昼休みの出来事
「えぇっと、これがこうであるからしてーー」
先生のつまらない授業が今日はいつにも増して長く感じた。
「ちっ」
「ーーつまりこうなるわけです。皆さん分かりましたか?」
シーンとしているクラスメイト全員無反応だ。ノートを取っている生徒は数える程しかいない。
そろそろか……
キーン、コーン、カーン、ーーーーーー
「では、授業を終わります」
午前の授業が全て終わると俺は一目散に唯のいる教室へ走り出した。
「あっ!空くん!待っ……」
いのりが何か言ったように思えたが、聞こえないふりをした。
「くそぉ、朝は遅刻しそうで唯に謝りそこねっちまったから急がねえと……」
せっかく元どうりになった唯との関係がまた壊れるのはごめんだ。
数秒で唯のクラスの前まで来た。
俺はクラスの外に居た女子生徒に尋ねた。
「あの、唯……結崎は居ますか?」
「あ、結崎さんなら授業が終わってすぐにどこかへ行っちゃいましたよ」
「どこに行ったとかって分かんないですかね?」
「んー?すいません、分からないです。でも、行くとしたら食堂じゃないでしょうか?」
「そうか、時間を取ってすまないな、教えてくれてありがとう」
「あ、いえ、大丈夫ですよ。あ、あと一ついいですか?」
「あ、あぁ、もちろんいいよ」
「もしかしてなんですけど……違ってたらすいません!唯ちゃんのお兄さんですか?」
「え、ああ、そうだけど?!」
「やっぱり!それとなく雰囲気が似てたんですよ!お兄さんも唯ちゃんに似て美形ですしね」
「そうでもないよ、ところで君は……?」
「あ、すいませんっ!!申し遅れました。私唯ちゃんの友達の 藤堂湊って言います。お兄さんのことは唯ちゃんがいつも話してくれるのですぐに分かりました。」
「湊ちゃんか、 俺の名前は 結崎 空 よろしくね。それと……いつも妹と居てくれてありがとう」
「いえいえ、私がそうしたくてしてるんですから」
「でも助かってる、ああ見えて唯、抜けてるとこがあるからなぁ」
「あはっ、確かにそうかもしれません。でも、そこも唯ちゃんの可愛いところですよね!」
「そうだな!」
「はい♡」
すっかり忘れてしまっていたが、元々は唯を探しに来ていたのだ。
「やば、唯を探してたんだった……悪い、また今度話聞かせてくれ」
「分かりました。頑張ってくださいね」
「おう!」
俺は慌ててこの場をあとにした。
急がないと昼休憩が終わってしまう。
素早く階段を駆け下り食堂へ向かう。
ガチャと扉を開けるとガヤガヤガヤガヤと大勢の人の声が聞こえる。
「なんて人の数だ、まるで人がゴ……」
ゴホン、ここの学校の食堂はこの辺の学校の中では1番立派だ。なんでも、ここの学校のスローガンが〈よく食べ、よく学び、よく寝る〉とういうものらしい。そのせいもあってか、この学校の食堂は生徒全員が入ることができる広さを持っており、食事のメニューもやたらと多い。
「こんなに人が居たんじゃ見つけるのも一苦労だな」
と思ったのものの案外すぐに唯を見つけることができた。
「唯っ!」
「ーーお、お兄ちゃん?」
「探したぞ」
「探したって、なんで?」
「なんでって、朝のことで……」
「あっ!」
唯もようやくそこで思い出したようだ。
唯が戸惑った顔をしている。
「その……ごめん!つい、いのーー」
「ここじゃ周りにも迷惑だから、外で話そ」
「そ、そうだな」
2人とも沈黙のまま、校舎の外に出た。
「改めて、ごめん!朝、唯のことを放ったらかしにしたこと本当に悪いと思ってる」
「本当に思ってる?」
「本当だ」
俺は誠意を込めて腰を90度に折り頭を下げた。
「お兄ちゃん、頭上げてよ。私そんなに怒ってるわけじゃないし」
「そうなのか?」
「まあ、確かに、あの時はすごぉ〜くイラッとしたけどね」
「申し訳ないです」
「まあ、いのりさん美人だし、スタイルいいし、私より魅力的だから一緒にいたら私の事なんか眼中には入らないだろうねっ!」
皮肉るように唯が言ってくる。
「そ、そんなこと……唯も……唯の方が、か、可愛いって」
「えへっ♪ありがと♡その言葉が聞けたから、半分許してあげる」
おだてただけで許してくれるなんて自分の妹ながら扱い易過ぎて不安になる。って、ん?
「え?!半分?」
「そう半分、もう半分許して欲しかったら、私のお願い聞いて?」
「わ、わかった、お願いってなんだ?」
「次の休みーーーー私とデートして♡」
なんだって?!衝撃的過ぎてすぐに言葉が出ない。
出来ればNOと言いたいが、俺には断るという選択肢は残されてないため否応なく了承するしかない。
「うーん、わかった、じゃあ次の土曜で良いか?」
「うん!約束だよ!」
とその時 グルルルゥとお腹がなった。
そういえば、唯を探してご飯食べ損なっていた。
「お兄ちゃん、ご飯食べてないの?」
「実はそうなんだ」
「仕方ないなぁ、さっき食堂で買って余ってる【デラックス・ローストビーフカツサンドスペシャル】あげようか?」
「あ、ありがとぉお」
俺は涙目になりながら手を差し出した。
だが、その手に食料が渡されることはなかった。
「タダではあげないよ、お兄ちゃん口開けてあーんして?」
「いや、でも……誰かに見られたらどうすんだよ」
「ふーん、別に要らないならあげないよ♪私食べちゃうから」
「ああっ!待って」
「あーんする?」
「…………します」
「ならよろしい」
「はい、あーん♡ んっ」
「う、うまい、けどなんか悲しい」
「ほらほら、もう良いの?まだ食べるならあーんして」
「これ食べきるのにずっと『あーん』しないといけないのかよ」
「あたりまえでしょ?」
辛すぎる。
「はい、『あーん♡』」
「悔しいがやっぱ美味い」
「ほらほら次ぃ」
「えー」
昼休みが終わるまでこのやりとりが終わることはなかった。