ディナー
コンコン、妹がドアを叩く音が聞こえる。
「……い、お……て」
「……」
「お……おき……て」
「……」
「おーーい、起きてよ、お兄ちゃーーーーん!」
どうらや、ご飯の支度ができ、俺のことを起こしにきたようだ。
「ん?もうこんな時間か、思ったより寝ちゃったな」
予定では、30分ほど仮眠をするつもりだったのだが1時間も寝てしまっていた。
ガチャリとドアを開け、唯が部屋に入ってきた。
「お兄ちゃん、まだ寝てるのー??」
なにやら様子がおかしいので敢えて返事をしないでいると……
突然、唯がジャンプしたかと思うと、真っ直ぐ俺のベットにめがけて飛びかかってくる。
危険を感じた俺は、闘牛の突進を躱すかのように唯の攻撃を避けた。
すると当然のことながら唯はそのままの勢いでベットに頭から突っ込んだ。
「いたたぁー、お兄ちゃん、起きてたなら返事してよ」
頭をさすりながら、涙目でこっちを見ている。
「返事する前から攻撃する気だったじゃないか」
「私はただ、お兄ちゃんを起こそうとしただけで……」
「今度からはもっと普通に頼むよ、体揺すってくれたらそれだけで起きるから」
「はぁーい」
気の抜けた返事を返してくる。
「それより、ご飯出来たから早く食べよ」
それだけ言うと、唯はスタスタとリビングに戻って行った。俺も後を追い、リビングへ向かった。
「お、良い匂い!今日は肉じゃがか?」
「ピンポーン! せいかいだよっ!」
唯が嬉しそうにこちらを見ている。
「今日は、お兄ちゃんの大好きな肉じゃがを作ってみたの」
「やったー!」
「喜んでもらえて、私も嬉しいよっ」
冷めないうちに食べてみる。
「おお!う、うまいよ、これ!」
じゃがいもが柔らかく味がしっかり染み込んでおり、肉も口に入れたら溶けていくような感じだ。
「えっ!本当?!嬉しい!!」
人生で一番の幸せだ、と言わんばかりの笑顔をしている。こんな唯を見ていると自然とこっちの表情も緩んできてしまう。まったく、俺にはもったいなすぎる妹だ。
「本当だよ、店を開けるレベルだよ」
「そんなに褒めないでよ」
唯がいつになく照れている。可愛いやつだ。
「良いお嫁さんになれるな」
「……‼︎ お、お嫁さんだなんて……もう、お兄ちゃんたら……」
さらに唯が照れてしまった。
ちょっとした冗談のつもりだったのだが、どうやら変な勘違いをしているようだ。
「やれやれだぜ……」
俺は自分の失言を後悔した。しかし、唯のこんな顔が見られるなら、と考えると悪い気はしなかった。
頬に手を当て、未だに唯がニヤニヤしている。完全に自分の世界に入ってしまった。
しばらくして我に返った唯がこっちを見ている。
「ん?どうしたんだ?」
「あ、いやぁ、そのぉ……そろそろお風呂にする?」
「ああ、そうだな」
躊躇いながら言う唯を不思議に思いながらも、それ以上は深く考えずに返事をした。
「じゃあ、お兄ちゃん先に入って良いよ。私、後片ずけしとくから」
「すまないな、じゃあ、先に入らせてもらうよ」
「うん!」
お風呂場に向かおうとした時、一瞬、唯のグッと決意したような表情が見えた。
特に意味もわからなかったので気のせいだろうと思うことにし、足早にお風呂場に向かった。