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唯のデート FINAL

「きゃっ」


 ////////////////////

 俺は唯が倒れたの目撃すると一目散に唯のもとに駆け出した。

 そして倒れた唯を庇うように男達の前に立った。


「おい!てめてぇら人の妹に何してくれてんだっ!!」


「あぁっ?!」


「何だテメェ?」


 金髪のチャラ男とチビチャラ男がテンプレ通り啖呵を切った。

 今まで喧嘩なんてものに縁が無かった俺は奴らの威圧に少しばかり圧倒されてしまった。


 だが俺も負けじと虚勢を張った。


「おいおい、3対1とかそれでも男かよ、男ならタイマン張れよ、おい!」


「いい度胸だな、やってやろうじゃねえか!」


 俺の精一杯の煽りに対し頭の悪そうな金髪は上手く乗ってきた。


 1対1なら何とかなると思い覚悟を決めて殴りかかろうとしたその瞬間


「おい、お前らいい加減にしないか!!」


 3人組の中で唯一黙っていた大柄の男が口を開いた。


「あ、アニキ、何で止めるんすか?」


「周りをよく見ろ、こんなとこで喧嘩はじめる気かよ」


 俺もそれを聞いて辺りを見渡すと少なからずこちらを見ている者がいる。派手な喧嘩になると通報されるかもしれない。


「す、すいやせん、ついカッとなって」


「女1人のために喧嘩なんてしたら親玉に何て言われるかわかったもんじゃ無いぞ」


「は、はい」


 さっきまで威勢の良かった金髪が完全に大柄の男の言いなりになっている。


「それと、おい!そこのお前」


「へ?お、俺?」


 いきなり話を振られ動揺を隠せない。


「そうだ、お前だ。可愛い妹を1人放ったらかしにするんじゃ無いぞ!」


「は、はぃ」


「それと、女を泣かせるような男に女を守る資格は無い!よく覚えておけよ」


「……」


「お前ら行くぞ」


「了解です、アニキ」


 そうして大柄の男を先頭に3人組の男は去って行った。


 男達が完全に見えなくなると唯が声をかけてきた。


「おにい……ちゃん」


「唯……ごめんな、怪我は無かったか?」


「大丈夫、ちょっとつまずいただけだから」


「それは良かった、でも怖い思いさせたよな……ごめん」


「うん……少し怖かったけどお兄ちゃんがすぐに助けに来てくれたから……」


「それでも、唯を悲しませた上にこんなことまで……」


「気にしないで……私にも原因はあるんだから」


「それでも……」


「お兄ちゃんは悪く無いよ、精一杯私を守ってくれた……それだけですごく嬉しいよ」


「うん……」


「ほらほら、せっかくのデートだよ!もっと私を笑顔にさせないとだめでしょ?」


「本当はこんなお兄ちゃんとはデートしたくないだろ?」


「そんなわけない、さっきはちょっと傷ついたけどそんなんで嫌にならないよ」


「唯の期待を裏切るかもしれないぞ?」


「いつだってお兄ちゃんを信じてるよ」


「唯のことだけを見てやれないけどそんなんでいいのか?」


「いつかお兄ちゃんに私だけを見てもらえるように頑張るよ」


「男らしく無いお兄ちゃんなんて嫌だろ?」


「お兄ちゃんは本当は男らしいって分かってるから」


「良いとこないお兄ちゃんでごめんな」


「そういう素直なところが良いところだよ」


「こんなお兄ちゃんだけどこれからも好きでいてくれるのか?」


「もちろんどんなことがあっても未来永劫大好きだよ♡」



「ふふっ、参ったな……そこまで言われたら俺も唯に釣り合うくらいの男になるように頑張るしかないよな」


「期待してるよっ」


「よし、それじゃあ気を取り直してデートの

 終盤戦といこうか」


「うんっ」


「そこで提案なんだけど、唯がデート計画を凄く練ってくれていたのは分かってるんだが最後は俺に行き先を決めさせて貰えないか?」


 俺は断られる覚悟でいたのだが、唯はニコッと笑った。


「そう言うと思って、ほら、実はこの後は何も書いてないんだ」


「なんで分かったんだ?」


「お兄ちゃんの性格ならきっと『最後は自分で決めさせてくれ』って言うと思っただけだよ」


「唯には隠し事はできそうにないな」


「そうだねっ、もし付き合ったら浮気は絶対にさせない自信はあるかなっ?」


 唯の冗談に俺は少しばかり寒気がした。


「気をつけるよ」


「ふふっ、それよりどこに行くの?」


「それは着いてからのお楽しみ(・・・・)ということで」


 そうして俺たちは水族館を後にした。

 水族館を出る頃には辺りは黄昏時になっていた。時刻として午後6:46分だ。

 現在は帰宅ラッシュの時間で大通りでは人々が行き交っている。


 俺は唯の手をしっかりと握り、出来るだけ早く目的の場所に向かった。

 移動中は俺も唯も常に無言だった。



 しばらく歩き続け、人通りの数も少なくなって来た。近くでは水の流れる音がするだけで他には殆ど何も聞こえない。強いて言えば虫の音が微かに聞こえるくらいだ。

 俺は事前に下見をして決めていた場所に着くとその場に立ち止まった。


「お兄ちゃんここは?」


「ああ、河川敷だ」


 何の変哲もないただの河川敷である。


「ここが来たかった場所?」


「静かで良い場所だろ?」


 この辺では珍しく、車の音も人の騒ぎ声も一切聞こえない場所である。まるで世界に俺と唯だけしかいない様な錯覚になる程だ。


「確かに落ち着いていて良い場所だけど……」


 唯が少し不満そうだ。


「俺がここに来たのはただ静かな場所を求めていたからじゃないよ、本当の目的は別にあるんだ」


「本当の目的?」


 辺りはすでに闇に包まれておりちらほら立っている街灯と月明かりで辛うじて顔が認識できる程度だ。だが俺の真の目的にはこの状況がベストである。


「とりあえず、そこの芝生に座ってくれるか?」


「う、うん」


 軽く深呼吸して言った。


「唯、空を見てくれ」


 唯はじっと俺を見つめた。


「ん?見てるよ?!」


「あ、そうじゃなくてスカイ、上だよ上」


「ごめんごめん、冗談だよっ」


 唯は気を取り直して空を見上げた。

 次いで俺も空を見上げる。


「これが俺がここに来た本当の目的だ!」


 夜空に輝く無数の星々、その光を遮るものは何も無い。


「わぁああ!綺麗!」


「街中じゃ大きな建物や街明かりのせいでここまで綺麗な星空は見られないだろ?」


「うん、凄い……凄いよ!」


「たまたまこの辺を通りかかることがあってな、ちょうどその時も今日みたいな快晴の日だったんだ……それで、もしかしてと思って空を見上げると信じられないくらい綺麗な星空が広がってたんだ……その時思ったんだ、この星空を唯にも見せてあげたいなって」


「うん……」


「唯には何時も世話になってばっかりだからさ、何かお礼がしたいってずっと思ってたけど、プレゼント作ったりできないし、だからといって店で買った物を揚げるのもなんか違うなって思ったら、こういうことしか唯に喜んで貰えそうなこと思いつかなかった……ごめんな」


「ううん、この世界のどんな()よりもこの星空は私にとって価値のあるものだよ」


「そういって貰えると助かるよ」


「こんなに素敵な贈り物は生まれて初めてだよ」


 唯の目からは月の光に照らされて光り輝く一粒の涙がこぼれ落ちていた。この涙もまたこの夜空に輝く星の一つのようだった。


「綺麗だな」


「本当にね、今日お兄ちゃんとデートして良かったって心から思えるよ」


「ありがとう……でもまだ終わりじゃ無いんだ」


「え?どういうこと?」


「まあ、すぐにわかるさ……」


 俺は時計をじっと見つめその時を待った。

 俺ができるだけ早くここに着きたかったのはこの時を逃さないためでもある。


「ん?」


「よし……そろそろだ、3……2……1」


 辺りは静まり返ったままで何も変化はない。


 予定が外れたかと思ったその時。

 一筋の流星が夜空を横切ったかと思うとそれに続いていくつもの流星が俺たちの頭上を通過する。


「これを……見せたかったの?」


「うん、きっと忘れられない思い出になると思ったからね」


「私初めてだよ流星見たの……こんなに幻想的だなんて」


「実は俺も初めてなんだ……想像してたより綺麗で自分でもビックリしてるよ」


 絶え間無く流れ続ける流星をうっとりとした目で見ている唯を見ていると、なんとも言えない複雑な感情になった。そして俺は無意識的にこんなことを流星に願っていた

 “来世では唯とは兄妹では無く1人の男と女として出会えますように”と。



「私、今日この日のこと絶対に忘れない」


「俺も忘れないよ、いや忘れられるわけがない」


 数分間で流星群は過ぎ去り、最後の流星が名残惜しそうに夜空に消えた。

 夜空に残るのはいつまでも変わらない星空だけだ。


「こんな日が来るなんて……な」


「そうだねっ、私も思わなかったよ、まさか『お兄ちゃん』と、こんなロマンチックな星空を見られるなんて」


「お兄ちゃんと見られて本当に幸せだよっ」


 そう言うとさっきま明るく振舞っていた唯の目から どわっと涙が溢れてきた。俺は持っていたハンカチで優しく涙を拭き取った。


「あと……どうしても……お兄ちゃんに……言いたいことが……ある……んだけど……いいかな?」


 泣いているせいで呼吸が乱れ、言葉が途切れ途切れになってしまっている。


「うん、なんだい?」


 俺は出来る限り優しく問いかけた。


 唯は深呼吸をし、なんとか呼吸を整えた。

 そして急に近づいたかと思うと俺の頬に軽くキスし精一杯の笑顔でこう言った。



「妹がお兄ちゃんを好きになったらダメですかっ?」


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