心の迷い?
——とても良い快晴の日の夜。
河川敷で夜空をみあげる2人の若い男女がいた。
「こんな日が来るなんて……な」
「そうだねっ、私も思わなかったよ、まさかお兄ちゃんと、こんなロマンチックな星空を見れるなんて…………お兄ちゃんと見れて本当に幸せだよ!!」
そう言う彼女の目からは流れるように涙が溢れてきた。彼は持っていたハンカチで彼女の涙をそっと拭き取った。
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俺の家族は父と母そして俺と妹の唯を合わせた4人家族だ。
先月までは俺と両親の3人で暮らしており、妹の唯はというと花嫁修行のため遠く離れた叔母の家で暮らしていた。
唯が『花嫁修行』に行ったのは、中学に上がるのと同時だった。唯の居ない時間はとても物寂しかったが仕方のないことだと我慢していた。
だが、つい数日前……
『花嫁修行』を終え3年ぶりに我が家に帰ってきた。
帰ってきた唯は……本当に見違えるほど成長しており、両親も非常に喜んでいた。
しかしその両親は唯の花嫁修行の成果を確認すると「これなら安心だ、じゃあ、ちょっくら海外で店を開いてくるわ!」と言い残し止める間も無く渡米してしまった。
ということで。
今は唯と俺だけでの2人暮らしをしている。
確かに『花嫁修行』を終えた唯の成長は俺にとっても嬉しい事なのだが……とある『訳』があって、俺は素直に喜ぶことができないでいる。故に家では少し気まづい気持ちだ。だが幸いなことに唯の方はそうは思ってないようで昔と同じ様に接してきてくれる。
「だとしても、こんな気持ちのままじゃだめだよな……」
「そんな暗い顔しちゃってどうしたの?」
「なっ! ってお前か……ビックリさせるなよ!」
いきなり後ろから声をかけられ思わず驚いてしまった。
「いやいや〜勝手にびっくりしたのはそっちでしょ」
と、声をかけてきたのは、クラスメイトで幼馴染の 蓮水 いのり 高校2年生だ。
彼女とは保育園から一緒でとても仲が良い。そしてクラスの中でも1、2を争うほどの美人だ。更に文武両道である。非の打ち所がないような完璧美人と幼馴染だなんて正直俺は恵まれていると思う。唯一の欠点というか、いのりの困るところは日本イチ、いや、世界イチの天然であるということだ、あくまで俺の主観であるが……。
「それでさぁ空くんは、さっき何を考えてたの?」
「べ、別になんだって良いだろ?!」
空というのは俺のことで、フルネームは 結崎 空である。
俺もいのりと同じ高校2年生なのだが……
勉強面、運動面どちらも中の中レベルであり、いのりには到底敵わないのでいつもダメ出しされている。
強いてマシな部分を言うとしたら、顔が人より整っている点だ。
だが、告白されたことは1、2回ほどしか無い。それも、小学生の時だけだ。
こんな状況なのは9割いのりが原因だろうと思う。いのりがいつも俺と一緒にいるので他の女子からは自然と恋愛対象から外されてしまうのではないかと考えている。
もっとも今にところ彼女は作る気が無いので、どうでも良い話なのだが……。
決して負け惜しみじゃ無いので勘違いはしないで頂きたい。もう一度念を押しておくが、負け惜しでは無い!
「そんなことより、早くしないと学校遅刻するぜ」
俺はそう言い残すといのりを置いて学校へ走っていった。
「もぉー、待ってよー空くーん」
いのりも十数歩遅れて走り出し俺の後ろを付いてくる。
しばらく走り続け、ふとどれくらい差がついたかと思い後ろを振り返ると最初のスタートが遅れたにもかかわらず、いのりはほぼ俺の真横まで来ていた。最初あった十数歩の差は既に埋められており今にも追い抜かれそうだ。
「マジかよ……」
俺は改めていのりの運動神経の良さを実感した。
「へっへーん、もう追いついちゃったね」
いのりはまだ殆ど息を切らしていない。
「くそぉ、負けてたまるかっ!」
俺は残りの体力を振り絞り体を加速させる。
だが俺の努力は虚しく容易に抜かれてしまった。
最終的に先に学校に到着したのはいのりで遅れて俺が到着するという結果に終わった。
朝から半日分くらいの体力を使った気がする。おかげで遅刻はせずに済みそうだ。
だが、チャイムが鳴るまでに教室に入っておかなければならないという校則なのでまだ完全に安心することは出来ない。
せっかくのチャンスを無駄にしないよう俺たちはなるべく早足で教室に向かった。
キーン コーン カーン コーン キーン コーン カーン コーン♪
俺たちが教室に入ると同時にチャイムがなった。
「ふう、危なかったな」
「空くん、意外と足遅いんだねっ♪」
笑顔で言われると余計に腹がたつ。
「まあ、次は負けねえけどな」
とりあえず虚勢だけは張っておく。
「まあ、頑張ってね」
「お、おう!」
次は負けないと決意を固めた時、担任の先生が教室に入ってきて号令をかけた。
「さあ、始めるぞ」
今日も今まで通りの日常が始まった? のだった。