唯のデート その5
ーーガヤガヤガヤ
「うわ、ここも結構人が多いな」
「カップルとか家族連れとかいろんな人たちが来てるね」
「俺たちもチケット買って早く見ようぜ」
「うんっ」
俺たちは窓口に並んでいる列の最後尾に並んだ。5分ほど待っている俺たちの番がやって来た。
「お客様2名様でよろしいでしょうか?」
「はい、そうです」
「お客様方はカップルでございますか?」
俺は(この受付嬢なんてこと聞きやがる)と思ったが口には出さなかった。だが俺は心の中でツッコミを入れたせいで返答が遅れてしまった。
唯はその隙を見逃さずに間髪入れずに自信満々に答えた。
「はい、カップルです!」
(おいおいマジかよ……)
唯が俺の方を見てニヤッとした。
俺はすぐさま訂正しようと思ったが受付の様子が何かおかしいので一度思いとどまった。
「……でしたら、只今こちらのキャンペーンを行なっておりますので……」
受付嬢が提示してきたのは割引きのキャンペーンだった。カップル限定で入館料が半額になるというリア充には 棚からぼたもち だが非リアの方々にとっては 目の上のたんこぶ のような企画だ。
俺たちの場合はカップルでは無いが向こうが勝手に勘違いしてくれたので有効に利用させてもらうことにした。
「あ、じゃあ、それでお願いします」
「はい、ではお二人で1500円になります」
「ええっと、1500円だから750円ずつだよね」
「あ、良いよ、全部俺が払うよ」
「え、そんな……悪いよ」
「気にしないでくれ、そんなに高い料金でも無いし、それにさっきの映画は唯がチケット用意してくれてたんだろ?ならこれくらい俺に払わせてくれないか?」
「お兄ちゃん……」
「お兄ちゃん?!」
受付嬢の人が頭にハテナを浮かべながら言ったので唯は慌てて言い直した。
「じゃなくて、空くんっ♡」
なんだか普段とは違う呼ばれ方をされると照れ臭くなった。
そんな俺を見てか唯が抱きしめてきた。
「うふふっ」
完全なバカップルぷりに思わず受付嬢の人も思わず笑ってしまったようだ。
なんとか誤魔化せたみたいだ。
勘付かれないうちにさっとお金を払った。
「1500円でしたよね、はい」
「はい、丁度ですね。これがチケットです。そこの係員にお見せください」
「ありがとうございます」
俺がチケットを受け取りこの場を離れようとしたその時。
「妹さん、良いお兄さんをお持ちなんですね、今日は最高の思い出になると良いですね」
「はいっ!」
唯は全く否定せず元気よく答えた。
どうやら誤魔化せたと思っていたのは俺の勘違いだったようで受付嬢の人は気付いた上で気付かないフリをしてくれたらしい。
俺たちは優しい受付嬢の人にお辞儀をし、係員にチケットを見せ入館した。
チケットには絵が描かれており2人のチケットを合わせると1つの絵になるというちょっとしたオマケ付きのものだった。
何はともあれ無事?入館できたわけだが広すぎてどこを廻ればいいのか分からない。
「なあ唯、どこ見る?」
「とりあえずそこの魚から見ていこっ?」
「おっけー」
「うわぁーすごぉーい」
「結構綺麗だな」
小さな魚の群れが集団で動くことによって大きな魚に負けないくらいの迫力を出している。
「サメもいるね、あのお魚さんたち食べられないか心配だよぉ」
「心配ないよ、ちゃんとエサをあげてサメを空腹状態にしなければ他の魚には手を出さないって聞いたことがあるよ」
「ほぇーお兄ちゃん物知りなんだね」
「いやいや、そうでもないよ」
「ねぇねぇ、次はあれ見ようよ」
「おう、良いぜ!俺も楽しくなってきたぞ」
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「うわぁー綺麗」
「本当に綺麗だな」
「心が落ち着くね」
「そうだな、海の中の様子って普段は見れないからより一層幻想的に感じるよな」
「あ、お兄ちゃん、あそこに人だかりが出来てるよ、私たちも行ってみよ?」
俺たちは人だかりが出来ている水槽の近くまで移動した。
「人多いな、ちょっとよく見えないぞ」
「私なんか全然見えないよ」
「お、見えたぞ、スナメリか!」
「えー、私も見たいよぉ」
「おぉーすげぇーあれが有名なバブルリングか!」
「お〜に〜い〜ちゃ〜ん、私も見たいよぉ〜」
「うーん……よし任せろ」
俺は唯の腰をしっかりホールドして持ち上げた。唯の体は思ったよりも軽く柔らかかった。
「ほぇっ?!」
「どうだ?見えるか?」
「あ、うん、見えるよ、可愛い♡」
「だよな」
「あ!バブルリングだ!すごぉーい」
唯は軽いがそろそろ腕が疲れてきた。筋トレなんて部活を引退してからしてないのでだいぶ衰えてきている。
「そろそろ降ろしてもいいか?」
「うん、いいよ」
俺はそっと唯を地面に降ろした。
「ふぅ」
「ありがと、お兄ちゃん」
「俺も唯が喜んでくれて嬉しいよ」
「あ、あの、それでさ、私重くなかった?」
「あー、全然大丈夫だよ、俺のこの貧弱な腕で持ち上げられるくらいだから」
自分で改めて言うとなんだか悲しくなってくる。
「そ、そっかぁ お兄ちゃんに重かったって言われたら泣くとこだったよ」
「頼むから今日は泣かないでくれよ」
「それはお兄ちゃん次第だね」
唯は笑いながら言ったが、なかなかのプレッシャーだ。
「次はあそこのペンギンの水槽見にいこうぜ」
「うんっ!」
ーーザブゥーンッ
「すげぇ、ペンギンってよくあんなにスイスイ泳げるな」
「私泳ぐの苦手だからすごく羨ましいよ」
「俺も泳ぎはあんまり得意じゃないんだよなぁ」
「あ、屋外展示にもペンギンがいるみたいよ」
「行ってみるか」




