲気だったが、結衣と羽竜達の気配がして、二人は神殿の入口に目を向ける。
「来たな。」
ニヤリとヴァルゼ・アークが笑う。
「総帥、司令、目黒君達を連れて来ました!」
「ご苦労様。」
いつもの由利に戻る。
冷ややかな目で羽竜達を見つめる。
「ジャッジメンテス………ヴァルゼ・アーク………」
羽竜は少し息が乱れてたが、二人の姿を見ると睨み返す。
「今回は由利が世話になったみたいだな。」
いつも通り本題から入って来ないヴァルゼ・アークにムッとする。結衣を出向かせてまで呼ばれたのだ、状況が芳しくない事くらいは飲み込める。
主導権がどちらにあるか、はっきりさせられている気がしてならないからだ。
「フン、そんな事はどうでもいい。話は新井から聞いた。結界を破る試練だって?」
「だそうだ。」
「なんで俺達が行かなきゃなんねーんだよ。」
「お前の友達だろう?蕾斗は。結界を解くのには、後三人。一つは結衣に行ってもらう。残り二つはお前達で手分けして行くんだな。」
「あんたはどうすんだよ。」
「俺と由利は待ってるよ、ここで。」
「高見の見物かよ。」
「お前が行かないのなら、蕾斗は遠慮なく殺させてもらう。感じるだろう?もはや蕾斗は、ダイダロスの言う通り、アダムそのものになろうとしている。時間がない。行くのか行かないのかはっきりしろ。」
強く言うところを見ると、羽竜が思ってるより、状況はずっと最悪…………猶予がないのかもしれない。
「…………わかった、行く。」
「それでいい。」
羽竜の答えに満足する。
「なら、残る一つは私が行こう。」
ジョルジュが羽竜に言った。
「ジョルジュ…………」
「そうするしかあるまい。あかねを頼む。」
黙ってジョルジュの意思に答える。
「約束は守ってもらうぞ、ヴァルゼ・アーク。」
「ちゃんと戻って来たらな。」
ジョルジュ、結衣は早速オーブに触れる。
羽竜とあかねは同じオーブに触れる。
手の平がじんと温かくなり、光がオーブから触れてる手を通じて、全身に行き渡る。
そして、光の中へと消えて行く。
「相変わらず単純な坊やですね。」
「だからこそ扱いやすい。後は、終焉の源として蕾斗を倒してくれればいい。」
「藤木蕾斗を?でも、彼は藤木蕾斗を倒すつもりは………」
「無理だよ。」
由利から離れ、六芒星の中まで歩く。
「羽竜は蕾斗を倒す羽目になる。これは決まっている事だ。」
「どういう事でしょう?」
「そのうちわかる事さ。今は知らなくていい。」
「総帥がそうおっしゃるのなら。」
絶望の淵に堕ちた者は、二度と闇の中から帰って来れない。
そう言いたいのだろうか?
蕾斗だけでなく、自分達も絶望の淵に堕ちた者。闇の中で生きるしかない。
ヴァルゼ・アークの背中を見つめるたびに、心が契れそうになる。
何度思ってみても、こんな形の出会いしかなかったのかと苦しくなるばかり。
自分達の勝利は、この世が終わる事で叶えられる。




