友達それとも恋敵??
「ん? ん〜ん」
時計を見ると現在の時刻は6:50分だ。
唯は起きているのか?と思い横を見やるとそこに唯の姿は無かった。
「あれ? もう起きたのかな?」
とりあえず、部屋を出ることにした。
廊下に出てみると、とても良い匂いがした。
匂いの元を特定するため、匂いにのする方向に向かって歩いて行くと、そこには。
「唯!」
「あ、お兄ちゃん起きたんだ、おはよぉ〜」
「おはよう」
「もうちょっとでご飯できるから、待ってね♡」
「あ、うん」
5分ほど待っていると完成したようだ。
「はーい、できたよ♪私の自信作」
「おお! 美味そう!」
「お兄ちゃん好みの味付けにしたからきっとお口に合うと思うよ」
「それじゃあ……」
「いただきます!」
「いただきます♪」
俺と唯は合掌し、食べ始めた。
「ん!! やっぱ美味いな!」
「そ、そぉ? 照れるぅ」
「美味い美味い」
「でも、美味しいからって、味わって食べてたら学校に遅れちゃうよ?」
それを聞いて俺は慌ててご飯をかきこんだ。
が、そのせいで、軽くむせてしまい、唯に呆れ顔をされてしまったことは苦い思い出となった。
食事を終えると、俺と唯はさっと身支度を終え、玄関へ向かった。
玄関で靴を履いていると、急に唯が話しかけてきた。
「ね、ねぇ、お兄ちゃん?今日さ、一緒に学校に行ってもいい?」
「別に構わないよ」
「え? いいの?」
「いいよ」
「え、本当にいいの?」
「本当にいいって!」
「本当の本当にいいの?」
今までの俺は毎日あんまり近づくなオーラを出して1人で登校していたということもあり、唯は俺の返事が信じられないようだった。
「本当の本当にいいよ!!」
そう伝えると唯は俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
流石にこれは……と思ったが、今更「やっぱ止め」とは言えないので仕方なく、そのままの状態で登校することにした。
俺と唯は玄関を出て、学校に向かった。
暫く歩き大通りに出ると、人が多くなってきた。サラリーマンも居れば、学生、中学生なんかも居る。
ここまでは普段と変わらない街の様子だったのだが……
「今日は、なんだか視線をすごく感じるんだが……」
「え?そうかな?」
まあ、こんな風に腕を組んで登校してたら誰だって見るよな。そう結論付けたが、どうにもそれ以外の理由がある気がする。
「やっぱ、視線多くない?」
もう一度唯に尋ねたが、帰ってきた答えは、「そんなことないと思う」というものだった。どういうわけか、唯はあまり気にならないようだ。
俺は視線の元を探すため素早く首を回し周囲の人を一瞥した。
今のでだいぶわかった、どうやら同じ学校の生徒が犯人らしい。
だが、それ以上にもっと恐ろしいことに気づいてしまった。
なんと、視線の元は1人ではなかった。さっきのチラ見で確認できた限りでも、5人、いや…8人はいた。
「怖すぎだろ……なぁ唯心当たりとかってないか?」
聞いても無意味なことはわかっていたが、物は試しだと思い聞いてみた。
「特にないかなぁ……」
「まあ、そうだよなぁ……」
「でも、さっきも言ったけど、気にならないよ、だっていつもと同じだもん」
ここで俺は全てを理解した。
「ナンテコッタ、盲点だった」
俺と唯が腕を組んで登校してたというのも視線を集めていた原因の一つだろうが、それ以上に原因なのは唯自身だ!
唯は「いつものことだ」と言っていたが、それこそが異常なのだ。唯と登校していなかった俺だから気づけたが、この状況に慣れてしまっている唯は おかしい と気づくことができない。
要するに視線を送っていた者達は唯のストーカーのようなものだろう。
唯と一緒に暮らしているため、唯の可愛さに慣れてしまったが、他人から見ればかなりの美人に違いない。
なんてことだ……以前俺が危惧していたことが今現実に起こってしまっている。
俺は改めて兄としての不甲斐なさを感じた。
「お兄ちゃん、大丈夫?なんか怖い顔してるけど……」
「あ、いや、なんでもないんだ」
「何か困ったことあったら私に相談してね、私だってお兄ちゃんに頼ってもらいたいんだから」
そう言われても、本当のことを言って唯を不安にさせるようなことはしたくない。
ふと、一つの考えが浮かんだ。
「なぁ、今日から暫くは一緒に登下校しないか?」
俺の考えた作戦はこうだ。
唯に男がいると思わせてストーカー予備軍共が唯を諦めざるおえない状況をつくる。
「うそっ?!」
「嫌か?? 嫌なら——」
「ううん、嫌じゃないの、まさか……お兄ちゃんから誘ってくれるなんて思ってなかったからびっくりしただけだよ」
「そうか、なら、決まりだな」
「うん♡」
とりあえず、これで準備はOKだ。
あとは、いのりだな。普段一緒に帰っているせいで、急に断ったりしたら不審がられるしな……かといって、3人で帰るのも唯が許してくれそうにない。
そんなことを考えていると、後ろから猛スピードで走ってくる音がした。
「空くーん!!」
なんてタイミング……。
走りながら、俺の名前を大声で叫んでいる人物の正体は、いのりだ。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
相当長い距離を走ってきたのだろう。かなり息を切らしている。
「お、おい、大丈夫か?」
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
大丈夫じゃなさそうだ。
俺はさっと自分の水筒を手渡した。
「これでも飲めよ、相当疲れてるだろ」
「はぁはぁ、あ、ありがとう、はぁはぁ」
「むっ! お兄ちゃん!!」
何故だか唯が顔を膨らませてムッとしている。
「ふぅー、助かったよ。ありがと空くん」
「おう、どういたしまして」
「ちょうどいいところに居て本当に助かったたよ……」
「それで、なんであんなに急いでたんだ?」
「それはね、話せば長くなるんだけど……」
「あ、結論だけ頼む」
「寝坊しましたっ♡」
「おいおい、寝不足はお肌に良くないぞ、せっかくの美人が台無しになっちゃうぜ?」
「冗談言わないでよ♡」
「冗談じゃないけどな」
俺といのりが2人で楽しく会話をしていると、横にいた唯がさらにムッっとした表情になったように見えた。
「ねぇ、お兄ちゃん、お兄ちゃんってば……」
いのりには聞こえないような声で唯が言った。だが、俺はいのりとの会話に夢中で、唯の呼びかけに気づかなかった。
「もう、お兄ちゃんの『ばーか』」
唯がボソッと呟いた。
「——でね、——なんだ〜」
「本当、いのりはいつまでたっても——」
「——じゃん、空くんだって——」
唯の唯の呟きは俺には届かず俺の注意はいのりに向いたままだった。
すると唯の表情がますます暗くなる。
「もう知らないっ!!」
そう言い残し急に唯が走り出した。
「はっ! しまった」
咄嗟に追いかけるが、いのりとの会話に集中していたせいで、出遅れもう追いつけそうにない」
「お兄ちゃんのばかぁあぁぁぁぁああああ!!!!」
と叫びながら唯は学校の中へ消えていった。
「ありゃりゃぁ、やっちゃったね、空くん」
「半分はいのりも悪いんだからな」
「あ、そーゆうの良くないよ、女の子に責任押し付けるなんて」
いのりの小言はスルーして今後のことを考える。
「くそぉ、どうすっかなぁ」
「もういいんじゃない?怒っちゃったみたいだし、暫く放っておいたら?」
「そんなことできるわけないだろ?!」
「あれぇ?空くんって今までそういう人だったっけ?妹ちゃんのこと避けてたんじゃないの?」
「今はそのことを説明してる余裕はない」
「まあいいんだけどさ、『時間』大丈夫?私たちも急がないと遅刻しちゃうよ?」
「はっ! やべぇ、走るぞいのり!」
「うんっ!」
キーン、コーン、カーン、コーン、キーン、コーン、カーン、コーン——
俺たちはなんとか学校には間に合ったが唯の教室には寄る時間がなかった。