【番外編】Gameをしましょう その1
「唐突なんですけど、戦争をしましょう!」
俺たちはまるで過冷却の水のように、月寺の発した言葉によって一瞬にして固まった。
俺たちが言葉を失い呆然としていると月寺はわざとらしく言い直した。
「間違えました、ゲームをしましょう!」
本当にいきなり何を言い出すかと思った。月寺でも言い間違え? はあるようだ。まあこれが言い間違えとして容認される範囲なのかは別としてだが。
「ゲームと言っても何をするんだ? 俺たち4人でできるゲームって限られてくるだろ?」
月寺はニコッと笑みを浮かべ指先をピンと俺に向けた。
「はいっ! もちろん分かってますよっ! 今日皆さんとするゲームはこれですっ!」
じゃじゃーんと安っぽい効果音とともに取り出したのは超有名な某すごろくゲームだった。このゲームは俺も何度かプレーしたことがあり得意な部類であるが、月寺も自分から提案してくるくらいだ、相当の実力だろう。
「ははーん、金太郎電鉄ね、それなら私も子供の頃に空くんとやったことがあるよ」
「わ、わ、わーたしだってやったことありますからね、お兄ちゃんより上手いですよ! ……たぶん……めいびぃー」
とまあ、なんだかんだで皆初見では無い。そうなれば、この戦いはなかなか厳しい戦いになりそうだ。もしかしたら本当に戦争になるかもしれない。
「なあ、ただやるだけじゃイマイチモチベーションが上がらないから何か賭けないか?」
「そうだね……じゃあ、最下位の人が一位の人の言うことをなんでも聞くって言うのはどう?」
「いいですね、それでいきましょう」
主催者の了解も出たところで皆それぞれコントローラを手に取った。
「じゃあおれ、赤の列車で」
「あーお兄ちゃんそれ私が使いたかったのにぃ」
「じゃあ、私は黄色ね」
「では、私は青にしますね」
「ちょ、ちょっとぉー皆さん酷いですよぉ」
結局唯は余り物の緑を取ることになった。
「順番はシャッフルするよ」
公正なクジの結果、俺 、唯 、 月寺、 いのり となった。
始めの目的地は大阪になった。
“4月”
俺はサイコロを振り5マス進んだ。青マスに止まり300万ゲット。
唯は3を出し黄マスに止まった。急行カードを手に入れた。
月寺は6を出し俺の一つ先の黄マスに止まった。徳政令カードを手に入れた。
いのりは1を出し選択の余地なく青マスに止まった。500万ゲット。
皆順当といえば順当な駆け出しだ。
月日が流れ。
“9月”
唯が目的地に一番乗りした。俺もあと一歩のところだったが途中寄り道して物件を漁っていたのが裏目に出た。月寺は青マスに止まることに固執し目的地からは少し離れたところにいた。いのりはどういう作戦なのか黄マスにばかり止まりカードを集めまくっていた。
「へっへーん、お先ですぅー」
唯は得意げに鼻を伸ばしながら言った。そして目的地に着いたことにより得た金で大阪駅の物件を可能な限り買い占めた。
「勝った気にならないでよ唯ちゃん、勝負はまだこれからだから」
いのりも依然強気だ。
しかし、不幸にも貧乏神が取り憑いたのはいのりである。
「はははっ、いのり貧乏神付いてんじゃん、どんまい」
「そうやって余裕そうにしてたら空くんになすりつけるからね」
確かにやたらとカードを集めていたいのりなら容易な事かもしれない。ああ恐ろしい。
俺もなるべく早く特急カードなり急行周遊カードを手に入れないとまずそうだ。
そしてまた月日が流れた。
“2年目の6月”
俺の所持金2億2200万、所持カード4枚
唯の所持金1億500万、所持カード2枚
月寺の所持金4億100万、所持カード0枚
いのりの所持金5000万、所持カード10枚
ちなみに現在貧乏神が取り憑いているのは唯である。効率よくゴールを目指す唯は、いのりの格好の標的となり 貧乏神直撃カード を使われてしまった。おかげで俺は難を逃れ、運良く手に入れた ぶっ飛びカード で貧乏神と間合いを取ることに成功した。
「今の所は五分五分って感じだな」
「ふふふっ、それはどうかしら……」
いのりの意味深な発言で一同息を飲んだ。
あまり詳しくは覚えていないが、いのりの持っているカードでこの戦況が変わるようなものがあっただろうか……。
「あっ、私の番、うーん、貧乏神が邪魔だけど……とりあえず普通にサイコロでいいかな、おりゃっ」
気を込めてボタンを押した唯だったが出た目は1。目に見えてショックそうな顔をしている。しかし、不幸中の幸いで青マスに止まることができた。6月ということもあり少なくない額の金を手に入れた。
「良かったじゃないか、まあ気を落とすなよ」
「うぅ、うん」
しかしこのゲーム貧乏神というシステムが非常に厄介でどんな時でも卑劣極まる行いをしてくる。
「売るりん、売るりん、お金は大切なのねぇ〜ん。大阪のたこ焼き屋が500万で売れたりん」
このように、せっかく買った物件も平気で売られてしまう。一見お金が増えてた嬉しいように思うが、買った額の半額でしか売ることができない上に、収益も減るためメリットはない。
「あはははっ、またまた唯ちゃん売られちゃったね、もう持ち物件無いんじゃないかな?」
「あ、ありますよ、たぶん……3、4軒くらい」
「あらあら、でもまだまだ気にする段階じゃないですよ唯ちゃん、次は私の番ですね」
月寺は所持カード0なため否応無しにサイコロを振るしかない。軽くボタンを押しサイコロを止める。出た目は6だ。
月寺はとりあえず目的地までの最短ルートを進むようだ。いのりの行動は先が読めないが、月寺は目的が単純明快である。
列車を5マス目まで進めた時、突然月寺の指が止まった。何事かと思い画面を見るとあまりにも分かりやすい理由だったにでつい「ああ」と声を上げてしまった。
「どうしましょう、赤マスのせいで進めませんね、仕方ないので遠周りですが別のルートにしましょう」
何のために金を貯めているのか、もしくは、ただの一銭も無駄にしたくないのか。深い目的までは予想できないが、俺なら迷わず赤マスに突っ込むだろう。
日常生活では彼女たちに攻められてばかりだがゲームでは俺の方が攻めの姿勢である。ああ、やっぱり今のは無しだ。冷静に考えてみると、ゲームでしか頑張れない雑魚じゃないか。学校で無口だがネットでは横柄になるネット弁慶のように見苦しい限りだ。
「よし、やっと私のターンだ! これで決めるよっ! 目的地カーーーード!!」
なん……だと。目的地カードと言うと1/2で目的地に一発でゴールできる。まさにチートそのものみたいなカードだ。
「そう言うことだったのか」
「うん、ごめんね、空くんっ」
「いや別に謝らなくてもいいよ、まだゴールできると決まったわけじゃないし」
「いいや、私は絶対に1/2で当たりを引くっ! そして、次に貧乏神が付くのは空くん」
ハッとしたその瞬間、いのりはボタンを押した。
ぶっ飛びカードで一旦は貧乏神から離れることができた俺だが、同時に次の目的地からも離れてしまっていたのだ。
俺はゴクッと唾を飲み込み、結果を待った。
なんとなく番外編です。




