ぶつかり合う愛の火花
緊張状態の中、突然、唯が「うぅー!」と大きな声を出して伸びをした。
「よし!」
そう言うと、唯の表情がいつもの可愛い笑顔に戻った。
俺といのりは唖然としている。
「どうしたの唯ちゃん?」
「私決めた。お兄ちゃんを何が何でも落としてみせる!妹としてじゃなくて女の子として好きって言わせてみせる」
いきなりのカミングアウトに開いた口がふさがらない。
そんな俺を他所にまるで売り言葉に買い言葉の如くいのりが言った。
「そう、なら私も、何が何でも空くんを落としてみせるから!友達としてじゃなく彼女として好きになってもらうもん」
すでに2人とも火花を散らしており勝負は始まっているようだ。
こうなってしまったのも、自分が優柔不断なせいであるため、2人に意見することができない。
そうこうしていると下校のチャイムがなった。
「2人とも、今日はその辺にして帰らないと……」
ジッ、2人同時に睨まれてしまった。
「お兄ちゃん、今日からは私と帰るって約束したから、もちろん私と帰るよね?」
「あぁ。そうだな」
ストーカーの件もあるし唯と帰ることに異論はない。
「空くん……私は、一緒に帰っちゃダメなの?」
「ダメです!!」
唯が即座に返事した。
「むっ、私は空くんに聞いてるの! ねぇ、私も一緒じゃだめっ?」
いのりがいつもとは違う、可愛いさの中にも艶めかしさがある表情で聞いてくる。
チラッと唯を見るとムッという顔をされた。目で物を言うとはまさにこのことだ。
「ごめんな、今日は唯と帰るって言っちゃたから、今日は唯と2人にしてくれないか?」
そう言うと唯が嬉しそうな顔をした。一方のいのりは非常に残念そうで少々気の毒だ。
「まあ、空くんが言うそういうならワガママは言わないけど、明日からは私も入れてね」
唯の了承を得るためもう一度唯を見た。だが、またもやNOという表情をされた。
「おい、唯、流石にそれはちょっと酷いんじゃないか?」
「お兄ちゃん、いのりさんの味方するの?」
俺が返答する前にいのりが答えた。
「そんなに心配しなくても、大丈夫よ、毎日一緒に帰ろうってわけじゃないから」
「どういうこと?」
「委員会とかの手伝いとかで放課後残らないといけなかったりするから」
「そうなんだ……」
「そう、だから、1日か2日くらいしか帰れないと思うわ」
それでも唯はまだ迷っているようだった。
俺は唯の図々しさに少し驚いた。それだけこの勝負にかける思いが強いのかもしれないが……
少々いのりが不憫に思えたので、唯に一つ提案することにした。
「唯、ちょっと来てくれ」
「なに?お兄ちゃん」
「ちょっと耳を……」
「う、うん」
俺は小さな声で「もし、1日2日だけでも、了承してくれるなら、毎晩一緒に寝てあげてもいいぞ」と言った。
流石の唯も少々驚いたようだ。
そして、唯の目が輝いた。と思ったら即座に
「いのりさん、1日2日くらいなら一緒に帰ってもいいですよ」
「ん?どういう風の吹き回しかわからないけど、ありがと♪」
「とりあえず、丸く収まったみたいで良かった」
これで何とか下校できそうだ。
だが、さっきから唯のニヤけが止まらない。
「お兄ちゃんと寝れる♪お兄ちゃんと寝れる♪」
「おい、あんま大きな声では言わないでくれよ」
「えへへっ♡」
唯の機嫌も良くなったし、とりあえず良しとするか。




