第20話 田中凪さんの過去は重いらしい
「他のタワマンの施設も面白いですね」
「ええ、違うコンビニに違うスーパー、ある意味で良い住み分けね」
「気分転換には良さそうです、個人的には駅弁売ってるスーパーが当たりかな」
とまあ手始めに近所のタワマンや商業施設を巡ってみた、
衣料品専門店もあったりして互いにタワマンで足りない物を補完している感じ、
レストランなんかまさにそう、中華料理店は個人的に惹かれたが外食って出来るのかな。
(料理作って貰う身だから、勝手なことは出来ない)
夕食前に肉まん食べ過ぎて、
メイドに冷たく怒られた小学生の思い出。
「公園もあちこちにあるの」
「川沿いの良い所ですね」「海沿いって言っていいかも」
「あー、もうこのあたりまで来ると」「あのあたりに座りましょう」
落ちついて田中凪さんを改めて見る、
ピアノ教師のようなピンクの長袖な服に、
濃いクリーム色の長いスカートはまさに大人の女性だ。
(こんなお方が、僕の婚約者……)
思わずゴクリと唾を呑む。
「あら、自動販売機でお茶でも」
「い、いえ良いです、凪さんの方は」
「まだ大丈夫よ、海風が気持ち良いわね」
大人オーラが凄い、
さっき商業施設でゲームセンターに入りかけたが、
凪さんと入るには場違いな感じがして控えた、いや考えすぎか。
「それで、今日は見て回っているだけだけど、行きたい所はあったかしら?」
「行きたい所だらけです、ただこれでも本当にご近所さんだけなんですよねまだ」
「ええ、私の行きたい映像ミュージアムはもうちょっと先ね」「そんなのが」「お休みの日に行きましょう」
長い黒髪が風になびく、
ほんのりと香水の良い匂いも……
どうしよう、僕なんかが婚約者で本当に良いのだろうか。
「その、凪さん」「何かしら?」
「僕、その、そもそも僕で良いのでしょうか」
「もちろんよ、一緒に行くためにあえてまだ行ってないの」「あっ、ミュージアムのことではなく」
もっと前のというか、
そもそもの問題だってちゃんと言わなきゃ。
「婚約のこと?」
「はい、ちゃんとした理由があれば」
「そうね、それを話すには、もっとお互い親密にならないと」
うん、今はまだ『婚約者』ていう称号だけだからね、
まだ実際には何も手に入れていないと言っても良いかも、
昨日の今日でまだ状況を把握しきれていない部分もまあ当然。
(そこを1人1人チェックしないと)
あと僕もチェックさてないと、
婚約者を見ている時、婚約者もまた、
僕を見ているのだから、ってこれ元ネタなんだっけ。
「僕に会ってみて、どうですか」
「そうね、率直な意見、恋の予感はしているわ」
「ええっ、いいんですかあ?!」「……あのね、重い話してもいい?」
急に表情が暗くなった。
「……話したい話でしたら」
「話さないといけない話なの」
「わかりました、聞きます」「私ね、婚約者がいたの」
……うん、間違いなく重い話らしい。
「別れた、んですか」
「私が原因でね、私が裏切ったの」
「……結果的に、ですか」「言い訳は出来ない感じよ」
何があったんだろう、
ただ、積極的に聞きたいとも思えない。
「それで別れちゃったんですか」
「私が日本に帰った日が、婚約者の結婚式だったわ」
「本来の、式を挙げる」「ううん、元婚約者と、違う女性の結婚式」
えっ、それだけ聞くと、
彼氏さんが違う女と浮気したみたいだけど。
「あっ、ひょっとして凪さんが」
「裏切ったの、詳しくは、まだ言うには覚悟が要るから、もうちょっと待って」
「……今、言える最大限を教えてくれたんですね、ありがとう」「だからこれは、私にとって最後のチャンスだと思っているの」
そんな大げさな、
凪さん程の女性だったら、
お見合いでもすれば相手ならいくらでも……
(でも、ここで火傷の痕がネックになるのか)
このあたり、
裏切りと関係性はあるのだろうか?
でもなんとなく、これ以上は聞けない気がする。
「僕なんかにチャンスだなんて、まだ15歳だし」
「私は大丈夫よ、私は、だからお願いがあるの」
「はい」「3年間だけでも、恋をさせて欲しいの」
そんな、余命3年とかじゃないよね?
「恋するのは自由っていうか、婚約者だし」
「嬉しい……じゃあこれから3年間、よろしくね涼一くん」
「お、お願いします、凪さん」「さあ、腕を組んで帰りましょう♪」
重い雰囲気から一点、
明るい感じになってくれた、良かった。
(凪さんの過去、裏切りかぁ)
内容が想像もつかないけれども、
きっと何か理由があって仕方なく、
だと思いたいな、だっていかにも才女って感じだもの。
「……あっ、ちょっと恥ずかしいかも」
「凪くん、私もよ」「でも腕は解かないんですね」
「もっとくっついちゃお」「い、いや、うん、まあ、部屋までは」
なんだか、くすぐったい。




