唯のデート その6
ーーグァッグァッ
ペンギンが飼育員の人に餌付けされている。
どうやらちょうど餌やりショーの時間のようだ。
「ーーっという特徴があります。他にもーー」
「お、面白そうなことやってるな」
「お兄ちゃん近くまで行こっ!」
近くまでくるとよりペンギンの鳴き声が大きく聞こえてきた。
「知ってるか?唯、ペンギンって種類のよって餌が違うんだぜ、あの大きいやつがキングペンギンってやつでホッケを餌としているんだ、そこの小さいやつはフンボルトペンギンっていってカタクチイワシなんかを餌にしてるんだぜ」
「なるほどぉ、体の大きさに合わせて餌が違ってくるってことだね」
「ペンギンには歯がないから魚を食べるときは丸飲み込みするんだ」
「ふむふむ」
「魚を食べる向きも決まってて必ず魚の頭から食べるんだ、理由はさっき言ったペンギンの魚の食べ方に関係してるんだけどわかるか?」
「うぅーん?」
「じゃあ、もし正解したらなんでもお願い1つ聞いてあげるよ」
「え、本当にっ?!」
「あぁ」
「ちょ、ちょっとまって真剣に考えるから」
「まあ、シンプルな理由だから深く考えない方がいいよ」
「えっえぇー、そんなこと言われても……」
ーー3、2、1
「さあ、そろそろ答えをどうぞ!」
「えっ、えーっと、頭が良くなりたいから?」
「うーん残念、答えは 尻尾の方から食べると丸飲み込みした時に魚の鱗などが引っかかってしまうからでした」
「うぅ、せっかくお兄ちゃんに命令出来るチャンスだったのにぃ」
「まあ、そう落ち込むなって、特別にもう1問だけ問題出してやるから」
唯の表情がパアッと明るくなった。
「やったぁ、次は絶対正解するんだから!」
「では、問題です。あそこの岩の上にいる頭部に黄色い飾り羽が特徴のペンギンの名前は何でしょう」
「え、難しすぎるよぉ」
「落ち着いてよく周りを見たら分かるよ」
たいていの動物園や水族館では、展示されている動物がどんな動物なのか説明するためのプレートの様なものが掲示されている。唯がそれを見つけることが出来れば正解に大きく近づく。
唯は今必死になって条件に合うプレートを探している。
程なくして、
「……あっ!」
唯の動きが止まった。
「お?そろそろいいかな?では、答えをどうぞ」
「イワトビペンギン……かな」
「……」
唯は緊張した面持ちでこちらを見ている。
「……」
「正解!」
「やったぁああ!」
「おめでとう」
「お兄ちゃん、約束は忘れてないよね?」
「ああ、もちろん、だが性的なことは辞めてくれよ?!」
「分かってるって、お兄ちゃんに色仕掛けは効かないもんね」
「なら良かった、ところでもう決まってるのか?」
「一応考えたけど今じゃないかな」
「そうか、まあ好きな時に使ってくれ」
「うんっ」
この後もイルカのショーを見たりや浅瀬の生き物に触れる体験などをして水族館を満喫した。
ひと通り見終わったので館内の休憩所で休むことにした。
「唯、喉渇いてないか?」
「はしゃぎ過ぎてちょっと渇いたかも」
「じゃあ、ちょっと待ってて」
そう言い俺は売店にジュースを買いに行った。始めはジュースだけを買う予定だったが水族館オリジナルラスクがどうしても目から離れなかったので買ってしまった。更に期間限定のクッキーも売っていたが値段が高くお財布的に厳しかったのでクッキーは断念した。
結果としてジュース2つ、ラスク1袋を持って唯の待つ席に戻った。
「おかえり、お兄ちゃん」
「ただいま、唯、はいこれオレンジジュース」
「ありがとう!お兄ちゃん」
口ではちょっとと言っていたが実際はかなり喉が渇いていた様でジュースを渡すとすぐに飲み始めた。唯のジュースは瞬く間に半分無くなってしまった。
「ふふっ」
そんな唯がちょっと可愛く思えて自然と笑みがこぼれてしまった。
「お兄ちゃんどうかした?」
「いいや、なんでもないよ」
唯に悟られない様に笑顔で誤魔化す。
「ところでお兄ちゃんーー」
唯の視線が俺の買ってきたラスクに移っている。
「ああ、これか、なんでも水族館オリジナルのラスクらしいんだ」
「へぇー、そんなのがあるんだ」
「食べてみるか?」
「うんっ」
俺は唯にラスクの入った袋を差し出したが唯は一向に受け取ろうとせず代わりに口を開けている。
「それは何のアピールだ?」
「たへはへへっへはひーるはよ」
「いやまあ分かってるけどさ……」
「ははくぅー」
「もぉーくそっ」
これ以上唯の醜態を晒していると周りから変な目で見られかねないので、俺はヤケになって唯の口に突っ込んだ。
「んっ…………ぷはぁ……」
唯はご丁寧に俺の指についた砂糖まで綺麗に舐め取っていった。
「へっ?!お、おい、何すんだよ」
「だって、お兄ちゃんの手が砂糖で汚れちゃってたから……」
「だからって……舐めなくてもいいだろ?!」
「うーん?まあ、美味しかったしいいじゃんっ?お兄ちゃんも食べてみなよ」
「まあ、じゃあ1つ」
俺は唯に舐められた手とは逆の手でラスクを食べた。
「あー!なにそれー!私への当てつけ?」
「お、結構美味しいな」
「無視するなぁー!折角間接キス出来るところだったのにぃー」
「唯ももっと食べていいぞ」
「むぅうう、お兄ちゃんのそういうとこ傷つくんだよね」
「聞こえない聞こえない」
俺はさっきの仕返しとばかりに唯を煽った。唯も吹っ切れたようで2個目ラスクを食べようと口に運んでいる俺の手をガシッと掴みラスクごと俺の指を食べてしまった。
「んっうっん…………ぷはぁ」
先程と同様に……いやそれ以上に俺の指を舐め回した。
「なっっ!!」
「はい♪これでどっちの指で食べても間接キスになったもんねぇー」
唯がいたずらっ子の顔をしている。
ーーガタッ
「ちょっと手を洗ってくる」
「へっ?ええええーちょっ、ちょっとぉー」
唯の制止は無視しスタスタとお手洗いに向かった。
ーーゴシゴシ
「ちょっと唯やり過ぎなところがあるからなぁー」
ーーゴシゴシ
「ほどほどなら許せるんだけど……」
ーーゴシゴシ
「まあ、流石にこれで懲りただろ」
ーーゴシゴシ
俺はしっかり手を洗ってお手洗いを出た。
「唯の席はと……んっ?」
何やら唯が居る席の周りに3人組の男が立って居る。
〜3分前〜/////////////////
「ねーねー、君1人かい?」
「もしかして彼氏に置いてかれたとか?」
「あれ?泣いてんの?話聞こうか?」
「え、あの、その……」
金髪のいかにもチャラそうな男が唯の腕を掴んだ。
「ねぇー行こうよ、君みたいな子を置いてくなんてろくな男じゃねえよ」
横にいた少し背の小さめの男も追い打ちをかける。
「そうだぜ、俺らの方がよっぽど優しくしてやれるぜ?」
「や、やめて……くだ……さ……ぃ」
金髪の男が更に強い口調で捲し立てる。
「ああっ?何だって?!」
「君みたいなのを泣かせる男より俺らの方がぜってぇマシだぜ?」
「そん……なこと……」
唯は完全に相手のペースに呑まれて言い返せなくなっている。いや、俺のせいで言い返す自信をなくしている。心のどこかでチャラ男達の意見を認めてしまっているのだ。
「早く来いよ!!」
金髪の男が更に唯の腕を強く引っ張った。その反動で唯はバランスを崩しその場に倒れこんでしまった。




