いのりのデート その4
「ねえ、空くん……やっぱり、そこに行くのはやめない?」
「どうしてだよ? さっきまでは乗り気だったのに」
「い、いやぁ〜その……」
いのりは下を向いてモジモジするだけで一向にわけを話そうとしない。
「どうしたんだよ? いのりらしくないぞ」
「え、えぇ〜でも……」
「あっ!」
突然、俺はハッと閃いた。
確信はないが、いのりかここまで躊躇する理由はこれしか考えられなかった。
「もしかして……いのりってお化け屋敷嫌いなのか??」
「あっ……いや……その……」
いのりの完全に図星を突かれたような反応で俺は確信した。
「フフーン、なるほどな」
「な、なによ! そのニヤついた顔は! さては、また変なこと考えてるの?」
「いや、なに、大したことじゃないさ……ただ単に、いのりを絶対にお化け屋敷に連れて行こうって決心しただけだから」
「うわぁ……最悪だ……空くんがそんなゲズな男だったなんて……」
せっかくいのりの面白そうな反応が見れるチャンスをみすみす棒に振るような事だけはしない。そのためには多少の好感度減少は致し方ない。
「大丈夫だよ、お化けは出てもGは出ないから!」
「どっちも嫌だよっ!」
「怖かったら俺につかまって目を瞑ってれば良いからさ」
「とか言って本当は私のこと置いてくつもりでしょ?」
「そ、そんなことしないってば!」
「だとしても嫌だもん! 絶対に行かないから! 行きたいなら空くんだけで行きなよ」
意地でも行かせたい俺に対していのりは意地でもも行きたくないらしい。
「それじゃあ、面白くないだろ、俺はいのりとお化け屋敷に行きたんだよ。いのりとじゃないとダメなんだよ!」
「え……私とじゃないと、ダメなの?」
「そうだよ、いのりと……いのりが良いんだよ!」
俺はいのりの両肩に手を置き真面目な顔で訴えかけるように言った。
なんだか告白のようになっているがこのまま押し切るしかない。
「私が……良いの……ね?」
「そうだよ、だから……一緒にお化け屋敷に行ってくれないか?」
「う……う……」
「いのりにしか出来ないんだ!頼むっ!」
「わ、分かったよ……仕方ないなぁ……今回だけだからね、もう絶対、2度と行かないからね!」
「分かった、約束するよ」
「そ・れ・と! その……てっ……手を……」
「ん? なに?」
「手を……繋いでって言ってるの!」
「あ、ああ」
「こうしてないと空くんが逃げるかもしれないから、念のため……念のためね」
「ふふっ、別に怖いんだったら手じゃなくて体にくっついても構わないけど」
「そ、それは最終手段だから……最初は手だけで十分」
「強がるなって」
「強がってなんかないもん!」
「そうか、じゃあ行こうか」
お化け屋敷に入るまでのいのりの足取りは両足に10kgのオモリがついているのか? と思うほどに重かった。
お化け屋敷の中は演出なのか冷房が効いており少し肌寒い。
足元の明かりを頼りにゆっくりと歩いて行くと突然前方からダッダッダという足音とともに高速でゾンビが走ってきた。
「きゃああああ!」
「うわっ!」
ゾンビにというより、いのりの叫び声に俺はビビってしまった。
だが予想どうりいい反応をしてくれているので幸先は良さそうだ。
ゾンビがは俺たちの前まで来ると顔を近づけうめき声をあげてくる。
作り物だと分かっていてもメイクがリアル過ぎて鳥肌が立ってくる。
「いやぁああああ! 早くあっち行ってよ!」
いのりが手を前でブルブルさせゾンビを追い払おうとしている。だが一向に立ち去る気配はない。
いのりが本気で怖がっているので手を引き先に進んだ。
するとゾンビは追いかけて来るようなことはせず、うめき声をあげながら横道に消えて行った。
「いのり……大丈夫? 生きてる?」
「全然大丈夫じゃないよ……死にそうだよぉ……」
「でもまだ始まったばっかりだから、頑張ろ!」
「もぉ、いやぁ〜」
泣き言を言ういのりを引っ張ってどんどん進んで行くと血の手形の付いたドアが現れた。
「これ、開けろってことか?」
「えぇ〜絶対何かいるじゃん……やめとこうよ」
「でもここ開けるしか道がないよ?」
辺りを見渡してもよく分からない呪文やお札が貼られた壁があるだけで道のようなものは見当たらない。
いのりとドアについて相談していたせいで、背後から忍び寄る気配に気づかなかった。
気づいた時にはもう、時すでにお寿司……遅しで背後には何人もの長い髪を顔の前に垂らし血のついた包丁を持っているの女が立っていたようだ。
「そそそそそそ、空くん、ううう後ろ」
「おわっ!!」
流石に不意打ち的に来られては驚かずにはいられない。
こうなってはもう後には引けないので意を決してドアを開け逃げ込んだ。
予想に反し、その部屋にはお化けは居なかった。その代わり1つ、両手サイズの箱が置いてあった。
そしてその箱にはこの様な注意書きが書いてあった。
『コノヘヤニカクサレシフダヲモチイテシットノオナゴヲジョウブツサセヨ サスレバミチハヒラカレン』
「なんなんだこれは?」
「うーん、お札? を使ってさっきの女の人たちを追い払えってこと?」
「どうやら、そうみたいだな」
「って言ってもこの部屋血の跡があるだけでお札みたいなのはどこにも見当たらないよ?」
「ってことはこの箱、開けるしかないみたいだな」
俺は一度ゴクリと唾を飲み込みゆっくりと箱開けた。そして中にあるものを手に取り凝視する。
「ん? うっ!!!」
俺は即座にそれから目を逸らした。
「えっ? えっ? どうしたの? 」
「あ、いや、ちょ、ちょっと待ってくれ」
俺はゆっくり深呼吸をして冷静さを取り戻す。
「お札はあったの?」
「無かった……でも、別のものが入ってた……」
「別のもの?」
「ああ、ちょっとな……いのりには刺激が強いかも知れないから見るのはやめたほうがいいぞ」
「う、うん、やめとくよ……でも、どんな物だったのかだけ教えて?」
「写真だよ、多分さっきの女の人のだと思う……血にまみれた顔の写真だった」
「げぇっ……」
「俺も見るんじゃなかったぜ……気分悪くなってきた」
「で、でさぁ、それ以外には何も無かったんだよね?」
「あぁ、お札みたいなものは何も……」
手がかりを失った俺たちは沈黙のままお札の在り処を考えた。
数分が経ち完全に詰んだと思ったその時。
手が汗ばんできたせいでさっきからずっと手に持っていた写真が滑り落ちた。
結果的にそのことが功を奏し俺たちはお札の在り処に一歩近づくことができた。
「あっ!!」
写真の裏には、なんと文字が書いてあったのだ。写真はトラップなんだと思い全く気にも留めていなかった。
そこの文字には、
『ハコノウラ二ナンジノホッスルモノアリ』
と書いてあった。
「箱の裏!」
「なるほど、そうだったのね」
いのりはクルッと箱のを回し裏を見た。そこには文字通り俺たちの探していたお札があった。
「よし、これで先に進めるぞ」
「やったね」
いのりは俺の背に隠れ服の裾を掴んだ。
「よし、準備は良いか? ドアを開けるぞ?」
「うん……」
俺はゆっくりとドアを開けた……。




