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コバルトブルーは輝けない

一つの価値観しか見いだせない私はその場でとある人物を待ちぼうけしていた。雪のある日、彼女は天真爛漫にも―――。




「やあ!お爺さん!待ってた?」




氷の彫刻か?…否、其れは違う。彼女は妖精である。

生きる希望も無い、蜉蝣のようなこの私に箴言を教えてくれた教師でもある。帝胤のような素晴らしいお方であるわけでは無いが、やはり考えさせられるような言葉を残してくれた。




「…嗚呼、私は…待ってないよ」





「嘘。足が少し凍ってるよ」





須臾此処で待っていたことがあっけからんと分かられてしまう。

確かに縁側の外に放り出された私の足には雪が纔かながら付着している。

負の饞嗜の感情を煮えたぎらせ、良心と言う正の感情に靄靄が立ち込めていた。

礱礪した目で何度も見返した。―――そこに残った私の感情は一体何なのだろうか。やはり嘘吐きの嚢時の残照…記憶か。





所詮、私は病竈である。老いぼれの此の私に興味本位で近づく者などこの里には存在しない。こんな濔迤な文章を書いている身だ、暇を持て余す私に近づくものなぞ物好きな彼女しか存在しないのだ。

笑顔を口元に浮かべ、朽ち果てた虚構に身を置いている私の右手を握ってくれる彼女は、何時ぞやの孫娘を思い出す。

彼女は私と比肩してはいけない程、彝を秉るような人物だ。実際にも優しく、こんな私にも丁寧に接してくれている。




嫠緯を恤えへず…杞憂を指し示すこの私は、何の為に生きているのだろうか。

私の家を里と言う空間から隔てる籬牆を眺めていた私の上に、彼女は座椅子にするかのように座る。

暖かな温もりが伝導して私の身体に移っていく。寒い冬であるからこそ余計である。




「…えへへ…あったかーい!」




私が孫娘と別れてから何年の日が経ったものか。

敷衍した安穏は、何処か私を安心させるが…一番近い存在がいない今、それを取って代わるように彼女が存在している。

蒼くて大きなリボンを頭につけて、さらさらした髪を皚皚とした天気に靡かせて―――。





何時私は天に向けて仆臥するのか。

妖精は自然の摂理が守られている限り、永遠に生きるという。

同じ命でも、重たさや意味が異なるのを感じた以上…不覺は心の中を巣食い、そして世界に問いかける―――。




―――異端駁論。

アドウェルスス・ヘレセスと称させる著作は、エイレナイオスが示した駁論である。

不合理性の立証をキリスト教の基に示したものだが、異端思想としては代表されるものである。

―――私は正しい思想なのだろうか。

この世界に生命の存を問うては、何も得られないのは明白だ。



―――生命は輝きを何時か失う。

しかし、彼女はそんな私に生命の在処を教えてくれたのだ。




「…おじいさん。…おじいさんは暖かいね」




「…ありがとのう」




感涙の感情を必死に心の中に押し込めて。

雨奇晴好の情景を瞼に並べて…丫鬟である彼女の暖かな掌に触れて。

生命への乞丐を示し、生きることに仍る私は何処か、考えに更けていた。

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