平穏なひと時?
いい湯加減だったなぁ……なんて、呑気なこと考えてる場合じゃないよ……な。
妹と一緒に寝るなんて何年ぶりだろうか。
なんか、緊張するな。
ま、まあ、いやらしいこと考えてるわけじゃないし、素直に、普通に、賢者のように、寝ればいいんだよな!うん!そうだ。そうなんだ!!何も悪いことなんかないじゃないか!!
1人であれこれ考えて、部屋に行く前から疲れてしまった。
「チョット牛乳でも飲んで一旦落ち着こう」
俺はそそくさと冷蔵庫に向かい、牛乳パックを取り出した。
ゴクゴクッと勢いよく牛乳を飲む。
「ぷはぁぁああああああ、やっぱお風呂上がりの、ビー……じゃなくて、牛乳は最高だな!」
少し落ち着きを取り戻してきた。
大きく深呼吸をし、部屋に向かった。
俺は一度自室の前で立ち止まった。
そしてもう一度深呼吸をして、扉を開け放った。
「きゃっ!」
「あ、ごめん、驚かすつもりは無かったんだ」
思い切り扉を開けたせいで、唯を驚かせてしまった。
気合いを入れる行動が裏目に出てしまった。
「あ、それはいいんだけど。そんなことより、これは何?」
唯は何やら、俺が毎晩愛用していた〈エロ本〉を片手にこちらを見ている。
「そ……それはーーーー保健の教科書だよ!!」
俺は咄嗟に、通るはずもない言い訳を言った。
「ふぅーん、これが、ね。保健の教科書ねぇ〜。なるほどねぇ〜。」
唯が表紙と裏表紙を交互に見ながらそう言った。
一瞬ちらりとエロ本のタイトルが見た。
俺はそこでようやく、エロ本が見つかった事よりも更に重大なことに気づいた。
確かあの本のタイトルって……
【さあ、妹に目覚めよう、禁断だから“もえる”モノたち】
死んだな……と俺は刹那的に感じた。
「お兄ちゃん、私のこと実はずっと、こういう風に見てたの?」
「これはその、友達が勝手に置いてったもので、そういうわけじゃ……」
「えーじゃあ、やっぱり私のこと嫌いなの?今日寝るのも嫌々なんだ……」
「ちがっ、唯のことは妹として好きだ!でもそのエロ……その本は、俺のじゃない」
沈黙が暫く続いた。
先に口開いたのは唯だ。
「ふーん、まあ、今日のところはお兄ちゃんに免じて許して、あ・げ・る♡」
「感謝するよ」
「でも、次は、この本じゃなくて、私を“よんで”欲しいな♡」
「上手いこと言っても、響かないからなっ」
俺は唯に軽くデコピンした。
「うぅ〜♡」
ひと段落ついて安心したせいか、一段と眠気が増してきた。
「ほはぁぁあぁあ眠い」
「そうだねっ、そろそろ寝よっか♡」
カチャカチャと電気の明かりを消し、代わりに薄暗いオレンジ色のランプをつけた。
2人ともベットに入った。
もちろん、一つのベットに2人だ。
正直なところ少し窮屈だが、唯にとっては逆にこれが良いようだ。
「ふぅ」
「お兄ちゃんとまた一緒に寝れる日が来るなんて…………幸せ……」
そっと呟くように唯が言った。
「そうだな、俺もまたこんな日が来るなんて思ってなかったよ」
「お兄ちゃんは、今幸せ?」
優しく唯が問いかけてくる。
「ああ、もちろんだ!」
「私も♡」
ギュッ、唯が抱きしめてきた。いつもなら引き剥がすとことだが、もう別に拒絶する必要もなくなったので、このままで良いかな そう思った。
そっと頭を撫で、唯を抱きしめた。
暗くてよく見えなかったが、ときどき手に当たる冷たい感覚から、どうやら泣いているようだった。
唯はそのことを俺に気づかれないように、隠しているようだったので、もう一度頭を撫でやるだけで尋ねるようなことはしなかった。
暫くするとスースースーと唯の寝息が聞こえる。唯も疲れていたのだろう、ぐっすりと眠っている。
「俺もそろそろ寝るか」
ランプの明かりを消し、そっと目を閉じた。