勉強会開始っ!?
月寺邸に到着する頃には月寺もすっかり泣き止んでいた。今は彼女たち3人で楽しく談笑している。先ほどまでの状況とは打って変わって微笑ましい限りである。
「お嬢様方、到着致しました」
約40分ぶりにマイクを通して老夫の落ち着いた声が車内に響いた。その刹那、自動でドアが開いたと思うと外から大勢の人間の声が聞こえた。
「お帰りなさいませお嬢様!」
メイドは全部で十数人は居るように思われる。
俺たちは荷物を手に持ち次々とリムジンから降りた。全員が降りると再び自動でドアが閉まりリムジンは車庫へと向かって走り出した。
すると俺たちの元に1人のメイドが歩み寄ってきた。
「いつもお出迎えありがとうございます、優子」
月寺に優子と呼ばれるメイドはおそらくメイド長的存在なのだろうか。気丈で清潔で凛々しい様子の彼女は他のメイドとは違う異彩を放っている。
「いいえ、滅相もございません」
「ところで見ての通り今日はお友達が来ているの、私の部屋まで案内していただけます?」
「はい、承知しました。ではえーと……」
「あ、すいません、僕は 結崎 空 っていいます」
「私は 結崎 唯 です」
「私は 蓮水 いのりです」
「はい、では……空さん、唯さん、いのりさん、こちらへ」
メイド長さんは手で方向を示し屋敷に向かって歩き出した。
「優子、私はちょっと準備があるので一旦外しますね。結崎さんたちも部屋でくつろいでいてください」
そう言い残し早足で屋敷の中に入るとどこへともなく消えていった。
「では行きましょうか」
メイド長さんはそう言うと再び歩き出した。
「こちらです」
しばらく廊下を歩き1つの部屋の前まで到着するとメイド長さんは俺たちに言った。
「中に入ってご自由にお待ちください。もし何かご入用でしたらその時は何なりとお申し付けください、では失礼いたしまします」
懇切丁寧にしてくれたメイド長さんに感謝を述べ俺たちはゆっくりとドアを開けた。
俺たちの眼前に広がる光景はよくドラマやアニメで見る豪邸の部屋そのものだった。
「す、すげぇ、俺の部屋何個分だよ……」
「こんなに広い部屋1人で使えるなんて羨ましいねお兄ちゃん!」
「だよな、俺の部屋が惨めに思えてきたぜ」
「ねえねえ、それよりもあれ、あれ見てよ!」
いのりが妙にはしゃいでいる。一体何があると言うのだろう。
「何か見つけたのか?」
「あれだよ、あの奥にあるベッド、天蓋付きだよ‼︎ あれってお姫様とかがよく使ってるやつだよね!」
いのりが指差す方向には確かにこれまた立派な天蓋付きのベッドがあった。確かに凄いのだが男の俺にとってはあまり魅力的ではない。しかし女の子にとっては夢なのだろうか。
ともかくずっと入り口に立っているのも異様なので部屋に入るよういのりたちを促した。
部屋には高級そうなソファーもあるのだが座っていいものかと迷った挙句、庶民らしく絨毯の上に座ることにした。それも部屋の隅っこに。部屋にあるすべてのものがキチンと整頓され一定の調和が保たれているため下手に触ったら崩壊してしまいそうだ。だが、こうして部屋の隅っこで縮こまっていればきっと大丈夫だろう。
このまましばらく待っていると突然ドアが開き月寺が入って来た。
「みなさんお待たせしてすいません……え?」
月寺は難しげな表情を浮かべている。
「よ、よう月寺!」
「なんでそんな隅っこに座っているんです? ソファーでもどこでも自由に座って頂いて構いませんのに」
「あー、いやそれがさ最初はソファーに座ろうと思ったりもしたけど、庶民には床の方が落ち着くなぁ〜なんて……」
「そうですか……ですが、せっかくですのでソファーにお掛けください、紅茶も淹れて来ましたから一緒に飲みましょ」
「え?! キノちゃんが淹れたの?」
「え、あ、はい!」
月寺は一瞬戸惑いの様子を見せたがすぐに答えた。
「飲みたい飲みたい!」
そう言うといのりは一目散にソファーまで飛んで行き行儀よく座った。
「ふふっ、どうぞ、いのりちゃん」
月寺はお盆から紅茶の入ったティーカップを手に取りいのりの前のテーブルに置いた。
「熱いですからゆっくり飲んでくださいね」
いのりはふぅーふぅーと紅茶に息を吹きかけ冷ましながらゆっくり飲んだ。
「んっ! お、美味しい! 空くんも唯ちゃんもこっちきなよ、すごく美味しいよ」
「行こうぜ唯」
「うん、お兄ちゃん」
俺たちが席に着くと月寺はいのりの時同様にティーカップを置いた。
火傷しないように冷ましながらゆっくりと飲む。
「!……確かに美味しいな」
「凄いですね!」
「やったぁー嬉しいです! 皆さんありがとうございます!」
紅茶を飲み終えて一息ついたところで本題に入る。
「じゃあ、そろそろ勉強会始めるか?」
「あ、そうだったね」
やっぱりいのりは忘れていたようだ。
「もぉ、いのりさんしっかりしてくださいよぉ、お兄ちゃんの高校生活がかかってるんですからねっ!」
「ごめんごめんうっかりしてたよ……えへっ」
「不本意ですけど、いのりさんの力も当てにしてるんですからね! 私でも流石に2年生の範囲は分かんないですから」
「ごめんなさい、私も戦力外ですしむしろ教えていただく側ですよね」
月寺が申し訳なさそうに言った。
「気にしないでください、悪いのは全部ボケボケしてるいのりさんですから!」
「なにそれーひどいよ唯ちゃん! おこだよ、おこ!」
いのりがほっぺを膨らませプンプンしている。
まあ、とにかく頼りになるのはいのりだけなので怒って帰られたりしたら俺たちの詰みが確定する。それを防ぐためにもなんとか取り繕わなければならない。
「ちょ、ちょっと唯、そんなに言わなくていいだろ」
「なんなの? いのりさんの肩持つの?」
「別にそう言うわけじゃないけど……」
「え、違うんだ……」
いのりがガッカリした表情を浮かべた。
「あ、いや、そう言うわけでもなくて」
「やっぱりいのりさんの肩持つんじゃん!」
「あー、もう! 勉強会始めようぜ! 今から勉強と関係ないこと喋ったやつ粛清な」
一同静まり返り、皆それぞれの教科をテーブルに並べた。ここまでくるのに長かったがようやく本来の目的を開始することができ一安心だ。
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