第12話 父さんはもう帰っちゃうらしい
コン、コン
「涼一、私だ、行くぞ」
「あっ父さん、もう夕食ですか」
「いや私は食べた、大阪へ戻る」「えええ」
外はまだ夕方だ。
「もう帰っちゃうんですか」
「そうだ、少し出る準備をしろ」
「あっはい」「カードを忘れずにな」
入構証か、
一応は外出着に急いで替えて、
首からカードをぶら下げて部屋を出る。
(完全にビジネススタイルの父さんだ)
一緒に玄関から出ると、
1階への特急エレベーターへ、
中に入ると、とりあえず2人きりの会話。
「どうだ部屋は」
「あっはい、ありがとうございます、凄く良い部屋です」
「窓際だからな、向かいは窓が無い」「あっ、そうだったんですか」
じゃあ僕以外、3人は窓アリで3人は窓無しかあ、
隣の景香お姉ちゃんはアリで、確かに橋本さんの部屋は無かった、
ポールダンス用のポール設置が何か関係しているのかも知れないけど。
「婚約者LINEを造ると良い、というかもう造ってあるらしいが」
「そんなのがあるんですか」「それとは別にウチの会社のLINEがあってだな」
「僕はそこには」「業務用だ、逆に婚約者用のに私は入らない」「そこは公私は分けるんですね」
とはいえ、
その婚約者を集めてくれたのは父さんである。
「その、僕なんにもしてないのに」
「子供が何を言う、そのあたりについても説明しよう」
「まだ1日ですけど、皆さん良い人なのがよくわかります」「そうだな」
それこそ父さんの言っていた通り、
一部外見だけで選ぶなんて事の無いようにしなくっちゃ、
とかなんとか話していると1階に到着、またコンシェルジュさん、だっけ、にお願いする。
(今度は簡単な手続きで済みました!)
ていうか2回やらされて、
カードも更に2枚だ、合計3枚、多いな、
さすがに3つ首からぶら下げるのはおかしいからポッケに仕舞っておこう。
「では上がるぞ」
「はい、って今度は鈍行ですね」
「29階だ、さすがに最上階ほど広くは無いが4LDKになっている」
時間をかけて到着すると、
玄関の前になぜか爆乳眼鏡さんが、
いや野沢麗さんが待っていた、えっ彼女も入れるの?!
「ここはまだ何も入れていない、涼一のプライベートハウスだ」
「あっはい、上程では無いにしても、普通に広いですね、いや本当に何も無い」
「一応、一番奥の部屋にベッドとテーブルだけ、あとダイニングに冷蔵庫はある」
うん、窓のある部屋で綺麗だ。
「ええっと、こっちはどうすれば」
「男の子だ、1人になりたい事もあるだろう、
1人で何かしたい時に、している時にノックされても困るだろう」
まあ、健全な男子ですから、
だったらこっちにもPCが欲しいかも。
「また2人で何かしたい時も、こっそりこちらへ連れて来れば良い」
「ちょっとそれは僕には難易度高いかも」「もちろん上の部屋でやっても構わないが邪魔が入っても知らないぞ」
「いくら婚約者でも、まだそんな気には、お互い」「女性側は問題ない、むしろ婚約者の部屋に2人きりで入ると押し倒されるぞ」
えっマジで?!
「いやそんな」
「もし2人っきりでって誘われたら、そういう事だと思え」「えええぇぇぇ……」
「年上の女性の部屋にホイホイ入れば、鍵をかけられて捕食されても文句は言えない、婚約者なら尚更だ」
そんなに肉食なのー?!
れいさんは恥ずかしそうにしているけど。
「逆にあれだけの人数の女性と同棲だ、女性当たりというか女性酔いというか、
1人で静かに過ごしたい時の避難所でもある、嫌なことがあったら些細なことでも言ってくれ、
ただ今回集めた女性たちの、コンセプトをはっきり伝えておく、意図と目的だ」「あっはい、お願いします」
僕も少し思う所はある、
高校生の婚約者にしては、
従姉は別にして、ちょっと年上過ぎると。
「まず改めて謝罪させてくれ、中学時代に、正確には小6の頃からだが、
集めたメイドが私の指示通りにはやってくれなかったようだ、本当に済まない」
「いや、あのおばさん達は本当に良く」「だが『情』の部分が絶望的に欠落していただろう」
まあドライだったけど、
メイドってそういうものでは。
「僕があんまり私的な話題を振らなかったっていうのもありますし」
「私が彼女達、特にメイド長に命令したのは『しっかり母親代わりになってやって欲しい』だ」
「それはそれで文句なくやってくれていましたが」「だが母親としての情は」「メイドだからそれが当たり前かと」
あくまで事務的、
でみ最低限どころか『仕事』としては過分にやってくれたくらいだ、
でも確かに主従関係の影響か、家族として見る事は最後まで無かったかな。
(メイド長以外は、お別れパーティーで普通に笑ってたけどメイド長にちょっと気を使っていたな)
かといって、
嫌な思い出とかは無いのだけれども。
「まあこれは、はっきり指示しなかった私が悪いのだが、
もっと母親として褒め、母親として叱り、母親として甘えさせて欲しかった」
「えっメイドですよね?」「リクエストは『メイドであり母親』だ、だがメイド長はわざと意味を取り違えた」
このあたり、
まあ僕の意思はっていうのもあるけど、
ここはとりあえず素直に聞いておこうっと。
「実はわざと冷たくした?」
「というより、わざと暖かくしなかった、
このあたりは契約が残り1年の頃、他のメイドによる証言で初めて知った」
そういえばお別れ面接みたいなの父さんしてたなあ全メイドに。
「でもあのおばさ、メイド長にそこまでの仕事は」
「それも込みで高い給料を払っていた、これは契約終了間際に問い詰めて白状させたのだが、
どうも『金持ちの息子は我儘で調子に乗るスケベ』という偏見があったらしい」
えええぇぇぇ……それは酷い。
「僕、そんなことしましたっけ」「以前、昔そういう坊ちゃんのメイドをして嫌な思いをしたらしい」
「だからって」「一番最初に会った時『何でもしますからお任せ下さい』と言っていたのを真の受けた」
「まあ、僕のして欲しい事はちゃんと、料理のリクエストとか」「もっと『情』を持って接して欲しかった、私の監督不足だ、済まない」
とはいっても、
あのおばちゃん連中が、
特にあのメイド長さんが、
『私がママですよ~甘えていいのよ~』
とか来ても普通に引く。
「あっ、じゃあ今回の婚約者たちは」
「そうだ、1年かけて集めた今回のお手伝い、婚約者のコンセプトは、
いわば『母であり姉であり恋人であり続ける妻』になれる女性たちだ」
なんだか、凄い事になっちゃってるなぁ。




