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脈が無いので諦めてみた

作者: 青空のら
掲載日:2026/02/04

 あとがきに一編あります。

 興味のある方はぜひ。

 小さな頃から、好きだという気持ちを素直に口に出して来たのだが、どうやら無駄な努力のようだった。

 他に気になる男ができたと言うので十年に及ぶ初恋にピリオドを打ち、諦めることにした。

 さて、手始めに何をすればいいのだろう?


 電話番号を消す?

 記憶と履歴をみる限りはかかって来たことはない。

 つまりは完全な一方通行。迷惑しか掛けていなかったのかもしれない。

 今思えば最低だった。


 あの頃の自分は、本気で人生もあの子の気持ちも変えられると思い込んでいた。


――――


 僕には好きな子がいる。近所に住む西川咲良、いわゆる幼馴染という関係にある。

 保育園時代に仲良くなって以来、寝ても覚めても咲良のことばかり考えていた。当時の咲良は引っ込み思案で友達も少なかったので積極的に声を掛ける僕と遊ぶことが多かった。まだ幼く男女の区別がない世代なのもあり、二人仲良く遊んでいても誰も何も言わなかったのも良かった。


 しかし、小学校に進学し年齢を重ねるにつれて男女で一緒に遊ぶことが少なくなり、僕たちの間にも少しずつ距離ができてきた。

 朝の迎えは拒絶しないけれど、放課後に一緒に帰ることも、一緒に遊ぶことも無くなった。異性と一緒に遊ぶのは恥ずかしいと拒絶されたのだ。

 そして中学に進学すると休日に一緒に過ごすことも無くなった。


 その頃にはもう昔よく遊んだ顔見知りのただ幼馴染になってしまった。

 それでも諦めきれないので好きだと言う好意は伝え続けていた。

 あの瞬間までは――


 僕の誘いは毎回断っているのに先週末クラスメイトの達川と一緒に街に出掛けたことは知っていた。

 そういうこともあるさと納得もしていた。


 放課後に一緒に帰ろうと声を掛けに咲良の教室に向かった時、教室内から咲良とその友人橘みちるの声が聞こえてきた。


「達川君とのデートはどうだったのよ?」

「デートとかそういうのじゃないから!もう揶揄わないでよね」

「はいはい、でも一緒に出掛けたんでしょう?」

「クラスの買い出しに付き合ってもらっただけだよ。その帰りに一緒にお茶飲んだくらい」


 見つからないようにそっと近付くと教室には二人しかおらず、そのためによく声が聞こえてきた。


「楽しかったんなら何よりだよ。たまには幼馴染の黒川君にも付き合ってあげればいいのに。あれだけアピールしているんだから一度くらい付き合ってあげたら? 逆に脈が無いんならきっぱりと断るのが優しさってものだよ」

「だって今更恥ずかしいよ」


 見つからないようにしているので、こちらからもあちらからもお互いに姿が見えない。ただ二人の声が聞こえてくるだけだった。


「それに彰人は背も低いし――」


 ただの事実、特に気にせずに普段なら聞き流していた言葉。咲良が僕との関係を揶揄われた時によく口にする言葉。

 しかし、その日は違った。


 その言葉を聞いた瞬間に胸の内から何か憑き物が落ちた気がした。

 膨らんだ風船が針で刺され破裂したかのように、弾け飛んで消えた。


 たかが容姿のこと、内面を貶された訳でも何でもない。

 しかし僕がいつも咲良を誉めているのは外見、容姿のことが大半だった。


 なぜ、咲良の内面を誉めない?

 優しかった咲良。いつもそばにいてくれた咲良。

 いつの間にか距離ができて僕が一方的に追いかける関係――


「――一緒にいて弟と間違われると可哀想でしょう?」


 だんだんと咲良の声が遠くなると、ついには聞こえなくなった。

 完全な静寂の中で自分の声しか聞こえない。


 155cmの咲良と、中学三年にもなって150cmしかない僕とだと並ぶと弟に見えても仕方ない。

 咲良の優しい気持ちから出る言葉なのだろう。でも実際にはその言葉が刃のように僕の心に突き刺さり傷をつける。


 咲良の外見ばかりを誉める僕が外見を非難されて傷つく。あまりにも滑稽だ。

 内面を見てくれ? 咲良の内面を誉めない僕が言っていいのか――


 しかし、僕に人を非難する資格なんて――ない。

 そう思うとなぜか不思議な気持ちになった。


 どうして、ここまで咲良に執着していたのだろう?

 僕は本当に咲良のことを好きだったのだろうか――

 いや、本当はどうでも良かったのではないだろうか――

 わからない。答えは出ない――

 

 だって今は本当になんとも思わない。

 咲良にチビだと思われても何とも思わない。事実だし、決して間違ったことを言ってる訳でもない。


 ただ単純にチビはタイプではないと自分の気持ちを素直に述べているだけだ。怒るポイントなどどこにも――ない。


 ただただ咲良に選ばれなかった事実が、現実が僕の気持ちを急き立てて来るだけだ。

 ここにいたくないと――


 僕には他にすべきことが何かあったのではないか?

 それから逃げ出す口実に咲良を使っていたのではないか?


 十年そばにいて何も変えられなかった。

 何の努力をしてきたのだろう?


 もしかしたら咲良に嫌がられてすらいたのかも知れない。

 軽蔑されているのかもしれない。


 そう思うともはや何もできなくなった。

 もう普通の幼馴染に戻る時期が来たと素直に受け入れるべきなのだ。


 シンデレラは王子に出会う前に魔法が解けてしまったのだ。


 僕の心に咲良への未練が一片とも残っていないことに気付かされた。

 初恋は終わったのだ。


 翌朝、目が覚めると不思議なほど心が軽かった。

 僕はいつものルーティンを変え、咲良を迎えに行かず、反対の道を通って学校に向かった。


 かなりの遠回りになったが、いつもと違う新しい景色に遭遇した。

 こんな素晴らしい風景を知らずに見過ごしていたのかと、自分の視野の狭さに気づかされた。

 十年間、同じ道しか歩いてこなかったことに。


 一週間後、廊下で咲良とすれ違った。

 咲良は一瞬、驚いたような顔をしていた。


「あれ、最近見なかったけど、どうしたの?」

「勉強に集中してた」

「へえ、珍しいね。頑張ってね」


 ただ、それだけの会話。

 そして、最初から終わっていたのだと実感した。


 僕たちは最初から「ただの幼馴染」だったのだ。


 何もすることが無くなった僕は中学三年、受験生という立場を利用して勉強に逃げることにした。

 勉強に集中している間は他の何も考えなくていい。


 さらに咲良にかまけて何もしてこなかった僕には、全てのことがほぼ一からという状態で何もかもが新鮮だった。

 まさか小学一年の問題からやり直すとは思わなかったが――それでも新鮮で楽しくてやり甲斐があった。


 目標は高い方がいい。地域で一番の高校を目指してひたすらに勉強に打ち込んだ。

 そのまま咲良のことも忘れていった。

 廊下ですれ違ってもお互いに挨拶すらしなくなった。


 さようなら、僕の初恋。

 さようなら――

 僕に与えてくれた胸の苦しみは忘れない

 しつこいので一度付き合ってみた



 小さい頃からの幼馴染が好きだ、好きだとうるさい。

 いったい私の何を知っているというのだろう?

 一度付き合って別れればうるさくなくなるだろうか?

 そう思って付き合うことを決めた――


 ---


「咲良、おはよう! 今日も可愛いね」


「おはよう、彰人。相変わらず早いわね」


 玄関を開けると幼馴染の黒川彰人が立っていた。立っているというより、待ち伏せしていると言った方が近いかもしれない。


 家が近所で同じ学区のため、保育園、小学校とずっと一緒に過ごした。そろそろこの腐れ縁も切れてもいいと思うのだが、彰人は切る気も離す気もないらしい。


 いつもグイグイ来る。朝も約束しているわけでもないのに迎えに来る。


「当然だろ? 朝一番に咲良の笑顔を見ないと1日が始まらないよ」


 勝手に人を目覚まし扱いにしないで欲しい。


 学校でも付き合っていると誤解されることが度々あって、それを打ち消すのに一苦労している。彼氏でも作れば誤解されなくなるだろうけど、悲しいことにまだいない。なので今は彰人とセットとして扱われる理不尽に耐えるしかない。


 確かに彰人のことは嫌いではない。だが、好きかと問われるとどちらでもない、としか答えようがない。あくまでも弟的な認識でしかない。


「週末空いていたら一緒に街に遊びに行かない?」


「土曜日はみっちゃんと、日曜日は家族でお出かけの予定だから、今度また誘ってね」


「そっか、残念。じゃあさ、少し先になるけど花火大会か夏祭りのどこか空いていたら一緒に行かない?」


「花火大会に夏祭り? うん、じゃあ考えておくね」


 即答は避けて下駄箱で別れた。彰人は三組で私は一組だ。これでクラスまで一緒だったら気の休まる時がなくて発狂していたかもしれない。


 常にグイグイ来られても困る。私にだって一人のんびりしたい時もある。


 ---


「相変わらず仲が良いわね」


 教室に入ると、親友のみっちゃんこと橘みちるが声を掛けてきた。


「どこをどう見たらそうなるかな? いつも言ってるでしょう?」


「はいはい、懐かれてるだけで弟みたいなものだって?」


「そうよ。何度も言わせないでよね」


「咲良も満更じゃなくて?」


「もう!」


 拳を振り上げて本気だとアピールする。


「じゃあ、私が間に入って紹介するから、いい人いたら付き合う?」


 そりゃあ、是非もない。


「もちろんよ。どんな人? ねえ、どんな人?」


「紹介というか、学園祭の買い出しあるでしょう? 男子と一緒に行くやつ。あれ用事があるから変わって欲しいんだよね」


「何よそれ、完全に詐欺じゃないの!」


 そんなたわいもない話を楽しんでいた。


 ---


 一週間後の放課後も、みっちゃんと教室でとりとめない話をしていた。


「達川君とのデートはどうだったのよ?」


「デートとかそういうのじゃないから! もう揶揄わないでよね」


「はいはい、でも一緒に出掛けたんでしょう?」


「クラスの買い出しに付き合ってもらっただけだよ。その帰りに一緒にお茶飲んだくらい」


 男の子と会話することがめったにないので新鮮だった。幼馴染の彰人は自分の中では男の子の数に入っていない。だって仕方ない、幼馴染だもの。


「楽しかったんなら何よりだよ。たまには幼馴染の黒川君にも付き合ってあげればいいのに。あれだけアピールしているんだから一度くらい付き合ってあげたら? 逆に脈が無いんならきっぱりと断るのが優しさってものだよ」


「だって今更恥ずかしいよ」


 普段ですら距離が近いと揶揄われている。これでデートなんかしたら周りからなんと言われるかわからない。


「それに彰人は背も低いし――」


 そう、彰人は私より一回り小さい。気にすることではない。でも――


「――一緒にいて弟と間違われると可哀想でしょう?」


 本当は逆だ。私の方が大きく見られるのが嫌なのだ。


 コトッ。後ろの方で何か倒れる音がした。掃除用のほうきが倒れたようだ。男子が雑に片付けたのだろう。


 急に音がしたので二人揃って驚いた。そして顔を見合わせて笑った。年頃のせいか、何もかもが面白くて仕方がない。


 ---


 不思議なことに、その翌日から彰人のうざいような干渉がなくなった。


 朝の登校時も家に押しかけて来なくなった。予定を聞いてくることもなくなった。そもそも近寄ってくることがなくなった。


 不思議な違和感を覚えていた。


 そして一週間後、廊下で彰人とすれ違った。


 彰人は最初、私に気づかず通り過ぎようとしていたので、仕方なく私から声をかけた。


「あれ、最近見なかったけど、どうしたの?」


「勉強に集中してた」


「へえ、珍しいね。頑張ってね」


 彰人の返事がなかったので、会話はそこで終わった。


 以後、中学生を卒業するまで、クラスの違う彰人とは会話をすることがなかった。


 ---


 彰人と再会したのは高校に入学してからだった。進学先を聞いていなかったので、てっきり違う高校に進学したと思っていた。


 学年でも最下位に近かった彰人が、私と同じ高校に入学できるとは思ってもみなかった。地域でもトップに近い進学校と言われる学校に、まぐれでも入れたのならすごいと思う。ただ、高校の授業についていけるかは別問題だけど、そこは彰人の問題であり、私は関係ない。


「久しぶりね。元気にしてた?」


「ああ、元気だったよ。西川さんも元気にしてた?」


 彰人の言葉に、ものすごい違和感を覚えた。なぜだろう?


「うん、元気元気。そういえばしばらく見てなかったけど、どうかしたの?」


「ああ、本気で受験勉強してたからね。忙しくて」


「そう? もしかして――」


 自意識過剰かもしれないけれど、用心のために聞いておくべきだろう。


「私と一緒の学校に通うため、とか?」


 一瞬、彰人の呼吸が止まる音がした。


「あ、ああ。そうだね。西川さんと同じ学校に通えて光栄だよ。また今度暇があったら声でもかけて。じゃあ」


 逃げるように私の前から彰人は姿を消した。ストーカーしてる自覚はあるようだ。


 ---


 夏休みが終わり新学期に入った頃、女子たちの間で彰人の評判が上がっていた。


 奇妙なことに「格好良い」というのだ。確かに高校に入学してからの彰人はめきめきと身長が伸びて、もう170cm近くある。半年で20cm伸びるとか意味不明だ。


 でも、背が高いのと格好がいいのは別だ。


 優しいだとか、気づかいが素敵だとか言っているが、うざいとしつこいの間違いではないだろうか? 私の知っている彰人なら間違いなくそうだった。別人の黒川くんのことなのだろう。勝手に勘違いされては彰人も迷惑だと思う。私は間違えない。


 ---


 秋、文化祭の準備で実行委員として彰人と一緒に行動することになった。


 確かに、彰人は格好よくなっていた。これは小さな頃から知っている幼馴染としてのひいき目だから仕方がない。


 彰人の方も私を意識してか、少し気まずそうにしていた。


『たまには幼馴染の黒川君にも付き合ってあげればいいのに。あれだけアピールしているんだから一度くらい付き合ってあげたら?』


 なぜか、みっちゃんの言葉が頭の中に浮かんで消えない。


 好きでもないのに付き合うなんて出来ない。でも、それであきらめてくれるなら?


 私は決心して彰人に言った。


「付き合ってくれる?」


「ああ、いいよ」


「じゃあ――」


「足りない材料の拾い出しは全部終わったの? どの順番で店を回る? 効率的に回らないと」


 彰人は相変わらずの鈍感で、せっかくの雰囲気が台無しにされた。


「違うわよ!」


「何が違うの?」


 こちらを見る彰人の瞳はいたって冷静だ。普段見慣れていた熱が見られない――。


「私と付き合わないか、ってことよ」


「――ああ、そういう意味ね。一つ聞いていい? 西川さんは僕のこと、どう思ってるの?」


 私が彰人のことをどう思ってる? そんなの決まってるわ。


「小さい頃からの幼馴染。そうでしょう?」


「――ああ、そうだよ。それで間違いない。僕もそう思う。だから――」


 彰人が何か思い詰めたような表情をしてから、口を開いた。


「西川さんとは付き合えない。好きでもない人と付き合っても、お互いに――不幸にしかならないよ。ごめんね、付き合えないよ」


 なぜか、私が彰人に振られた。彰人に振られた? どういうこと?


 しばらく動揺と混乱を抑えることができずにいた。


 ---


 家に帰ってからも心の中のぞわぞわが落ち着かない。


 彰人に振られた。

 彰人のくせに。

 あれだけ私に執着していたのに、この手のひら返し。


 どうしても理解できず、頭の中で彰人のことばかり考えてしまう。


 そして、ついには学校で彰人の姿を見かけるたびに視線が追いかけてしまう。いや、彰人を探している自分に気がついた。


 あの彰人を探す?

 自分の行動が信じられなかった。


 彰人は幼馴染、弟のようなもの。なんとも思っていない。いや、逆にうざいし、しつこいし、一人にしてくれない――してくれなかった。


 いつからか離れてしまったのだ。彰人のくせに――。


 ---


 そして、私は知ってしまった。いや、目撃した。彰人が女子から告白されているところを。


「ごめん。付き合う気はないんだ」


 ただ、それだけの断り文句。実にあっさりしたものだった。


 告白した女子も、


「うん、ありがとう。残念だったけど、気持ちに踏ん切りがついたわ」


 そう言うと、晴れやかな姿で去っていった。


 告白って、そんなに爽やかなものだったかしら?

 イメージと違う現実を見せられて頭がバグっていた。


 しかも、それが三回以上繰り返された。当然、相手は別人だ。


 昼休み、放課後に中庭や屋上に行く彰人の後をついていくと、告白シーンを目撃してしまう。


 どうしてだろう?

 彰人は私のものだったはず?

 勝手に離れて、勝手に他の子とくっつく?


 今ひとつ理解できない。


 仕方ないので、一つずつ確認していく。


 まず、彰人は私のことが好き。そして、私につきまとった。ここまでは間違いない。


 なのに現状は私から離れて、他の女の子に色目を使い告白されている。


 どう見ても裏切り行為だ。


 さらに私からのデートの誘いも断った。彰人のくせに。


 ――私が彰人のことをどう思っているか。幼馴染、弟のようなもの、うざい、しつこい――すべてが過去のこと。では、今は?


 好き? 違う。

 少し気になる? そんな感じ。

 付き合ってくれと言われたら付き合う? 付き合ってあげてもいい。


 でも、彰人からのアプローチはない――そう、今はない。高校受験をきっかけに彰人と溝ができたのだ。悔しいが、それが現実。


 それならどうする――。


 自分から? いや、そんな――。


 ではこのまま待つ?

 ――彰人に彼女ができたら?


 それは嫌だ!


 ならどうする?


 答えのない堂々巡りに疲れ果てて眠り込んだ。


 ---


 翌日、私は放課後の屋上に彰人を呼び出した。


 すでに三人からここで告白されているのだから、呼び出した時点で察しているだろう。私も決心したのだ。


「ごめんね。西川さん、待たせちゃって」


 扉を開けて彰人が姿を現した。


「それで、あらためて用件って何かな?」


 私の前に立つ彰人は、すでに頭一つ背が高く、見上げる存在になっていた。


 ここで告白した彼女たちは、みんなまっすぐな瞳で彰人を見つめていた。ここで恥ずかしいからと視線をそらしてはダメ。必死で彰人の瞳を見る。


 しかし、やはり昔はあった私を見る熱を感じることはできなかった。


「あのね、彰人。私はあなたのことが好きです。今更なんだけど、私と付き合ってくれませんか!」


「ありがとう。気持ちは嬉しいよ」


「じゃあ――」


「だけど、付き合えない」


「どうして、中学まではあんなに私のそばにいたのに? 私のこと好きだったんじゃないの?」


「ああ、好きだった。大好きだと思っていた。でも今は――」


 彰人が言葉を切った。嫌な予感がする。このまま逃げ出したい。嫌だ!!


「好きじゃないんだ。昔の、あの切ないくらいの恋心を忘れないためにも、西川さんだけは付き合えないんだ。ごめん、勝手なことを言ってるのはわかっているんだ。でも、本当にごめん。付き合えないんだ。


 昔の自分を裏切りたくないんだ」


 そう言うと、彰人は後ろを振り向かずに去っていった。


 私は一人、混乱する頭のまま、その場に残された。

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― 新着の感想 ―
まぁ、良くも悪くもタイミングがずれてしまったね。 まだ二人とも思春期真っ只中だし、若干彼女の方が、 上から目線だったけど、 でも彼の方は、うまく切り替えられて受験に打ち込めて 進学校に行けたのだから良…
すぐに手に入るうちはいらない、どころかあることすら鬱陶しいと思ってたのに、いざ手に入らないとなると急に欲しくなる どんな場面でもよく見る光景だけど、それだけに哀れだな 人間関係なんて特に大事にしない…
 ふとしたきっかけで唐突に「気付く」のがリアル。  なんだろうねあの急に脳の回路が繋がって回り出す感覚。  気付いちゃったんだからしょうがないよね。  過去の自分、そして未来の自分のためにも取捨選択し…
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