唯のデート その4
「はぁぁ……これで買い物は終わりか?」
「うんっ」
「つ、疲れたぁ〜」
「もぉ、ダメだよっ、そんなんじゃ女の子に嫌われちゃうよ」
「って言ってもな……」
この人混みと慣れない買い物に付き合わさせられて、疲れないわけがない。
「今何時かなぁ?」
「あ、えーっと 午後12:57 だな、そろそろ昼ごはんにするか?」
「うんっ!そうしよっ」
「じゃあ、どこか食べたい店とか物ってあるか?」
「あ、その……実は……」
「どうした?」
「お弁当作って来たんだけど……」
俺はよく理解できず黙ってしまった。
数秒間の沈黙の後、俺から口を開いた。
「……って言う設定??」
「設定じゃなくて、本当に!」
「いやいやいや、嘘でしょ?」
「嘘じゃないよ!本当だよ!」
「いやいやいやいや、だって朝あんなにぐっすり寝てたじゃん!それでいつ作ったって言うんだよ、確かに唯は料理うまいけどそんなに早く作れるはずないだろ?!」
俺はもっともな理由で反論した。
「朝ぐっすり寝てたのは、お弁当作るために早起きして疲れてたからだよぉ」
「そ、そうなのか……まあ、そう考えたら納得はいくな」
「でしょ?それでさ、お弁当食べてくれる?」
「ああ、もちろん!せっかく早起きして作ってくれたんだからな」
「じゃあ、外に雰囲気の良さそうなベンチがあったからそこで食べよっ」
「おっけー、行こうか」
俺たちはショッピングセンターの外にあるベンチに座った。唯がカバンから弁当箱を取り出すと俺と唯の間に置いた。
「じゃじゃぁーん」
唯が自前の効果音と共に弁当箱を開けた。
「おぉー!」
なかなかのクオリティーの弁当である。色彩も豊かでバランスも良い。
「お兄ちゃんが好きなものをメインに詰めたよっ」
確かによく見ると俺の好物ばかりだ。
「な、もう食べていいか?」
「いいよ!じゃんじゃん食べてねっ」
俺は、まずはじめに唐揚げを取った。
「じゃあ、いただきます」
パクッ……!!
「ど、どぉかな?」
「う、うまい、うまいよこの唐揚げ」
「えへへ、実は昨日の夜から仕込んでたんだよねぇ〜」
「なるほどな、だからか」
「他にも食べてみて、どれも力作だよ」
「これは期待できるな!」
唯の弁当は予想以上の美味しさだった。
まるで今日のデートへの意気込みが詰め込まれているかのようだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お粗末さま」
「ふぅ、うまかったぁ、ごちそうさま」
「いやぁ、安心したよぉ お弁当なんてあんまり作る機会無いから失敗したらどうしよってずっと不安だったんだよぉ」
「全然問題なかったぞ」
「よかったよかった、これからもお兄ちゃんに毎日お弁当作ってあげよっか?」
「そこまではいいよ、唯も毎朝早起きするのはキツイだろ?」
「んーでも慣れれば大丈夫なんじゃない?」
「それでも、慣れるまでは大変だろ?それにもし疲れて唯に体調でも崩されたら大変だからな」
「あははー確かにそうだねっ、お兄ちゃん料理も洗濯もできないからねー」
「そんなにバカにするなよ、俺だって包丁を使わない料理ならできるんだからな」
「ぷははっ、そんなの料理じゃないじゃんっお兄ちゃんてばおかしいんだから」
唯に大爆笑されてしまった。
「まあ、だいぶ話が逸れちゃったけどお弁当はこういう日に作ってくれるだけで満足だからあまり無理はしないでくれよ?」
「うん、わかった、お兄ちゃんがそれでいいならそうするね」
食後の会話に時を忘れているといつの間にか時は午後2:00を迎えようとしていた。
「もうこんな時間か、そろそろ次の場所に行かないと時間が足りなくなっちゃうな」
それを聞くと唯は慌てて手帳を取り出した。
「あわわ、えーっと、つ、次はね」
「落ち着いて落ち着いて」
「スーハースーハー……次は水族館に行こ」
「映画館、ショッピング、水族館か……ちょっとベタ過ぎるんじゃないか?」
「いいのっ、こういう普通のデートが一番楽しかったりするんだから」
「そうだな、じゃあ行こうか」
水族館まで最短ルートで行くため街の大通りを突っ切ることにした。
俺たちが大通りに差し掛かるとそこは人で溢れかえっていた。人々が縦横無尽に行き交っており真っ直ぐ歩くことすらままならない状況だ。
俺は唯と、はぐれないように唯を近くに呼んだ。
「お兄ちゃん……すごい人の数だね」
「ああ、だから俺から離れるんじゃないぞ、はぐれたら大変だからな」
「う、うんっ」
と言ったそばから唯との距離がだんだん離れていく。
「ちっ……」
俺は唯のところまでなんとか行き、手を握った。
「え?」
「こうしないと、お前、すぐはぐれそうだから我慢してくれよ」
そう言い、唯を自分の近くまで引き寄せた。
「我慢なんて……そんな、それになんかお兄ちゃんカッコいい……!」
唯が小さな声で言ったので、周りの騒音に掻き消されて俺には聞こえなかった。
「まあいいや、行くよ」
唯の手をしっかり握ったまま俺は早くここから抜けるため急ぎ足で歩いた。
大通りから分岐した道まで行くと人の数はさっきよりは少なくなった。
「お兄ちゃん……」
「あ、ああごめん」
唯が俺が握っている手を見て言ったので、俺は慌てて手を離した。
「あ、いや、そういうことじゃなくてね、さっきはありがとって言いたかっただけなの」
「そ、そうか」
「お兄ちゃんが手を握ってくれなきゃ迷子になるところだったよ」
「本当唯は世話がかかるな」
俺は照れ隠しでそう言った。
「さっきのお兄ちゃん、カッコよかったよ」
「いや別に……当然のことだろ?」
「でも、嬉しかったよお兄ちゃんが手を引いてくれて」
「わ、忘れてくれっ」
「もぉ、照れないでよぉ」
「照れてねぇよ」
「それで、お願いなんだけど……この後もずっと手、繋いで欲しいなぁ……ってダメかな?お兄ちゃん」
「ダメ……じゃない」
「ありがとっ!お兄ちゃん」
俺はスッと手を差し出すと唯は指を絡めてしっかりと握ってきた。
「こんなことそうそうしてやらないからな」
「こうしてると本当に恋人みたいだねっ」
「へ、変なこと言うなよ、手離すぞ?」
「ああっ、ごめんなさいっ、もう言わないから許してニャン」
「本当に離すぞ?!」
「もう言いません」
唯はテンションが上がって脳内がお花畑のようだ。
「さあ、早く行こう時間がなくなっちゃうからな」
「うんっ」
唯が歩きながらすごく寄りかかってくる。
「ちょっと近くないか?」
「気にしない気にしない」
俺としては気にせずにはいられない。逆にこんな状況で気にせずにいられる人がいるなら教えてもらいたいくらいだ。
「絶対に登下校じゃこんなこと許してやらないからな、覚えてろよ」
「それは今日は良いってこと?」
「今日だけな」
「なんだかんだ言って優しいんだからお兄ちゃんは」
「うるせぇ〜」
そうしてる間に俺たちは水族館に到着した。




