修羅場……辛いです
「ん〜」
机を挟んで向かい側に座っている月寺が唸り声をあげながら問題とにらめっこしている。
「大丈夫か? 順調……じゃなさそうだね」
「うん……言い訳になるんですけど学校行ってなかったって言ったじゃないですか、だからちんぷんかんぷんなんです」
「そうか……なあいのり、俺は大丈夫だから月寺に……教えてやってくれないか?」
どうやら俺以上に月寺は補習の危機に面しているようだ。友達として見捨てるわけにはいかない。できることなら教えてあげたいところだが、生憎この頭ではそれは叶わない。ということで、俺は藁にもすがる思いでいのりに頼んだ。
「それはもちろんバッチコーイって感じだけど、空くんは良いの?」
「これまでいのりに教えてもらったこと使って自分で考えてやってみるから大丈夫だよ」
「うん、じゃあ分かった、何かあったら言ってね」
いのりは俺の横から月寺の横へと移った。すると少し物寂しいくなった俺の隣にすかさず唯がすり寄って来た。
「ん? どうかしたのか?」
「お兄ちゃん……ここ分からないから……教えて欲しいな」
「ああ、そういうことか」
ゆいの課題を覗き込もうとした瞬間、殺気を感じたのでチラリといのりを見上げてみると予想通りこちらをじっと睨んでいた。
「唯ちゃんなら1人で出来るでしょ? 本当に分からないとこあるんだったら空くんじゃ無くて私に訊いたら?」
さっきまでの雰囲気とは違ってピリピリした空気が漂っている。
「ははーん、いのりさん、もしかして……嫉妬してるんですか? お兄ちゃんには突き放されて踏んだり蹴ったりですもんねー」
「ち、違うもん! 別にそういうわけじゃないし、私は私に任されたことをやるだけだもん! ただ……」
「ただ、なんですか?」
「空くんに訊くんだったら私に訊いてよ! だって空くんバカじゃん!」
いつも通りの2人の喧嘩かと思って黙って聞いていたが唐突に俺が貶される展開になっている。
「バカって言っても流石に1年生の範囲くらいなら俺でも分かるよ!」
何もなければ黙っているつもりだったが自分が貶されていたので反射的に否定した。
「ほらほら〜お兄ちゃんだってこう言ってますよ、ってことで私はお兄ちゃんに教えてもらいますね! いのりさんは胡桃さんを教えるので大変ですしね」
「うぅー」
いのりはぐうの音も出ないようだ。
「へへーん! 私の勝ちですね、ということで教えてっお兄ちゃん!」
最近仲良くなったのかと思っていたが、やっぱり勝負は勝負のようだ。お互い一歩も譲る気はないらしい。
俺が唯に分からないところを尋ねようとしや時、沈黙を貫いていた月寺が口を開いた。
「ふふっ、お2人とも本当に仲良しなんですね! 羨ましいです」
いのりと唯は呆気にとられたように固まっている。
「な、仲良くないですっ! いのりさんはお兄ちゃんの幼馴染だから仕方なく、仕方なくなんです!」
唯は頰を赤らめながら必死に否定した。
「わ、私も唯ちゃんなんか好きじゃないもんっ! 空くんの妹だから仕方なくなんだよ!」
いのりは目を泳がせながら否定した。
「なんか良いですねこういうの」
いのりと唯は口には出さなかったが目で「どういうことだよ!」と訴えていた。
2人の代わりに俺が尋ねてみることにした。
「どういうことだ?」
「だって喧嘩するほど仲がいいって言うじゃないですか〜」
これまたベタな言葉を出してきたなとこの場にいた全員が思ったに違いない。
「まあ、そうは言うけど……」
「それに結崎さんも羨ましい限りですよ! こんな美人な2人に取り合われるなんて……まあ唯ちゃんは美人というか可愛いに近いですけどね」
「はははは……」
流石にこの状況では乾いた笑いをするのが精一杯だった。
「じゃあ、私も空気を読んで結崎さん……いえ、空さんを狙っちゃいましょうかね」
月寺の軽はずみな発言でこの場は一気に凍りついた。冗談にしても言っていいことと悪いことがあるのだ。まさにこの状況にさっきの発言をするのは悪い例そのものだ。
「冗談だろ?」
「うーん、どうでしょうね、空さん次第……ってとこですかね」
月寺はこれまた火に油を注ぐようなことを言ってしまった。このままではいのりと唯が怒り出すのも時間の問題だ。
「マジですか……」
誰も直視出来なくなり俺は苦し紛れに数学の課題と見つめあった。しかし顔を上げなくても彼女たちの殺気立った顔は手に取るように伝わってきた。
「ま、まあ、勉強の続き……しようぜ」
しかしいくら待てど彼女たちの返事は返って来なかった。
結果、夕食の時間になるまで誰も一言も発さず各々の課題をやり遂げた。そして無言のプレッシャーの恐ろしさを俺はこの時身に染みて体感したのだった。
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