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就寝

 歯も磨いて寝支度もバッチリ、さあ寝るぞ と意気込みながら1人自室へ向かうと。


「ちょっと、待ってお兄ちゃん」


「ほぇ?」


「何か忘れてない?」


「歯も磨いたし、風呂も入ったし……特には」


「もう……お兄ちゃんてば……」


 唯がまた泣きそうになったので、からかうのはここまでにした。


「あー、ごめんって、ちゃんと覚えてるよ」


「本当?何のことかわかってる?」


 口を尖らせながら不安そうに聞いてくる。


「あれだろ、今日……一緒に……テレビ見るってやつ」


「うわぁーん、やっぱり覚えてないじゃん!」


 そろそろ本気でキレそうなので、今度は本当にからかうのを止めた。


「今のも冗談だって、忘れるわけないだろ、『一緒に寝てやる』って約束」


「もう、覚えてるなら最初っから言ってよね、また忘れられちゃったのかってすっごく不安だったんだよ」


「唯をからかうのが楽しくてつい」


「もう、純情な妹の気持ちを弄ぶなんて、ひどすぎるよぉ」


「どこか純情なんだよ」なんて野暮なことは言わないところまで俺は成長した。


「唯が可愛いから……」


「えっ……」


 唯の顔が真っ赤だ。不意を打たれて感情を隠しきれないようだ。

 唯の意外な弱点を見つけられて少しラッキーだ。


「ん?」


「……てあげる」


「え?」


「許してあげる」


「何だって?」


「さっき私に意地悪したの許してあげるから、さっさと部屋に行ってて」


 くるりと後ろを向かされ、グイグイ背中を押されている。


「わ、分かった、分かったから」


 唯の指示どおり1人で自室へ向かった。




 5分後、少し元気のない様子の唯が部屋に入ってきた。


「お兄ちゃん……」


 唯がドアの近くから動かない。

 どうしたんだ?と思い様子を伺っていると。

 少しづつ、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。

 後5歩でベットに着くというところで再び立ち止まると、唯がいきなりジャンプして抱きついてきた。


「おぇ、お、おい、どうしたんだよ?」


「びっくりした?」


 上目遣いで聞いてくる。


「そりゃな」


「えへへ、さっきのお返しだよ♡」


「そっかぁ、これは一本取られちゃったな」


「へへーん」


 唯の可愛らしい仕返しに、いつもの唯らしさを感じ安堵の表情を浮かべた。


「俺、今日も疲れたからもう寝たいんだけど、唯はまだ寝ないのか?」


「私はまだ大丈夫だけど、お兄ちゃんが寝ちゃうんだったら意味ないから、もう寝よっかな」


「分かった」


 そう言い電気を消し布団に入った。


「お兄ちゃん?」


「何だ?」


「デート楽しみにしてるからね♡」


「ああ、でもその前に明日の学校を乗り切らなくちゃな」


「早く土曜日にならないかなぁ、朝起きたら土曜日だったってなったら良いのになぁ」


「あと1日だろ、頑張ろうぜ」


「それが長いんだよぉ」


「頑張ったら、好きなとこ連れてってやるから」


「う、うん、なら頑張る」


 よしよしと頭を撫でると、唯が擦り寄ってきたのでこれ以上はいろいろとヤバイと思い少し距離を取った。


「じゃ、じゃあ、そろそろ本当に限界だから寝るね、おやすみ」


「うん、おやすみ……お兄ちゃん」


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