妹登場!
——下校のチャイムが鳴った。
「あー終わったー、今日も1日疲れたなぁ」
「疲れたなぁって、空くん今日寝てただけじゃない」
いつものように、いのりが小言を言ってくる。
「いや、まあ、別に寝てても、テストで60、70点くらいは取れるし」
「そういうことじゃないでしょ? 」
「空くん、もう少ししっかりしてくれたら、もっと魅力的なのになぁ。でも、授業中寝なくなったら寝顔が見れないし……うーん複雑な心境だよぉ」
いのりが俺に聞こえないくらい小声で何か言った。
「ん?何か言ったか?」
「あ、い、いや、なんでも無いよ?」
「そうなのか? まあいいや、そろそろ帰ろうぜ」
「あ、うん、そうだね♪」
俺の家は、商店街を通った先にある住宅地にある。いのりの家は俺の家の向かい側だ。お互いの家の行き来に歩いて5秒もかからないだろう。
学校を出て、帰り道の途中にある商店街を歩いているといのりが興味を引くものを見つけたようでそちらを凝視している。
「ねえねえ、空くん、あそこの揚げ物屋さん寄っちゃダメ?」
「別に構わないぞ?」
するといのりは揚げ物屋の前に駆けていきショーケースの中をじっと見ている。
「空くん、このコロッケすごく美味しそうだよ」
「へー、これ、今日新発売なのか、うまそうだな」
「ねーねー、空くんこれ買って良いかな?」
「あ、ああ、それは良いけど」
上目遣いで聞いてくるいのりに思わず、ドキっとして言葉が詰まってしまった。この笑顔は反則すぎる。
「やったぁー」
「じゃあ、せっかくだし俺も買おうかな」
「あれれ〜? 空くん、私の財布知らない?」
「知らないよ」
「うーん、確かに朝、カバンに入れたと思ったんだけどなぁ」
「家の玄関にでも置き忘れたんじゃないのか?」
「そう言われてみると、そんな気がしなくもないかな? えへへ」
ここできたか、いのりの天然っぷりが。ほんとしょうがない奴だ。
「でもこれじゃあ、コロッケ買えないよぉ……」
いのりがこの世の終わりのような顔をしているので一肌脱ぐことにした。
「仕方ねえな、俺が買ってやるよ」
「えっ! ほんと? いいの?」
「嘘なんかつかねえよ」
「空くん、ありがと♡大好き」
さっきまでの暗い表情とは正反対にモデル張りの笑顔になった。いのりの この笑顔を見れるだけで奢ってあげる甲斐はある。
「す、すいませーん、コロッケ2つください」
店員さんがショーケースからトングでコロッケを3つ取り出した。
「はいよっ! コロッケ3つおまち!」
「頼んだのは2つなんですけど……」
「そこのお嬢ちゃんが可愛いから1つおまけだよ」
「ありがとうございます♪」
いのりは少しも動揺せずにお礼を言った。
驚いた、リアルでこんなことがあるなんて思わなかった。やっぱり可愛いは特だと改めて痛感した。なんだか男に生まれたのが損に思えてきた。
俺は2つ分の代金を支払い店を後にした。
「優しい店員さんでよかったな」
「そあ、だね、ほれほり、このころっけおいひいね」
「食べながらしゃべるな!」
「ほらふんほははぅたへはよ」
「人の話を聞けよ」
「堅いこと言わないのっ」
「いのりがルーズすぎんだよ」
と、こんな風にいつも通りの不毛な会話してると5分ほどで家に着いた。こんななんでも無い日常がずっと続いたら良いのになんていつも思っている。
「じゃあな、いのり、また明日」
「うん、バイバーイ、空くん」
家に入るとドタドタといきなり唯が走ってきた。常識的に考えるとぶつかる前に減速し止まるだろうが、全くその兆しが見えない。
「おーにーいーちゃーん♡」
唯は俺のいるところから2メートル離れたところでジャンプした。
なかなかの威力だったが、俺は体勢を崩しながらもなんとか唯を受け止めた。
そのまま唯が抱きしめてきたが、スッと引き離した。
「ど、どうしたんだ唯?今日はいつにも増して機嫌が良いじゃないか」
紹介が遅れたが、こいつは俺の妹で 結崎 唯。はっきり言って高校生1年生とは思えないくらい可愛い。顔が可愛いというのもあるが、最近は1つ1つの仕草がとても女の子らしい。しかも日に日に女の子らしさが増しているようだ。詳しくは後で説明することになるが花嫁修行が大きく関係しているだろう。
周りの男子高校生に無理な告白やストーカーをされていないか心配になるくらい出来の良い妹である。ただし、これは全て俺以外の他人から見たらの話だ。
「うふっ、今日はそういう気分なの」
いつもより2割り増し……いや8割り増しでベタベタしてくる。
「まあいいや」
「私、お兄ちゃん以外の男の人興味ないから!」
「突然何言い出すんだよ」
「言いたくなったから、言っただけ」
「おいおい、そういうこと学校では言うんじゃないぞ!」
「わかってるよぉ〜」
「それに、兄妹じゃ結婚できないからな俺以外の良い男見つけろよ」
「むぅー、お兄ちゃんのいじわるー」
昔はそこまでブラコンな妹では無かったのだが、こんなに唯が変わってしまった原因として考えられるとしたら1つしか無い。
『花嫁修業』おそらく、この期間に妹に何か変化があったのだろう。
「俺、今日疲れたから、ちょっと寝るわ」
「もぉ、どうせ授業中ずっと寝てたくせに……」
唯がボソッと呟いた。
「ん? 何か言ったか?」
「んーん、なんでもないよっ」
「ああ……そうか」
何を言ったのか気になるところだが、今は早く寝たいので直ぐに引き下がった。
「ご飯できたら、起こしに行くからねー」
「おう、わかった」
俺はゆっくりとした足取りで自室に向かった。自室に着くとベットに飛びつくようにして眠りについた。