絶望の歌
俺たちは千年前に女神が降臨したといわれる聖地を目の前にしていた。
2日前、空が急に暗くなったと思うと光の玉がふってきた。この聖地と呼ばれる神殿は方角的には、光の玉が落ちたところに近い。
なんかの古代文明の壁画みたいなのが壁一面に描かれていて、俺でもわかるくらいに魔力が満ち溢れていた。
「女神様ってのはどこにいんだろうな」
滝口がなんの躊躇もなくその中に入っていった。続いて俺と西も中に入っていく。
神殿の中はとても暗く、冷たい空気が肌に当たる。どうやらとても広いようだ。さっきからいくつもの分岐点があったが、滝口は迷わずに進んでいく。
なぜ迷わないのかと西に聞くと、滝口は魔力の探知能力が優れているらしく魔力を辿って進んでいるのだという。どうりで俺の幻も簡単に見抜くわけだ。
かなり進んだところで、滝口は急に足を止めた。
「どうしたの、香奈?」
西がそう聞いても滝口は何も答えない。殴られそうだったが俺が顔を覗き込むと、滝口は何かに恐れているようだった。暗がりでよく見えなかったが、肩もすこし震えている。
「死神だ……後ろから1体近づいてきてる」
「んじゃ倒そうぜ」
「無理だ! あんなのとやりあったら一瞬で殺られちまう」
今まで死神に2度遭遇したことはあるが、いつもは余裕綽々な滝口がこんなになったことは一度もなかった。どうしようもなくなり、西と俺は各々の魔道具に魔力をこめ始めた。
「やめろお前ら! 逃げるんだよ、早く!」
滝口の必死の叫びがむなしく響き渡り、次の瞬間黒い球体が俺と西を遥か後方に吹き飛ばした。
「ぐうっ!」
いてえ、モロにくらった。西は持ち前のタフネスで何とか立ち上がったみたいだが、俺はちょっと立ち上がれそうにない。
「あれ~、久しぶり千石君。僕のこと覚えてるかな?」
どこかで聞いたことのあるような声だった。それにどこかで見たことのある風貌。
西の方から火の玉が飛び、その死神に直撃した。煙が上がり、視界が悪くなる。
鈍い音がした人のうめくような声も聞こえた気がした。
「イヤーーー!」
滝口の悲鳴が聞こえる。煙が晴れてくると、俺はすべての事態を飲み込み悪夢を見せられているような気分になった。
――そこには腹に大穴をあけられ、白目をむいている西の死体があった。そして、今にもその西を喰おうと、口を大きく広げている死神。そこにはあいつがいた――
――あの事件の3日後、オレたちは旅に出た。あの夜襲ってきた怪物は、確実にマイを狙ってきた。他の人間に対しては執拗に追いかけてきたりはしなかった。だがマイだけには違った。執拗に追いかけ、助けに入ったオレをただ吹き飛ばし、挙句の果てには喰おうとしていた。
異世界の住人は災いをもたらす――あの事件のあと、みんなのマイに対する視線が変わった。表面上はいつもとあまり変わらないようだったが、マイの周りから人がいなくなっていった。それは、異世界人の証である魔道具を見につけたオレも同じだった。
皆に迷惑はかけられない。俺たちは自ら旅に出る決心をした。
「ねえ! 聞いてるのシン!」
「え? あ……すまん、なんだっけ?」
「だからあ、女神様ってどんな人だったの? あたしに似てたとか言ってたけど……」
「ああ女神ね。似てたよ、お前が町に来たときの服と。まあ、可愛さは断然あっちの方が……。ぐっ!」
かなりいい感じにマイの拳がみぞおちに……。
「シンの記憶に元の世界に帰る方法……はぁ、やること多すだよ……」
「うだうだ言っててもしょうがねえだろ。それに、俺の記憶はどうでもいいって」
「でも、女神様ならどっちも何とかしてくれるよね」
この世界のことは何もわからない。だったら創世の女神アルテミスのとこに行くくらいしかオレたちは思いつかなかった。俺たちは女神の手がかりをつかむため、二千年前に女神と共に世界を救ったといわれる勇者が封印されている祠に向かっていた。
ーー祠に着くと、そこには、目を覆いたくなるような光景が広がっていた。
強烈な腐臭。そこには、まだ完全に白骨化していない屍が大量に転がっていたのだ。
マイは青白い顔をして、その場に座り込んでしまった。
俺は恐ろしくなり、一歩後ろに下がってしまった。それでも、震える脚をムリやり動かし、マイを引っ張ってその祠の中へ入っていったーー。