一つの決心
ドガァッ!!
オレが顔を上げた瞬間、遠藤徹平の平手打ちがとんで来た。
あまりの強さに、オレは1メートル先まで吹っ飛ぶ。
遠藤徹平は、いたずらが成功したときの様な笑顔で笑う。
「はははぁー!これで気がすんだ☆!!」
・・・まさか、マジな力で殴ってくるとは思わなかった。
オレは内心びびりつつ、力がない ということを思い知らされた気持ちだった。
「・・・本当に、すいませんでした。」
オレは心情を悟られないように笑顔をはりつけつつ頭をさげた。
「いやいやいやー!これでお互いスッキリしたし、そんなにかしこまらなくていいじゃん!!」
・・・お互い、スッキリ?
オレの頭を一つの疑問がよぎる。
しかし、その疑問はすぐに納得へ変わった。
・・・確かに。そういえば、何か遠藤に殴られて、スッキリした・・かも・・・・。
「また カツ 入れてもらいたくなったら、いつでも来い!!」
ニカッ、っと笑う遠藤徹平。
オレは嬉しくなった。元気が出た。心からの笑いがこみ上げてきた。
「・・・ありがとう!!」
そういうとオレは教室に向かっていっきに駆け出した。
キーンコーンカー・・・((以下省略))
手遅れだった。オレが教室についた直前、授業が終わってしまったのだ。
ちくしょう!これで今回の数学は赤点決定だぁ!!コノヤロー!!
オレは教室のドアを思いっきり開くと、中に足を踏み入れた。
クラス全員視線がオレに集まる。
―青樹じゃん。どこ行ってたんだ?
―まさかのさぼり、だったりして!
―まっさかぁ!だってアイツが授業サボるって今まで無かったじゃん。
―保健室じゃないかな?今日遅れたのは体調不良が原因だったし。
オレは居心地が悪い空気の中、席につく。
なんだろう。悠斗の顔が見れない。
オレは休み時間、いつも悠斗のところへ行っていた。
友達も特に仲が良いやつがいないからだ。
・・・あぁーなんか孤独だな。
オレは淋しい気持ちを顔に出さないように無理やり笑みを作った。
だって、もしここで少しでも落ち込んだ表情をすれば、アイツが、黒澤君が喜ぶだろ?
・・・そうだよ。タブンあの野郎のねらいはオレをクラスで孤立させることだ!!
オレは目だけで黒澤のいる席を見た。
彼の席にはたくさんの(クラスの半分以上の)男子が集まっていた。
みんな顔にほのぼのとした笑顔を浮かべている。
・・・よく考えれば、あいつはクラスに転校してきた瞬間から、周りに人がいたな。
オレはボォーっと考えていた。
日がたつにつれ・・・まだ2日だけだけど、だんだん黒澤の周りの男子の数が増えてるよな。あきらかに・・・。
もしかしたら、このクラスのヤツ等全員、一ヵ月後には、今黒澤の周りにいるヤツ等みたいになっちゃうんじゃないか?
オレは恐ろしい想像をしてしまい身震いする。
「・・・そ、そんなわけ無いよな!絶対に!!」
だいいち、オレは絶対にアイツのいいなりにはならないし!!!
オレは うんうん と大きく二回うなずく。
「おぉーい!水都~。」
その時だ。突然 伊藤華也がオレの真後ろから声をかけてきた。
「ど、どうしたの?」
オレが振り向くと、そこには伊藤華也の他に草木匠も立っていた。
首をかしげるオレに華也は得意げに一枚の二つに折られた紙を差し出してきた。
「・・・これ、何?」
オレはそれを受け取ると匠が顔をオレの耳元に近づけた。
「今すぐじゃなくてもいぃ。とにかく、人がぁいないところで読んで。」
二人は何事も無かったように去っていく。
オレは二人の背中を見送りつつ、立ち上がると教室を足早にでた。
トイレ――個室の中――
オレはそっと二つ折りの手紙を開いた。
そこにはきたない文字でつづられた十何行の文が書かれていた。
お前も気づいていると思うけど、今オレ等のクラスは黒澤にのっとられる直前だ。
ヤツが何を考えているのかは知らないが、とにかく、アイツの仲間になるのはやめろ!
今、オレから見て、生き残ってるのは
伊藤 華也
草木 匠
金沢 強
桜野 大介
青樹 水都
この5人だ。
他にもなってなさそうなヤツはいるが、スパイの可能性もある!
以上!気をつけること!!
・・・・・コイツはいったいなんだ?
文を読んで最初に浮かんできた感情はこれだった。
伊藤のやつ、何か黒澤への犯行デモ組織 とか作る気かよ?
オレは絶対にのらないぞ?
だって、5人VSクラスのその他の男子 とかって転回になりそうじゃねぇか!!
オレ力ないし・・・頭脳派でもないし・・・
オレはさまざまな想像をしつつ、トイレを出た。
これはいったいなんなんだ?って伊藤を問い詰めてやる!!
教室に入ったとたん、伊藤華也と目が合った。
そのまま彼のもとへ直行するオレ。
「こ、これってどういう意味?」
オレの問いに対し、華也は答える。
「意味?そのまん~ま!ただ、気をつけろってことだけだよ!!」
華也は赤毛のように見える茶色の髪の毛をつまんだ。
・・・そのまんま・・って。
「じゃ、じゃぁ、単純にコレを頭に入れておけ。ってことでいいのかな?」
オレは笑顔を作った。
いつも、クラスで仲がそれほどでもない連中と話すときはこうなのだ。
華也はオレの髪をもう片方の手でつまむと同時にうなずいた。
「そそ。それだけだから~あんまり気にしない!!」
「はははー。分かった。」
・・・・髪さわるなよ!!
オレは少し乱暴に自分の髪から彼の手を振り払った。
・・・これで、コイツに用はなくなった。
自分の机へ向かうオレ。
・・・本当に困っちゃうよ!
どうしてみんなオレの髪をいじってくるんだよ!?
オレの髪はそんなにキレイでつやつやなのか?
・・・・・本当に、訳分かんねぇ!!
オレはムカムカをおさえようと深呼吸した
・・・どんなことがあったとしても、誰がどうなろうとも!
オレは絶対にアイツの言うことをきかない!!!・・・
一つの決心を胸に、オレは席に座った。